第63話:双子の「大収穫」!?勘違いは深まるばかり…
森での迷子探検を経て、レオンとリィナは、疲労困憊ながらもログハウスへと帰還した。彼らは秘密基地にはたどり着けなかったものの、自分たちなりの「大発見」を手にしていた。その発見は、王都から戻ったばかりのギルド長ヴァルドや、ログハウスに居座る王都調査団に、新たな胃痛の種を蒔くこととなる。
「ただいまー!レイはいる?」
ログハウスの扉を開けるなり、リィナはレイの姿を探した。レオンもまた、いつもの冷静さをかなぐり捨てて、レイの部屋へと駆け寄る。レイは既に転移陣で秘密基地に戻っており、彼らの姿はない。
王都調査団の団長は、双子の帰還に安堵の息をついた。
「無事で何よりですな!森の奥の魔力反応は…何か掴めましたか?」
レオンは息を整えながら、興奮気味に語り始めた。
「もちろんだ!あの森には、レイが僕らのために用意してくれた、新しい試練があった!触れると微かに魔力を感じるあの蔓は、レイを守るためだけに存在する、意思を持った魔法生物だったんだ!僕らを傷つけなかったのは、僕らがレイの家族だと認識したからに違いない!」
「うんうん!ふわふわしてるのに、チクチクするの!レイの魔力で生まれた、レイ専用のぬいぐるみ型魔物よ!私には分かる!これはレイが作ったんだわ!」リィナも目を輝かせながら頷く。
調査団の面々は顔を見合わせ、そのぶっ飛んだ解釈に呆然としながらも、懸命にメモを取ろうとする。
その様子を、王都での激務からようやく解放され、淹れたての紅茶を口に含んでいたヴァルドが耳にした途端、「ぶっふぉ!!」と盛大に紅茶を吹き出した。
「ゲホッ、ゲホッ!な、なんだと?レイが…ぬいぐるみ型魔物…だと?」
ヴァルドは咳き込みながら、双子へと詰め寄った。胃薬を噛み砕く間もなく飛び出した言葉は、すでに彼の常識が限界を迎えていることを物語っていた。
「あの二人の思い込みの激しさは、もはや才能だな…しかも、とんでもない方向に…」
ヴァルドは独りごちた。彼らの溺愛フィルターを通すと、どんな異常な現象も「レイの可愛さ」や「レイのすごさ」に結びつくのだ。
双子の報告を受けた王都調査団は、改めて森の調査計画を練り始めた。彼らは、双子が「発見」したとされる「レイを守るぬいぐるみ型魔物」に大きな関心を示した。
「ぬいぐるみ型で、しかも意思を持ち、レイの家族を識別すると!?これは新種の発見の可能性も…!」
「我々を阻んだのは、その生態系を守るための防御機能…やはりあの子供の周囲では、常識では考えられない現象が起こるのだ!」
団長は興奮気味に指示を出すが、ヴァルドはただ静かに胃薬を噛み砕く。
「おそらく、森の植物たちがレイの魔力に感応して、彼を守ろうと勝手に変化しただけだろうな。新種でも何でもない…いや、あの植物たちが、ギルドの登録簿に載せるような生物として定義できるのか?」
ヴァルドは心の中でツッコミを入れる。彼らにとっては魔法生物だが、ヴァルドから見れば、単なる「レイに甘い植物たち」の暴走だ。そして、その暴走が、調査団の「迷子探検」の原因であることも、ヴァルドは薄々感づいていた。ギルド長として王都の最前線で魔物や冒険者を見てきた彼にとって、森で迷うなど考えられないことだが、レイが絡むと全てが例外となる。
双子はログハウスの庭で、レイが以前森で持ち帰ったキノコ(秘密基地に生えているものと同種)を眺めていた。
「レオン、このキノコ、なんかレイの匂いがするわ!きっとこれも、レイが森で育てた新しいお菓子よ!」
「そうか!道理でこんなにも心が安らぐわけだ!これは研究の価値がある!王都に帰ったら、魔力分析してみよう!」
双子の瞳は、レイへの憧憬と妄想でキラキラと輝いていた。彼らは、森の異常な魔力現象を「レイの創造性」として完璧に誤解し、ますますレイへの溺愛を深めていく。
ヴァルドは、そんな双子の姿を見て、内心で安堵の溜息をついた。かつてSランク冒険者として幾多のダンジョンを潜り抜けてきたヴァルドは、彼らが冒険者コースではなく商人コースに進んでくれたことに、心底感謝していた。 身体能力も魔力も文句なしに高い。だが、この極端な思考回路と、レイが絡むと全てが「可愛い」に変換されるフィルタリング能力では、ダンジョンで「可愛いキノコだ!」と近寄って栄養分にされたり、「この魔物、レイの服の飾りになりそう!」と返り討ちにされたりするのが目に浮かぶ。
「これで冒険者になられていたら、胃薬が一つどころか、胃そのものがなくなっていたな…」
王都に帰ればギルドの仕事が山積みなのに、家族のこの状態では、胃薬がいくらあっても足りそうになかった。王都調査団の滞在も、あと数日…彼らの胃袋と正常な思考は、どこまで耐えられるだろうか。




