第64話:王都調査団、森の奇妙な「生態系」に困惑す!
双子のレオンとリィナが持ち帰った、レイの「ぬいぐるみ型魔物」の報告は、王都調査団にとって衝撃だった。彼らはログハウスに設営した臨時の調査本部で、深夜までその真偽と意味を巡って議論を交わしていた。
「ぬいぐるみ型で、しかも知性を持つとは…!これまでの常識を覆す大発見となるやもしれん!」団長は興奮気味に腕を振り、壁に貼られた森の地図を指差した。「直ちに、その生物の生息地と生態系の全貌を解明すべし!」
しかし、ヴァルドは、王都冒険者ギルドでの激務を終え、ようやく帰宅した自宅で、彼らの熱弁にただ胃薬を噛み砕くばかりだった。彼はその「ぬいぐるみ型魔物」の正体が、レイに甘い植物たちの単なる「お節介」に過ぎないことを薄々感づいていた。そして、そのお節介が、調査団の「迷子探検」の原因であることも。
翌朝、意気揚々と森へと繰り出した王都調査団は、すぐに壁にぶち当たった。双子が辿ったという道は、まるで意思があるかのように、彼らを拒絶するのだ。
「むむむ!なぜだ!この道は確かにこちらを指しているはずなのに、いつの間にか違う場所へ…!」
「しかも、このトゲのある蔓は、我々が近づくとさらに伸びて道を塞ぐ…まるで意思を持っているかのようだ!」
調査団員たちは、顔を青くしながら、昨日双子が語った「レイを守る魔法生物」の存在を信じざるを得なかった。彼らが道を進もうとすればするほど、森は迷路のように複雑になり、見慣れないキノコがニョキニョキと生え、妙に落ち着く香りを放つ草花が誘惑するように揺れる。
「団長!この森、我々が近づくと、なぜか『お茶でもどうですか?』と言わんばかりの誘惑を感じるのですが!」
「馬鹿な!森の魔力反応を計測してみろ!何か異常があるはずだ!」
しかし、計測器が示すのは、ただただ「非常に居心地が良い」という謎の数値と、途方もない量の、しかしなぜか無害な魔力だけだった。
ログハウス上空高く、バルドルは彼らの奮闘を冷静に見下ろしていた。
「相変わらずの混乱ぶりだな、人間どもは。植物たちも頑張って道を塞いでいるのだが、彼らの常識では理解不能だろうな。まあ、救世主様がご機嫌なら何よりだ。」
バルドルは翼をはためかせ、森の奥深く、レイがゴーレムとお菓子作りの歌を口ずさむ「うっかり工房」へと視線を向けた。彼には見える。レイの魔法が、森の植物たちをまるで生き物のように動かし、調査団を「おもてなし」しているかのように見せかけているのを。もちろん、彼らにとっては迷惑な「おもてなし」だが。
森の奥では、レイが新しく作ったらしい、虹色に光るゼリーをシャドウたちに振る舞っていた。そのゼリーから放たれる甘い魔力の波動が、森中に満ち、調査団の混乱をさらに深めていたのだ。
ヴァルドは、王都から届いたばかりの調査報告書に目を通しながら、眉間に深い皺を刻んだ。「森に新たな魔法生物の群生を確認…?しかも、意思を持ち、接近する者を迷わせる…だと?まさかとは思うが…」
彼の脳裏には、楽しげに歌いながらゼリーを揺らすレイの姿がよぎった。
「…頼むから、ギルドの冒険者たちに変な依頼が来るようなことは勘弁してくれ…」
ヴァルドの胃は、今日も静かに悲鳴を上げていた。王都調査団の撤退は、彼の胃袋にかかっているのかもしれない。




