気遣いで出来た幼馴染
——今日は部活のヘルプに行ってくるね
——あ、放課後委員会の手伝いあるんだった
——ゴミ捨て手伝うよ
私の幼馴染は、昔から皆に頼りにされている。彼は昔から人の小さな変化や気持ちに気づき、さりげなく手助けをしてくれる、そんな優しい人だ。それを彼に伝えると顔を背けて頰を掻くので、自覚はないのだろう。自然と気遣いをすることは誰でも出来るわけではない。だからこそクラスメイトに頼られ、先生からの信頼を得ているのだ。
いつしか彼とは学校で話さなくなってしまった。それはいつでも話せるからというわけではない。話す機会がなくなってしまったのだ。彼は常に誰かのために行動している。その「誰か」の対象は誰に向けられているわけでもない。目の前にいる「誰か」である。そんな彼を引き留める時間など私には許されていない。私が許さない。
だって私は、彼のそんなところに惹かれたから。彼のその一面を護れるなら、私は彼を縛る時間を一秒も作らないと決めた。笑顔が他者に向いていると胸が締め付けられる。彼の顔を見れないと心に穴が空いたように感じる。でも彼の笑顔を見れるならそれでいい。それが私の一番だ。
そんなことを考えているからだろうか。私は彼のことをずっと目で追ってしまっているらしい。ほら、今も。彼が心配してしまうことは分かっているのに。
——どうしたの?大丈夫?
そんな顔で見ないでよ。私の決意が崩れちゃうじゃん。今すぐ引き留めたくなっちゃうじゃん。
でも大丈夫。長年の経験値がある私だからこそ耐えられる。彼の目の前にいる「誰か」として適切な距離感を取ろう。
彼の離れていく背中を見ていると、徐々に現実に引き戻されていく感じがする。それほどまでに彼との距離が開いているという事実に胸が痛んだ。
それでもいつか気持ちが通じればいいのに——叶いもしない、叶っちゃいけない願いが心に広がっていく。
——消しゴム落ちてるよ
彼の笑顔を見て、胸に針がいくつも刺さるような痛みに襲われた。あれ?そういえば彼の笑顔が私に向けられたのはいつが最後なのだろう。なぜ私の前では困った顔ばかりしているのだろう。
その事実に涙が流れて途切れなくなる。それでも彼のことをじっと見つめていた。彼は必ず心配してしまうのに。
彼の足音が近づき、目を合わせて頭を優しく撫でてくれる。そのとき気づいた。向けられた彼の視線が特別だと感じさせてくれる。——私は彼に心配してもらいたかったのだろう。




