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第73話:予想外の遭遇、そして新たな魔鉱石の発見

 討伐隊は、森を抜け、王都へと続く街道の深い部分へと足を踏み入れていた。辺りの木々は鬱蒼と生い茂り、陽光も届かない。空気は一層重く、地面に落ちた葉は踏みしだかれるたびに乾いた音を立てる。ヴァルドの胃は、まさに王都からの魔物の詳細情報を無意識に受信し続ける「情報爆弾」と化しており、その都度、彼の顔は恐怖と胃痛で歪んでいた。

「ギルド長、この先の渓谷、妙な魔力の淀みを感じます!ただの魔物じゃねえ匂いだ!」

 先を進んでいた冒険者が、顔色を変えて報告に戻ってきた。ヴァルドの胃が再び激しく脈打つ。

「ぐっ……父上……な、なんだと……渓谷の底に、奇妙な鉱物を宿した大型の魔物が数体……!奴ら、周囲の魔物たちを操っている!これが王都の報告にあった異常発生の原因か……!」

 ヴァルドの叫びと同時に、渓谷の奥から、これまでのゴブリンやオークとは比べ物にならない、地の底から響くような威圧的な咆哮が響き渡った。

 その時、隊列の後方にいたレイは、バルドルが頭上で威嚇するように旋回するのを感じ、シャドウが足元の影で警戒を強めるのを見た。ミルはレイの肩に顔をうずめ、「ピィッ、ピィッ」と震えるような声を上げている。ルーナはレイの前に立ち、低く唸りながらも、その大きな瞳はヴァルドたち、そして渓谷の奥から迫る気配を捉えていた。

 ヴァルドの指示と共に、冒険者たちが渓谷へと一斉に突入していく。レイはルーナの背に隠れるようにして、その光景を食い入るように見つめた。剣と魔法が激しく交錯し、轟音と土煙が舞い上がる。それは彼が以前、後方から見た小競り合いとは全く違う、まさに「大規模討伐」と呼ぶにふさわしい光景だった。

(うわ……これ、ゲームで見たラスボス戦みたいだ。でも、もっとすごい迫力だなぁ……土の匂いとか、魔物の変な臭いもするし、時々飛んでくる血の飛沫とか……リアルすぎる!これ、本当に現実なんだ……)

 レイは、転生前の記憶が鮮明に蘇る中で、この世界の厳しさを肌で感じていた。冒険者のお兄さんやお姉さんたちが、血と泥にまみれて戦っている。彼らが放つ魔法は確かに鮮やかだが、その表情は真剣そのもので、命を懸けているのが見て取れた。

(父さんが、また胃を押さえてる……僕の頭の中の植物ネットワークが、父さんの胃のあたりでモヤモヤしてる。一体、どんな情報が、また父さんの胃を痛めてるんだろう?さっきのより、もっと大変なことなんだ……)

 ヴァルドは胃を抑えて苦しそうな顔をしているけれど、それでも声を張り上げ、懸命に指示を出している。その姿を見て、レイの胸の奥がぎゅっとなった。彼も、父さんやみんなを助けたい、と純粋に思った。転生者としての頭脳が、この状況を冷静に分析しようとする。

(この魔物たち、ただ暴れてるだけじゃない。まるで、誰かに動かされてるみたいに、統制が取れてる……いや、違う、何か特定の感情が、魔力みたいに周囲の植物や、魔物から勝手に流れてくる……。この感情を止めれば、父さんたち、もっと楽になるかな?)

 レイの純粋な「助けたい」という思いと、転生者としての分析、そして植物ネットワークを通じて無自覚に得られる、魔物たちの「異様な感情の流れ」という情報が、彼の内で混じり合った。レイは、大地の祝福を持つ自分にとって、植物の力を借りて何とかすることは当たり前だと感じていた。

 その時、レイの左手の手のひらの魔石が、温かく、そして力強く脈動した。レイの無意識の意思が、魔石に蓄えられた膨大な魔力を解放していく。彼の魔力は、大地を通じて魔物たちに働きかけた。

 渓谷にいる魔物たちの動きが、一瞬、完全に停止した。彼らは突如として頭を抱え、困惑したようにその場に立ち尽くしたのだ。それは、レイが放った、負の感情を鎮め、本能を一時的に麻痺させる無自覚な防御魔法であり、まるで「思考停止」を強制されたかのような光景だった。

「な、なんだ!?魔物たちがひるんだぞ!?まさか、ギルド長の胃痛が限界を超えたのか!?」

「あぁっ?!意味わかんねぇ事言ってんなよっ!」

「うるせぇっ!今だ!一気に畳みかけろ!こんなチャンスは二度とねえぞ!」

 冒険者たちは好機を逃さず、一斉に攻勢に出る。統制を失い、思考が麻痺した魔物たちは、冒険者たちの猛攻の前に次々と倒れていく。剣が閃き、魔法が炸裂し、戦士たちの雄叫びが森に響き渡った。

 戦闘は予想以上に早く決着した。魔物の集団は壊滅し、街道は静寂を取り戻し始める。冒険者たちは興奮冷めやらぬ様子でヴァルドを称賛する。

「ギルド長、恐れ入りました!あの情報と、最後の一瞬の隙、あれがなければ危うかったぜ!」

「おかげで怪我人もほとんど出ませんでした!さすがギルド長!」

 ヴァルドは顔を歪ませながら、賞賛の言葉に曖昧に頷く。彼の胃は、まだレイからの情報信号でキリキリと音を立てていた。その痛みは、勝利の喜びよりもはるかに強烈だ。

「まさか、レイのあの受信機が、魔物の位置情報だけでなく、その感情まで伝えてくるとは……いや、それにしては、最後の一瞬の動きは……私の胃が、もう限界だ……!」

 ヴァルドは内心で叫んだ。レイの「ちょっとした手助け」は、彼の想像をはるかに超える「とんでもない能力」へと進化していた。討伐隊の冒険者たちはギルド長の卓越した采配に感嘆する一方、ヴァルド本人は胃痛と情報過多という新たな苦悩に戦々恐々とするのだった。

 そして、討伐隊が魔物たちの根城にしていた渓谷の奥を調査すると、そこでただの岩塊にしか見えない、しかしどこか異様な輝きを放つ見慣れない奇妙な鉱物が発見された。それは、一見すると何の変哲もない石だが、特定の角度から見ると、微かに色が滲み出ているようにも見え、今回の魔物異常発生と何らかの関連があることを示唆していた。

 街道の安全を確保した討伐隊は、疲労の色濃いヴァルドを伴い、王都へと帰路についた。長旅の疲れと、胃への絶え間ない情報入力に、ヴァルドは早くログハウスに戻って休みたい一心だった。しかし、彼の頭の片隅には、もうすぐ訪れる、愛する息子の誕生日という、胸躍るイベントがあった。ログハウスに戻れば、ミリアや従魔たちが、きっとレイを喜ばせるための準備をしているに違いない。

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