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第66話:ヴァルド、安堵の紅茶と胃薬からの卒業?

 王都調査団の慌ただしい足音が遠ざかり、レオンとリィナの賑やかな声もログハウスから消えた時、ヴァルドは心底から安堵のため息を漏らした。この数週間、彼の胃はまるで激戦地のように荒れ狂っていたが、ようやく平穏が訪れたのだ。

「ふう……やっと、静かになったな」

 ヴァルドは温かい紅茶を淹れ、ソファに深く身を沈めた。普段なら手放せない胃薬も、今日はテーブルの隅で埃を被っている。レイは庭でミルやシャドウと無邪気に遊び、ルーナは窓辺で静かに光合成をしている。その平和な光景に、ヴァルドの口元は自然と緩んだ。

「このまま、何事もなく穏やかな日々が続けばいいんだが……」

 ミリアが紅茶を一口飲み、小さく頷いた。「そうね。レイも普通の子供らしく、石ころで遊んでるし。これで胃薬ともおさらばできるわね、あなた」

 ヴァルドは深く頷き、心の中で「二度と騒がしい日々は御免だ」と固く誓った。レイがただの石で遊んでいる姿が、これほど尊く感じられる日が来るとは、数週間前の自分には想像もできなかっただろう。

 そんな穏やかな午後、ログハウスの裏にある畑では、レイと畑チームの従魔たち、そして畑の植物たちが、驚くべき効率で作業を進めていた。

「よいしょ、よいしょー!」

 レイが小さく声を上げると、地面から生えた蔓が畝を均し、巨大なヒマワリの頭が土を耕す。種まきは、小さな妖精のような姿の従魔たちが、まるでダンスを踊るかのように正確に行い、水やりは、空中に浮かんだ水滴の塊が最適な量で降り注いでいく。

 畑の植物たちは、レイの声に合わせて葉を揺らし、枝を伸ばし、土の中で根を忙しく動かしていた。彼らは、レイの「もっと栄養が欲しいよー」という純粋な願いを即座に汲み取り、互いに連携して土壌を活性化させ、根に魔力を送り込む。レイの手にかかれば、畑仕事はもはや重労働ではなく、楽しい魔法のショーだ。

「うん!これで今日の畑仕事はおしまい!」

 レイが満足げに手を叩くと、畑はあっという間に整然とし、キラキラと輝きを放っていた。収穫を終えたばかりの野菜たちは、どれも通常の倍以上の大きさに育ち、みずみずしい輝きを放っている。

 ヴァルドは窓からその様子を眺め、温かい紅茶を飲みながら、ぼんやりと平和を満喫していた。胃の痛みもなく、書類仕事も順調に進む。これこそが、彼が望んでいたログハウスでの暮らしだった。

 畑チームの従魔たちは、レイの指示で収穫した野菜を倉庫に運び込む。その中には、ひときわ大きく、まるでカボチャのような形をしたトマトがゴロゴロと転がっていた。ヴァルドはそれを見て、「ほう、今日はまた立派な野菜が採れたな」と、軽く感心するだけだった。それが、後に彼の胃を再び襲う新たな序章に過ぎないことなど、今は知る由もない。

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