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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

実話怪談にツッコミを入れる不謹慎な私!?

作者: すっとぼけん太

夏だ! 怪談だ! 実話だ! ……のはずなのに。


ホラー大好きな私、推し監督は清水崇とジョージ・A・ロメロ。

『実話・恐怖ファイル』なんてやってたら、条件反射でチャンネルを固定。

夏の夜は、テレビもYouTubeもアマプラも怪談だらけ。


冷房ガンガンの部屋、アイス片手に夜更かし――そして毎回、叫ぶ。



「おーーーーい!! これ、実話だよなぁ!?」


だって冷静に考えると、“実話怪談”っておかしいとこ多すぎない?


「本当にあった……なかった話?」

「実話っていうジャンルの作り話?」

もうええわ! …ってテレビに向かって言ってる私の方がホラーやろ。


幽霊より、怪談世界の体験者(主人公)の行動パターンの方がよっぽど怖いわ。

むしろ私は、この“矛盾だらけの世界”を愛しすぎて、ツッコまずにいられない。



① 頭パックリ出勤マン 〜幽霊パンチは労災ですか!?〜


先週、雑誌編集部に差出人不明の封筒が届いた。

中には古びた便箋――インクは滲み、文字は震えている。


「助けてください。

 ○県の山奥の村の墓地で、友達がいなくなりました。

 信じてもらえないかもしれませんが、これは本当の話です」


普通の記者なら、見なかったフリして他部署に回す案件。

でも怪談好きの私は「お任せください!」と即答。

カメラとノートを鞄に突っ込み、電車とバスを乗り継ぎ現地入り。


夕暮れの村は異様な静けさ。空き家だらけ、割れた窓ガラス、背後からの足音。

振り返ると――薄汚れた白装束をまとい、片目が白く濁った老婆が立っていた。


「……帰れ……いますぐ……帰るんじゃ……!」

その声は低く掠れていた。


だが警告を無視し、村の墓地へ――そして運の尽き。

墓石の裏、暗闇の中から白い靄がぬっと現れ、

そして――冷たい何かが頭を打つ。額から血ダラダラ。


現実なら救急車→CT→診断書→労災申請。

でも怪談世界の私は、翌朝ばんそうこう一枚で出勤。


「おはようございます」とタイムカードを押し、

コーヒーすすりながら昨日の原稿を淡々と執筆。

編集長も「お、取材ご苦労さん。いい写真は撮れた?」で額を完全スルー。


――いや、どうせなら「幽霊に殴られました」で労災通せ。

受理されたら、それもう怪談じゃなくて業務災害じゃね。



② 誰の実話だよ!? 〜体験者が最後に死ぬ問題〜


――深夜0時。

仕事帰りにサウナで汗を流した青年が、駅前の立体駐車場へ向かう。

蛍光灯は一本おきにチカチカ。車は数台だけ。人気は――ない、はずだった。


カツ…カツ…と、自分の足音にもう一つ重なる気配。

暗がりを振り返ると、そこに立っていたのは――スーツ姿の、顔のない男。


次の瞬間、そいつが全力で走ってくる。

青年も反射的にダッシュ、車の間を縫い、非常階段へ逃げ込む。

「ガンッ! ガンッ!」と鉄階段を蹴る音が迫り、心臓は爆発寸前。


必死に駆け上がり、踊り場で急ターン――

その瞬間、手すりが腐って崩れ、青年は手すりごと宙を舞い、階下へ落下。

……そして、即死。


――いや待て、この“実話”って、誰のだよ?

まさか顔なしが申告書でも出したのか?

それもう――「僕が心霊申告しちゃいました!」だろ。ある意味ビックリだわ。


それに体験者もさ、ちょっとは“続編の出演枠”狙って生き残れよ。

テレビディレクターとの契約書に、“生存禁止”って書いてあるんか?

逃げ切る選択肢くらいあってもいいだろ。

少なくとも、次回作の冒頭で「いやーあれは死ぬかと思ったわ!」って

笑い話にできるくらいに、頑張れって。



③ 恐怖もおかわり派 〜現場に戻るなって〜


昔、ここで赤ちゃんを抱いた母親が無理心中した――そんな噂が残る場所。

夜、その廃トンネルに肝試しで入った大学生4人。


壁の落書きは色褪せ、天井からは水がポタ…ポタ…。

奥へ進んだ瞬間、暗闇の奥から「……赤ちゃんを……返して」という女の掠れた声。

全員顔面蒼白、出口まで全力疾走。


――普通なら二度と近寄らない。


だが翌日、そのトンネルの前に、なぜか全員そろって集合。


「昨日途中までだったから、今日は最後まで行こうぜ」


……そして、やっぱり、そうなるわな。


――君ら、恐怖体験のフォーマット(削除)、早すぎない?

