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第68話:父さんのための秘密基地!光る観葉植物と緊急連絡網

 ログハウスの朝は、今日も賑やかだった。父さんはレイ特製の胃薬茶のおかげで顔色も良く、母さんは鼻歌を歌いながら朝食の準備をしている。レイはといえば、目の前の平和な光景とは裏腹に、内心では次の大冒険に胸を躍らせていた。

(よし、今日は植物ネットワークの本格構築だ!王都のじぃじとの秘密回線を開通させなきゃ!)

 レイの頭では、前世の知識がぐんぐん唸る。手紙なんて悠長なことを言ってたら、緊急時に間に合わない。植物を使ったネットワークなら、どこからでも瞬時に情報が手に入るはずだ。もちろん、誰にもバレないように、子どものフリをしてコソコソ進めるのが肝心だ。

「レイ、今日は何して遊ぶの?」父さんが、レイの何やら企んでいるような顔を見て、胃のあたりを軽く抑えながら尋ねる。最近、レイが何かを企む顔を見ると、決まって胃がキリキリするのだ。

「うーん、今日は植物さんたちとお話する練習だよ!」レイはとびきりの笑顔で答えた。父さんは「ははは、そうかそうか。レイが植物と話すんだから、さぞかし面白くなりそうだな……(胃が痛い)」と、レイの言葉にどこか諦めと期待が混じった表情で頷いている。レイは内心、ニヤリと笑った。母さんも「まあ、レイが植物さんとお話するなんて、素敵ね」と、夫の胃痛の原因を見抜いているような、いないような、絶妙な笑顔だ。

 朝食を済ませたレイは、まず図書室へと向かった。目指すはセイリオスだ。

 図書室では、セイリオスが既に机に突っ伏して寝息を立てていた。その頭の上では、バルドルが片翼を広げて仁王立ちになっている。

「セイリオス、起きろ!レイが来たぞ!」バルドルがクチバシで先生の頭をコツンと叩く。

「んがっ?! ……お、おお、レイではないか!いつからそこに……?」セイリオスは目を覚まし、羽毛を乱しながら慌てて金の縁の丸眼鏡をかけ直した。

 レイはにこやかに言った。「おはよう、セイリオス!今日はちょっと、植物さんたちのお話をもっと聞きたくて!」

「むむ、植物か!よかろう!今日は特別に『魔力植物学』の授業をしてやろう!」セイリオスは得意げに胸を張る。その横でバルドルが「どうせすぐに寝るくせに」とばかりに呆れた顔で首を振った。ルーナはレイの隣に静かに伏せ、その様子を冷静に見守っている。シャドウはレイの影でじっと状況を窺っているが、まだ出てくる気配はない。ミルはレイの肩からひらりと飛び降り、図書室の棚の縁に軽やかに張り付いた。

 しかし、セイリオスの授業は案の定、五分と持たなかった。「植物の根は……葉は……光合成は……ZZZ……」再び心地よい寝息が図書室に響き渡る。

「おいおい、お迎えはまだ早いぞぉ?セイリオス、ジジィとうとう死んだか?」バルドルが盛大にツッコミを入れる。

(よし、しめしめ。セイリオスが寝てる間に、僕の自習タイムだ!)

 レイは、セイリオスが授業用に広げていた分厚い古文書をこっそり引き寄せた。通常では許可されないような、奥深くに眠る魔導書の一冊だった。レイは、子供らしく見えるよう、時折首を傾げたり、「うーん」と唸ったりしながら、書かれている複雑な魔術式や植物の生態系に関する記述を脳内に吸い上げていく。

 バルドルは、そんなレイをちらりと横目で見た。また何か常識外れの、とんでもないことを企んでいるに違いない。そう確信し、バルドルは小さくため息をついた。最近のヴァルドの胃痛の原因は、確実にレイにあると彼は見抜いていた。

 レイは心の中で、思考を巡らせる。

(この世界の植物は、魔力を感知する能力が強い。僕の大地の祝福と契約の王印を使えば、魔力を流し込んで彼らの感覚を共有できるはずだ。それに、以前王都の庭園にいる草花と話せたように、植物ネットワークは遠隔地の声も伝えられる。これこそ、父さんがギルド長として必要とする通信手段じゃないか!じぃじとも連絡が取れるし、一石二鳥だ!)

 レイは、古文書の隅に描かれた、魔力反応を示す記号に目を留めた。植物が特定の感情や状況を感知した際に発する、微細な魔力の波形を示すものだった。

(これだ!これを応用すれば、人間にも理解できる『信号』を作れる!例えば、王都からの緊急連絡なら『強く脈打つような光』、父さんへの返信なら『穏やかな光』とか……これは楽しいぞ!)

