第7話:王都からの便り、お兄ちゃんお姉ちゃん、そして賢いワシも帰郷!
レイがフラムを新たな従魔として迎え入れてから、ログハウスの暮らしはさらに賑やかになった。フラムは相変わらず火加減が苦手で、レイが料理をするたびに失敗を繰り返すが、それでも健気に料理を手伝おうと奮闘する姿は、レイたち家族の笑いの種となっていた。まるで、「料理は修行あるのみ!」とでも言いたげな、炎の料理人(見習い)だった。
ある日の午後、レイが庭でふわふわと一緒に薬草の手入れをしていると、ヴァルドが伝書鳩便を持って戻ってきた。彼の手には、王都の紋章が入った封筒が握られている。その封筒は、まるで「重要なお知らせだよ!」とでもアピールしているかのようだった。
「レイ、レオンとリィナからだぞ」
ヴァルドの言葉に、レイはパッと顔を上げた。レオンとリィナは、王都の学園で勉学に励むレイの双子の兄と姉だ。ユングリング家は代々魔力が豊富で長命の家系であり、その血筋が治めるこのヴァルドラ王国は、長く安定した治世を誇っていた。レイの父ヴァルドは、そのユングリング家の四男にあたるが、今は王都のギルド長を務め、家に戻れば家族との時間を大切にしていた。兄姉も学園にいるため、年に数回しか帰省できない。レイにとって、兄姉からの便りはいつも嬉しいものだった。まさに、心待ちにしていた「ご褒美」だったのだ。
封筒を開けると、中には二枚の手紙と、小さな小包が入っていた。リィナの手紙は可愛らしい絵文字で飾られ、レオンの手紙は几帳面な文字で書かれている。「うん、いつもの兄姉だ」と、レイはフフッと笑った。
▪️お兄ちゃんお姉ちゃんが来る!そして謎の賢いワシ?!
「レイ、元気にしてる? リィナだよ! もうすぐ学期末の長期休みだから、レオンと一緒に帰るね! レイのお土産に、王都で人気の甘いお菓子を買ったの! 楽しみにしててね! あとね、学園でとっても頼りになるワシと友達になったんだ! 一緒に連れて帰るから、レイもきっと気に入るよ! またね!」
「レイへ。レオンだ。リィナからの手紙と重複する部分もあるが、学期末休暇で帰省する。滞在期間は短いが、お前の成長を見るのを楽しみにしている。例のワシは、学園の通信役を務めていた賢い奴だ。セイリオス殿とも旧知の仲らしい。くれぐれも粗相のないようにな。では、近いうちに。」
手紙を読み終えたレイは、目を輝かせた。「お兄ちゃんと、お姉ちゃんが帰ってくる!」そして、「ワシ」という言葉に、ふとあることを思い出した。従魔たちはまだワシの存在を知らない。セイリオスが旧知だと言っていたワシ……一体どんなワシなんだろう? 「賢いワシって、セイリオス先生みたいに、話の途中で寝ちゃうのかな?」 レイはそんなことを想像して、内心でフフフと笑った。
その日の夕食時、レイはヴァルドとミリアに便りの内容を報告した。
「お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、もうすぐ帰ってくるって! それとね、新しいお友達も連れてくるんだって!」
レイが興奮気味に言うと、ミリアは嬉しそうに頷いた。
「あら、そう! 久しぶりに家族みんなで食卓を囲めるわね。腕によりをかけなくちゃ!」
ミリアは早くも献立のことで頭がいっぱいなようだ。まるで、「今夜は豪華フルコースよ!」とでも言いたげだった。ヴァルドも朗らかな笑顔で頷く。
「ワシ、と言っていたな。セイリオスの旧知であれば、相当な賢さを持つ魔獣だろう。レイ、新しい出会いは大切にな」
ヴァルドの言葉に、レイは「うん!」と元気よく返事をした。
▪️兄姉帰還!空の王者、バルドルと従魔たちの初対面!
数日後、待ちに待ったその日がやってきた。レイは朝からそわそわして、何度も窓の外を眺めていた。シャドウはレイの影から、ミルはレイの肩から、ふわふわは足元から、そしてフラムは暖炉の中から、そんなレイの様子を不思議そうに見守っている。まるで、「レイ、落ち着いて」とでも言いたげな、いつもの従魔たちだった。
午後になり、遠くの空に小さな点が現れた。その点はみるみるうちに大きくなり、やがて巨大な影がログハウスの上空を覆った。
「来た!」
レイが指差した先には、翼を大きく広げた一羽の大型ワシが優雅に舞い降りてくる。その翼は風を切り裂く音を立て、その雄々しい姿は、まさに空の王者といった風格だ。ワシの背中には、レオンとリィナがしっかりと掴まっていた。まるで、空飛ぶタクシーのようだった。
ワシがログハウスの庭に降り立つと、レオンとリィナが軽やかに飛び降りた。
「レイ! 久しぶり!」
リィナが駆け寄ってきて、レイをぎゅっと抱きしめた。甘いお菓子の匂いがする。まさにお土産の香りがしていた。
「レイ、元気だったか」
レオンもレイの頭を優しく撫でた。その手には、レイのために選んだであろう、冒険の地図が描かれた絵本が握られている。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! おかえり!」
レイは嬉しさのあまり、瞳を潤ませた。久しぶりに会う兄姉は、学園でさらに大人びたように見えた。
その時、ワシが大きく首を傾げ、レイの従魔たちに視線を向けた。シャドウは警戒するように身構え、ミルはワシの大きさに驚いてレイの背中にぴたりと張り付いた。ふわふわは、ワシの存在感に少し縮こまっている。フラムも、暖炉からそっと顔を出して、その様子を窺っていた。まるで、「な、なんだあのデカい鳥は?!」とでも言いたげな、従魔たちの反応だった。
ワシはレイをじっと見つめると、人間が話すように朗らかな声で言った。
「おぉ、あんたが噂のレイ坊主か! まさか、これほどの小さな身で、これだけの祝福を操るとはな! そして…おいおい、セイリオス! てめぇ、いつからそんなところに引っ込んでやがったんだ? オイラの居場所取ってんじゃねーぞ、ジジィ!」
ワシの視線の先には、ログハウスの窓からこちらを覗いていたセイリオスがいた。セイリオスは丸眼鏡を押し上げ、「グフフ……久しいな、バルドルよ。お主も相変わらず賑やかじゃのう」と応じる。
レイは、この頼もしいワシが、これからの日々をさらに楽しくしてくれるだろうと確信した。新たな家族が増え、レイの異世界での生活は、ますます賑やかになっていくのだった。