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第71話:緊急招集!胃痛ギルド長の街道開通指令

 ギルド長の執務室は、早朝から胃薬の匂いが充満していた。ヴァルドは目の前の書状を睨みつけ、昨晩からの胃の締め付けに耐えながら、すでに五本目の胃薬を流し込んだ。王都からの緊急要請――魔物の異常発生と街道閉鎖。これは、ただの討伐ではない。物流の要である街道が機能不全に陥れば、それは即ち国家経済への打撃を意味する。

「ぐっ……よりによってこのタイミングで、か……!」

 ヴァルドは、手元の簡易受信機を恨めしそうに見つめた。あれが齎す情報は確かに正確だが、同時に彼の胃を直接攻撃する諸刃の剣だ。しかし、この非常事態においては、どんな情報でも喉から手が出るほど欲しい。

「父さん、今日の朝、じぃじがね、なんか変な色の魔物がいっぱいいるって言ってたよ!街道の真ん中に、すごく大きな穴が開いてるって!」

 朝食を終え、ギルドまでついてきたレイが無邪気に口にする。ヴァルドは思わず持っていたペンを折ってしまいそうになった。変な色の魔物? 大きな穴? レイの言葉は、王都からの書状には書かれていない、あまりにも具体的すぎる情報だった。

「レイ、その情報は一体どこから……?」ヴァルドは引きつった顔で尋ねた。

「えへへ、受信機でじぃじの声を聞いたら、植物さんたちがもっと詳しく教えてくれたんだ!」

 ヴァルドは頭を抱えた。レイは、彼の胃痛を悪化させる張本人でありながら、同時にとんでもない情報源でもある。彼の胃は、もう王都の魔物より恐ろしい存在になっていた。

 その日の午後、ギルドの会議室はざわめきと、冒険者らしい苛立ちに包まれていた。集められたのは、この街で名を馳せるベテラン冒険者たち。普段は酒場で豪快に笑い、時には乱闘騒ぎを起こす彼らも、今日のヴァルドの呼び出しは、ただ事ではないと察していた。彼らの顔には、獲物を前にした狩人のような、あるいは厄介な依頼に眉をひそめるような、複雑な表情が浮かんでいた。

 ヴァルドは教壇に立ち、いつもの威厳を保とうと努めるが、彼の顔色はすでに黄土色に近い。

「皆の者、王都からの緊急要請だ。街道が魔物の異常発生により閉鎖された。緊急討伐隊を編成し、街道の開通を目指す!」

「ギルド長、今度はどんなのが出やがったんで?具体的な魔物の情報は?」と、屈強な戦士の冒険者が、腕を組みながら問いかけた。その声には、武骨な中にも信頼と、早く状況を把握したいという焦りが混じっていた。

 ヴァルドは一瞬言葉に詰まった。王都からの書状には「大規模な魔物の異常発生」としか書かれていない。しかし、レイの言葉が脳裏をよぎる。

「……現在、正確な種類は判明していないが、どうやら奇妙な色の魔物が出没し、街道には大きな穴が開いているとの情報も入っている。油断するな、命を惜しむなら全力で当たれ!」

 冒険者たちは互いに顔を見合わせた。奇妙な色の魔物? 大きな穴? 王都からの公式情報にはなかったはずだ。だが、ギルド長がそう言うのなら、何か裏付けがあるのだろう。彼らの間に、ギルド長の判断への信頼と、未知の事態への警戒感が入り混じり、ざわめきが大きくなる。それでも、危険を承知で依頼を受けるのが冒険者だ。

「早急に討伐隊を編成し、夕方には出発する!腕に自信のある者は、名乗りを上げろ!」ヴァルドの号令に、冒険者たちは「おう!」と力強い声を上げ、それぞれの役割を果たすべく一斉に動き出した。その動きには、軍隊のような統制はないが、長年の経験に裏打ちされた無駄のない迅速さがあった。

 執務室に戻ったヴァルドは、胃薬をもう一本手に取った。レイの情報が正しければ、今回の討伐は一筋縄ではいかないだろう。彼の胃は、すでに未来の胃痛を予感して、きりきりと痛んでいた。

「まったく……誰か、私にも胃袋強化の魔道具をくれないか……」ヴァルドは虚ろな目で呟いた。

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