第三話「初めての投稿、最初のアンチ」
——“見てもらう”って、どうやるの?
放課後の帰り道。
白瀬ヒカリはスマホを握りしめながら、ずっと考えていた。
「……体育館だけじゃ、意味ないよね」
神谷は見てくれている。
でも、それは“たった一人”。
アイドルになるなら——
もっと多くの人に見てもらわないといけない。
「……じゃあ」
立ち止まる。
答えは、シンプルだった。
「投稿するしかない、か」
その夜。
部屋の中。
昼間に撮ったダンス動画を再生する。
「……うわ、ぎこちない」
自分で見ても分かる。
動きもまだ固いし、笑顔も不自然。
でも——
「……これが、今の私だし」
完璧になるまで待ってたら、たぶん一生出せない。
深呼吸。
そして——
投稿ボタンを押した。
「……よし」
タイトルはシンプルに。
『高校生、0からアイドル目指します』
数秒後。
“投稿完了”の表示。
「……ほんとに、出しちゃった」
急に怖くなる。
誰も見なかったらどうしよう。
笑われたらどうしよう。
でも——
「……逃げないって決めたし」
ベッドに倒れ込み、スマホを胸に抱える。
そのまま、いつの間にか眠っていた。
翌朝。
「……ん」
目を覚まして、反射的にスマホを見る。
「……え?」
通知が、増えていた。
「いいね……17?」
昨日の時点では、0だった。
それが——17。
「……すご」
たったそれだけ。
でも、ヒカリにとっては大きすぎる数字だった。
「コメントも来てる……」
震える指で、開く。
『応援してます!』
『これからに期待!』
『頑張って!』
「……っ」
胸が、ぎゅっとなる。
「……見てくれてる人、いるんだ」
体育館の外に。
画面の向こうに。
確かに——“観客”がいる。
その事実が、嬉しくてたまらない。
でも。
スクロールした、その先。
『下手すぎて草』
『アイドル舐めてる?』
『これで投稿するとかメンタル強すぎw』
「……あ」
指が止まる。
心臓が、ドクンと鳴る。
目が離せない。
『正直、見ててきつい』
「……っ」
胸に、冷たいものが落ちてくる。
分かってた。
こういうのが来ることも。
でも——
実際に見ると、こんなに刺さるんだ。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
スマホを閉じる。
見なかったことにしたくなる。
逃げたくなる。
でも——
『途中でやめなかったのは、嫌いじゃない』
ふと、あの言葉が頭に浮かぶ。
神谷の声。
「……」
ゆっくり、もう一度スマホを開く。
コメント欄を見る。
「……下手で何が悪い」
小さく呟く。
「0からなんだから、下手に決まってるじゃん」
むしろ——
「ここから上手くなればいいだけだし」
指を動かす。
新しい投稿画面。
そして、短く打ち込む。
『まだ下手です。でも、絶対上手くなります』
送信。
「……よし」
怖い。
でも、それ以上に——
負けたくない。
その日の放課後。
体育館。
「……見た?」
ヒカリが聞くと、神谷は壁にもたれたまま頷いた。
「まあ」
「……どう思った?」
少しの沈黙。
そして——
「いいんじゃない」
「え?」
「ちゃんと叩かれてる」
「それ褒めてる!?」
「無風よりマシでしょ」
「……う」
言い返せない。
「それに」
神谷は少しだけ視線を向ける。
「ちゃんと返してたじゃん。“上手くなる”って」
「……見てたんだ」
「そりゃね」
その一言で、胸が少し軽くなる。
「……じゃあさ」
ヒカリは一歩前に出る。
「もっと見せる」
「は?」
「もっと上手くなって、もっと投稿して、もっと見てもらう」
止まらない。
もう止まらない。
「“下手すぎ”って言った人たちに——」
まっすぐ前を見る。
「“最初から見ててよかった”って言わせる」
神谷は一瞬だけ目を見開いて——
「……大きく出たね」
「いいでしょ。アイドルなんだから」
そう言って、ヒカリは笑った。
まだぎこちない。
でも——昨日より、確実にいい。
「……じゃあ」
スマホをセットする。
「次、撮る」
「もう?」
「今やる」
再生ボタンに指をかける。
その目は、もう迷っていなかった。
観客0から始まった物語。
今は——
画面の向こうに、少しずつ広がっている。
そして——
まだ見ぬ“誰か”も、この先きっと現れる。
味方か、敵か。
それは分からない。
でも——
全部、ステージに変えてやる。