 レイは図書室の窓辺に置かれた蔓草にそっと触れ、魔力を流し込む。

「ねえ、みんな。王都のじぃじが元気だったら、キラキラって光ってくれる?」

 レイがそう語りかけると、蔓草の葉がチカチカと光り始めた。それを見て、近くの棚に並んだ鉢植えの草花も、窓際の観葉植物も、図書室中に置かれた植物たちが光の点滅を始めた。

「わ、わわっ!?」

 急に図書室じゅうが光り出したものだから、棚に張り付いていたミルが驚いて「ピィ!」と叫びながら、その勢いで隣の花瓶にぶつかり倒してしまった。その音に気づいた母さんが、図書室を覗きにきた。

「あらあら、ミルちゃんったら!あら、図書室がピカピカ光ってるわ!レイ、また何か始めたのね……(胃が……)」母さんが呟いている。

(うーん、全員が光ると、情報が多すぎて何が何だか分からないな……。これは、もう少し細かく指示を出さないと、ただの光る図書室になってしまう!まるで賑やかなクリスマスツリーみたいだ……まだ季節じゃないのに、フライングしすぎだよ、みんな!)

 レイは頭を抱えた。まったく、僕の想像をはるかに超える面白さだ、このログハウスの住人たちは。

 夕方、レイは庭へと足を運んだ。日中の出来事を踏まえ、次のステップへと進むためだ。庭の片隅ではネクサが淡い光を放ちながら黙々と花壇に水を撒き、その隣ではブモが満足げに草を食んでいる。レイの姿を見つけると、マンちゃんが「きゃっきゃっ!」と可愛らしい声をあげて跳ねながら駆け寄ってきた。

「マンちゃん、ネクサ、ポポ、ふわふわ、お願いがあるんだ!」

 レイは、庭の大きな樹木を指差し、そこに「通信中継地点」を構築する計画を説明する。それぞれの植物や従魔たちに役割を割り振っていく。ネクサは水色の体を淡く光らせ、レイの指示を静かに聞いている。「……ええ。お任せください」ネクサが静かに頷いた。ポポはゴーレムの頭の上で「モフッ!」と一声、提案に賛成するようにぴょんぴょん跳ねる。ふわふわはレイの周りをくるくる回りながら「ぴぃぴぃ!」と嬉しそうに鳴いた。

 日が傾き始めた頃、庭の大きな樹木は、レイの魔力と植物たちの協力によって、微かな光の脈動を放ち始めていた。

「よし、これで王都との基本的な通信路は確保できたはずだ!次は、父さんにも使えるインターフェースだな!」

 その日の夕食時、父さんの手元にある、昨日レイが何気なく置いておいた観葉植物の葉が、チカチカと緑色に点滅している。父さんは眉をひそめながらも、どこか期待に満ちた表情でレイを見た。

「あら、どうしたの、あなた?」母さんが尋ねる。

「この葉っぱが光ってるんだ。レイが何か仕掛けたな?」父さんはレイに視線を向ける。

「もしかしたら、王都のじぃじが、何か話してるのかもしれないね!父さん、ちょっと葉っぱに触ってみて?」レイはにっこり笑い、父さんの手にその観葉植物の葉をそっと誘導する。

 父さんは、得体の知れない予感に胃のあたりを軽く押さえた。これまでの経験から、レイの「ちょっと」がとんでもない事態を引き起こすと知っているのだ。しかし、好奇心には抗えない。「う、うむ……レイがそこまで言うなら、試してみるか……」父さんは意を決したように、半信半疑で葉に触れた。この瞬間、レイの魔力が微かに葉から父さんの指先へと流れ込み、父さんの魔力回路が植物の魔力変動を感知するよう調整されていく。

 しばらくすると、父さんは大きく目を見開いた。

「ま、まさか……!父上が、また胃が痛いと……!『ギルド長ヴァルドに、至急執務室へ来るように』と言っている……!これはすごいぞ、レイ!本当に王都と繋がっているのか!」

 父さんの興奮した声に、母さんも「あら、レイったら!」と驚きと呆れが混じった声を上げる。

 レイは、しれっと言った。「えへへ、僕、植物さんたちに『じぃじとギルドの困ったことがあったら教えてね』ってお願いしたんだ!だから、きっと父さんの助けになったんだよ!」

 父さんは心から感動したように頷いた。しかし、その顔は喜びと同時に、これから起こるであろう奇想天外な出来事を予感させる、わずかな青ざめを帯びていた。

(よし、第一段階成功だ!父さんも植物ネットワークの便利さに気づいたし、これならもっと色々なことができるぞ!)

 その夜、ログハウスの庭の植物たちは、これまでとは違う規則的な光を放っていた。王都へと伸びる見えない糸が、静かに、しかし確実に紡がれていく。レイの無自覚チートによる「父さんのための秘密通信基地」は、着々と構築されていた。

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