第9話:森に眠る月の御使い、ルーナの記憶と、レイのモフモフハーレム大増員?!
レオンとリィナが王都の学園に戻り、ログハウスは再び、レイとヴァルド、ミリア、そして個性豊かな従魔たちの賑やかな日常に戻った。セイリオスの講義を聞き、フラムと料理の練習をし、ミルと庭で遊び、ふわふわと家庭菜園の手入れをする。そんな穏やかな日々の中で、レイはさらなる好奇心と、この世界の広がりへの期待を募らせていた。まるで、もっと新しい発見はないかな~とウズウズしているかのようだった。
ある晴れた日の午後、レイは従魔たちを連れて、ログハウスの裏に広がる森のさらに奥深くへと足を踏み入れていた。セイリオスの講義で、森の奥にはまだ見ぬ珍しい薬草や、時には希少な魔獣が生息していると知ったからだ。シャドウが先頭を歩き、その漆黒の体が木々の影に溶け込むように警戒にあたる。まるでボディーガードは任せろ!とでも言いたげだった。ミルはレイの肩に、ふわふわはレイの足元に寄り添い、フラムはレイの頭の上を小さな炎を揺らしながら飛んでいた。そして、空からはバルドルが大きな翼を広げ、ゆっくりと旋回しながら周囲を監視している。まさに、陸海空、いや、影、空、地上、そして炎、全方位警備体制だった。
森の深部へと進むにつれて、木々の密度は増し、昼間だというのに薄暗くなってきた。ひんやりとした空気が肌を撫で、どこか神秘的な雰囲気が漂う。その時、シャドウがぴたりと足を止め、森の奥の一点を見つめた。彼の金色の瞳が、普段よりも鋭く光っている。
「シャドウ、どうしたの?」
レイが問いかけると、シャドウは低く「……あそこだ」と呟き、鼻先で薄暗い茂みの奥を示した。レイはシャドウの視線の先を追った。そこには、鬱蒼と茂る木々の隙間から、微かな月の光のような輝きが漏れている。
レイの神霊視が、その輝きを捉えた。それは、以前シャドウやセイリオスから感じた神性とは異なる、しかし確かに強力な、月の力を宿した輝きだった。レイは好奇心に駆られ、ゆっくりと茂みの中へと足を進めた。まるで、宝探しの子どものようだった。
月の御使い、ルーナとの出会い、そして感動の契約!
茂みを抜けると、そこには、月の光が降り注ぐかのように、一面に白い花が咲き誇る幻想的な空間が広がっていた。その空間の中央に、一頭の大きな狼が横たわっていた。その毛並みは月の光を吸い込んだように白く輝き、背中にはまるで翼のように、優雅な羽根が何枚も生えている。しかし、その瞳は閉じられ、まるで深い眠りについているかのようだった。
「わぁ……」
レイは思わず息をのんだ。その狼からは、圧倒的な存在感と、しかし同時に、どこか寂しげな雰囲気が漂っていた。レイの心に、強く惹きつけられるような感覚が湧き上がる。まるで、運命の出会いを告げているかのようだった。
「この子は……」
レイが近づこうとすると、シャドウが唸り声を上げた。バルドルも上空で警戒するように旋回している。ミルの小さな体が震え、ふわふわもレイの後ろに隠れるようにした。フラムの炎も心なしか小さくなっている。彼らも、この狼から放たれるただならぬ気配を感じ取っているのだ。「主!危ないぞ!」「ぴぴぴーっ!」「ふわわわわ……」「ガォ……(ビクビク)」とでも言いたげな、従魔たちのパニック状態だった。
だが、レイは止まらなかった。彼には、この狼がただ眠っているだけで、危険な存在ではないと直感的に分かった。
レイはそっと、狼の頭に手を伸ばした。その毛並みは、触れると驚くほど柔らかく、温かい。レイの契約の王印が、じんわりと温かさを帯び始める。
「君は、誰? どうしてここで眠っているの?」
レイが優しく語りかけると、狼の閉じられていた瞼が、ゆっくりと持ち上がった。そこには、吸い込まれるような深い青い瞳が、レイをじっと見つめていた。その瞳の奥には、永い時間の中で失われた、悲しみにも似た感情が揺れているように見えた。
「……ワタシは、かつて……『月の御使い』と……呼ばれた……」
狼の言葉は、まるで遠い記憶の残滓を辿るかのように、途切れ途切れだった。その声は、レイの心に直接響いてくる。
「『月の御使い』……?」
レイは、セイリオスから聞いた神々の時代の物語を思い出した。太古の昔、神々の意思を伝え、世界を巡った特別な存在がいると。
「貴方は、神々の使いの末裔なの?」
レイが問いかけると、狼はゆっくりと頷いた。
「……永い眠りの中で、多くを……忘れてしまった……」
その言葉に、レイは心を痛めた。彼は、この孤独な狼を救いたいと強く願った。
「もしよかったら、僕と契約しない? 僕と一緒なら、きっと君の失われた記憶も、少しずつ戻るかもしれない。僕の名前はレイ。君の名前は?」
レイが手を差し伸べると、狼はレイの手を見つめ、迷うように息を吐いた。そして、レイの瞳に宿る純粋な光を見た時、その青い瞳に微かな希望の光が宿った。
「……ルーナ」
狼は、失われた記憶の中から、かすかに残る自身の名前を口にした。
「ルーナ。僕と契約して、一緒に暮らそう。君の失われた記憶、僕が一緒に探してあげる」
レイのまっすぐな言葉に、ルーナは心を決めたように、その大きな頭をレイの手のひらに擦り付けた。
その瞬間、レイの右手の王印が、これまでで最も強い光を放った。白く輝く光が、月光のように幻想的な空間を満たし、ルーナの白い毛並みからも、淡い青白い光が立ち上る。二つの光が重なり合い、森の中に神秘的な波動が広がっていく。
光が収まると、レイとルーナの間には、以前よりもはるかに強固で、温かい絆が結ばれていた。ルーナの青い瞳は、以前よりもクリアに輝き、その顔には微かな安堵が浮かんでいる。
「……ありがとう、レイ」
ルーナの声は、先ほどよりもはっきりと、レイの心に響いた。彼は、レイの従魔として、再びこの世界で生きることを選んだのだ。
シャドウたちは、その契約の光景を息をのんで見守っていたが、ルーナがレイと契約したことを感じ取ると、警戒を解き、ゆっくりとルーナに近づいていった。彼らの間にも、新しい仲間を迎えるような温かい空気が流れる。「おぉ、これでレイ坊主のモフモフハーレムがまた賑やかになるぞ!」 と、上空のバルドルがニヤリと笑ったとか、笑わなかったとか。
レイは、新たな家族となったルーナの白い毛並みを優しく撫でた。かつて「月の御使い」と呼ばれた、神々の使いの末裔。ルーナとの出会いは、レイの異世界での生活に、さらなる深みと、新たな物語の始まりを予感させたのだった。