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第74話:レイの誕生日と家族の温かい企み

王都に到着したヴァルドは、一刻も早くログハウスへと戻る道を急いでいた。宰相である父、アルヴィンへの報告は後回しにして、まずは己の胃を休ませることが最優先だ。何より、彼の頭の片隅には、もうすぐ訪れる愛する息子の誕生日という、大切なイベントがあったんだ。

ログハウスにたどり着いたヴァルドは、妻であるミリアに迎え入れられた。疲労困憊の夫の姿に、ミリアは心配そうな顔をしたが、ヴァルドは手で制し、小声で切り出した。

「ミリア、聞いてくれ。そろそろレイの誕生日だ。何か特別なことをしてやりたいんだが……」

ミリアはにこやかに頷いた。

「ええ、もちろん考えてたよ。レイももうすぐ六歳だしね。今年は盛大に、とはいえ秘密裏に、お祝いしてあげよっか。ちょうど、森の奥で珍しいキノコを見つけてきたところだし、今日の夕食は腕によりをかけるわ!」

ヴァルドは、レイを喜ばせるためならばと意気込んだ。でも、日頃の胃痛の元凶である息子に気づかれぬよう、サプライズの準備を進めるのは至難の業だった。ミリアが手際よく飾り付けの準備を始め、既に彼女自身が狩ってきた獲物や珍しい食材を吟味する傍ら、ヴァルドは胃薬を飲みながら、プレゼント選びに頭を悩ませる。ミリアの料理にかける情熱は、現役Sランク冒険者として彼女が培ってきた狩りの腕に匹敵するほどだった。

レイは、ログハウスの庭で植物たちと楽しそうに会話していた。最近、植物の声が以前にも増してはっきり聞こえるようになった気がする。光を当てれば花が輝き、水をやれば喜んで葉を震わせる。

(まさか、こんなことが本当にできるなんて、前世の僕だったら信じられないだろうなぁ……)

レイは、前世での常識とはかけ離れた、植物と心を通わせるこの不思議な体験に、毎日胸を躍らせていた。それは、大地の祝福という特別な力を持つ自分にとって、純粋に楽しく、嬉しい「突飛な日常」の一部だった。

「ねぇ、みんな。何か良いことあった?」

そう問いかけると、庭の奥の桜の木が微かに揺れ、枝の先のツボミがかすかに膨らんだ気がした。

その時、ログハウスの中から父さんのうめき声が聞こえてきた。

「ぐっ……レイめ、今度は一体何を発動したのだ……!この胃痛は、まさか私の胃に直接、祝福の魔力でも送りつけているというのか……?」

レイはきょとんとした。

(僕、何かしたかな?父さん、また胃が痛いみたいだ。困ったなぁ……)

レイは自分の頭の中の植物ネットワークが、かすかに父さんの胃のあたりでモヤモヤしているのを感じていた。

レイは思わず、バルドルに心配そうな視線を向けた。「バルドル、父さん、また胃が痛いみたいなんだ」

バルドルは翼を広げ、ゆっくりとレイの前に降り立った。「ああ、またか。レイ、お主の無自覚な力が原因だぞ。」

レイはシャドウに尋ねた。「シャドウ、父さんの胃痛、どうすればよくなるかな?」シャドウはレイの足元で低く喉を鳴らしながら、その金色の目でヴァルドを一瞥した。「レイの力が規格外なだけだ。慣れるしかないだろうな。」

ルーナはレイの横に座って、その大きな白い頭をレイの肩に優しく押し付けた。「ご主人の力は強大です。それは喜びでもあります。」

ミルだけがレイの肩にちょこんと乗り、「キュイッ、キュイッ」と楽しそうに鳴いていた。

ログハウスの中から、ミリアのくすくす笑う声が聞こえる。

「あなた、レイが喜んでくれてる証拠だよ。これも愛情の形だと思えば……あら、今日のディナーは最高に美味しくなりそうだね!」

ミリアの言葉に、ヴァルドは遠い目をした。愛情が胃痛に直結するとは、彼も想像だにしなかっただろう。だけど、食卓に並ぶミリアの豪華な料理を思い浮かべると、胃の痛みも少しだけ和らぐ気がした。

その日の夕食時、ミリアが大きな皿を抱えて食卓に現れた。湯気を立てるご馳走の数々を見て、レイは目を輝かせた。

「わぁ!母さん、今日はお祭り!?」

ミリアはにこやかにレイの頭を撫でた。

「レイ、お誕生日おめでとう!」

レイはきょとんとした顔で首を傾げた。「お誕生日?」

自分の誕生日を忘れていたレイに、ヴァルドは用意した小さな木箱を差し出した。

「レイ、誕生日おめでとう。これは父さんからのプレゼントだ。」

レイが箱を開けると、中にはレイが以前から欲しがっていた、植物の観察に使える精巧なルーペが入っていた。

「わぁ!ルーペだ!ありがとう、父さん!これがあれば、もっと植物さんの葉っぱがよく見えるよ!」

レイは満面の笑みでルーペを覗き込んだ。

バルドルはレイの近くの地面に静かに降り立ち、金の瞳でじっとレイを見つめた。「ほう、それは面白い道具だな、レイ。もっと広い世界も見てみるか?」

シャドウはレイの足元に座り込み、ゆったりとレイを見上げた。「良かったな、レイ。これでまた、奇妙なものを探し出せる。」

ルーナはレイの足元に静かに寄り添った。「ご主人の好奇心を満たす道具。素晴らしいです。」

ミルはレイの肩にちょこんと乗り、「キュイッ、キュイッ」と楽しそうに鳴いて、レイの髪の毛にじゃれついた。

その時、ログハウスの窓から、レイの耳に直接響くような、朗らかな声が聞こえてきた。

「レイ!誕生日おめでとう!可愛い孫よ!じぃじからはとっておきのプレゼントを贈ったぞ!王都の図書館にある、世界中の植物図鑑の写本を全巻揃えてやった!これで、ますます色々な植物と仲良くなれるだろう!」

それは、王都の宰相アルヴィンの声だった。レイの植物ネットワークを通じてダイレクトに届く、祖父の愛情に満ちた声は、少し大げさなくらいの祝福で、レイの心を温かく包んだ。

(じぃじ、いつも面白いものをくれるなぁ。王都の図書館の植物図鑑なんて、すごいや。これで、もっと知らない植物さんのこと、たくさん勉強できる!みんな、僕のためにこんなに祝ってくれてるんだ。誕生日って、嬉しいものなんだね!)

レイは、家族と従魔たちからの祝福に、満面の笑みを浮かべていた。彼の純粋な喜びは、ログハウス全体を温かい光で包み込み、心いっぱいの幸福感で満たしていった。レイは、もらったルーペで、庭の植物たちが祝福するように輝いているのを、不思議そうに見つめていた。その輝きは、レイの心の中の温かい気持ちと、どこか繋がっているように思えた。

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