たぶん昼飯も「昨日と同じカレーうまいな!」って言えるタイプだろ。

怖い出来事も“おかわり”する呑気な民かよ。



④ 友情ワンシーン使い捨て 〜精神崩壊をスルー〜


同じ大学だった佐藤を、久しぶりの夜釣りに誘った。

前は、二人でよく来た場所。

月明かり、虫の声、川面の揺れ――静かな時間だった。

突然、佐藤が竿を落とし、服のまま川の中へゆっくり歩き出す。


肩を掴むと、笑ってるのか泣いてるのか分からない顔で、

「あいつらが、見てる見てる見てる…」と連呼。


無理やり陸に引き上げ、タクシーに押し込み、家へ送る。

――あの不思議な出来事以来、俺は佐藤に連絡をしていない。


…って、そこで終わらすか?


実話怪談だと、家族や友達の精神が崩壊したり、

気の振れるパターンって結構あるけど、

普通なら翌日電話するか、病院へ連れてくだろ。

怪談世界の友情、ワンシーン使い捨て仕様なのか。

――また、釣りに誘ってやれよ!



⑤ 人間蒸発スルー帰宅 〜帰るな警察呼べ〜


テレビの心霊番組で、カメラマンの田村と廃旅館へ。

ホコリの積もった畳、抜け落ちた天井、きしむ廊下。

田村が「ちょっと奥見てくる」と廊下の角を曲がった。


……5分経っても戻らない。呼んでも返事なし。

嫌な気配が背筋をなぞる。

廊下の先には、田村のビデオカメラだけが落ちていた。


現実なら即110番。

でも私は、パニックのまま思考停止して――そのまま、慌てて帰宅した。

玄関を閉めて、ドアにもたれて深呼吸……のはずが、背筋にぞわっと寒気。

――あの時の“あの気配”が、自分の部屋にも立ち込めていた。

まるで連れて帰ってきたみたいに、隅の暗がりで、じっと息を潜めているような。

……いったい、あれはなんだったのだろうか?


――いやいや、家に帰って、なに冷静に振り返ってんだよ。

人間蒸発を置き土産に、帰るなって。

翌日、社員1名、欠勤だぞ。それに局の備品も紛失してんぞ。

心霊番組ってか、翌日ワイドショーに出るのはお前だろ。



⑥ 幽霊用SIM 〜掛け直せって〜


俺が東京に出て10年。

突然、それ以来会っていない地元の友人からスマホに連絡が来た。

「大事なことを知らせたいので会いたい」


ちょうど来週から夏休みで帰郷予定だったので、会うことにした。

夕方、神社の裏手で待ち合わせ。

昔話をしながら歩くが、どこか様子がおかしい。声も雰囲気も微妙に違う。


やがて友人が立ち止まり、古びた祠の前へ。

その瞬間――強い光に包まれ、消えた。

――あの日の出来事の真実は、いまも分かっていない。


……おーい、それで終わりか? ――それ捜索願案件やろ!


で、似たような別パターンでは、ちゃんと警察に駆け込んだものがあった。

「友人が光って消えました! 探してください!」と名前を告げると――


「……その方は、1年前に交通事故で亡くなっています」


――ああ、なるほど、だから捜索願は不要ですね、ってなるか!

じゃあ電話してきたの誰だよ? 着信履歴残ってるだろ。

掛け直してくれよ。それともまさか、“幽霊用SIM”でもあるのか?


「うっせーな! 掛け直したけど“現在使われておりません”だったんだよ!!」

……ついに、実話体験者がキレてしまったので、今回はこの辺にしときます。



本当にあったって、“本当にあった話”ってことで……認識、間違ってないよな?

……うん、たぶん。たぶんね。


なのに、あまりに不可解な展開ばかり見てるせいで、

だんだん自分の日本語理解力まで怪しく思えてくる。


私にとっての実話怪談は――

**「タイトルに“実話”が入っている怖い世界の物語」**なのだから。


そしてまた、冷房ガンガン、アイスを食べながら――

不謹慎で迷惑な男の、暑い夏の夜がはじまる。


……エッセイの最後のオチをどうしようか考えていた、その時。


ふと窓を見ると――12階のカーテンが、風もないのにゆらりと揺れた。

ゆっくりと戻る布の向こうに――


白濁した片目の老婆が、こちらを見つめていた。

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