第60話:秘密基地計画始動!レイのうっかり工房、爆誕?!
双子がログハウスに帰省し、王都の調査団が常駐する中、レイはいつものように庭でシャドウや従魔たちと遊んでいた。しかし、父さんと母さんが双子に「レイの秘密」がバレないよう神経質になっているのを見て、レイは少しだけ窮屈さを感じていた。
「ねぇ、シャドウ、どこか誰にも邪魔されない、僕だけの秘密基地ってないかな?」
レイがそう呟くと、シャドウは鼻を鳴らした。
「主よ。先日、そなたが見つけた森の奥の遺跡は、まさにうってつけではないか?あそこなら、誰も近づくまい。」
シャドウの言葉に、レイの目がキラリと輝いた。そうだ、あの遺跡だ!あの変な匂いのおやつがあった場所!
「わーい!秘密基地だ!行ってみよう!」
レイは従魔たちを連れて、早速森の奥にある遺跡へと向かった。遠目に見てオンボロの石造りの遺跡は、草木に覆われ、まさに忘れ去られた廃墟といった趣だ。しかし、レイにとっては宝の山だ。
遺跡の入り口、そして奥深くにあった隠し扉は、レイが以前足を踏み入れた時には既に開いていた。レイは中に入ると、まず番人だったゴーレムに駆け寄った。ゴーレムはレイがネジを締めて以来、番人としての義務から解放され、遺跡の奥で静かに座り込んでいた。
「ねぇ、ゴーレムさん!僕、ここに秘密基地を作りたいんだけど、手伝ってくれる?」
レイの言葉に、ゴーレムはゆっくりと首を傾げた。
「…ひ…みつ…きち…?」
「うん!みんなで楽しく過ごせる、秘密の場所だよ!ゴーレムさんも一緒にお菓子作りの歌を歌おう!」
レイの無邪気な「言霊理解」に、ゴーレムの体がわずかに震えた。まるで長年の労働から解放された労働者が、初めて温かい言葉をかけられたかのように。
「…うた…」
ゴーレムはレイの言葉を聞き入れると、ゆっくりと立ち上がった。その巨体から微かな魔力が流れ出し、遺跡内部の石の壁が、彼の意図に沿うように少しずつ移動し始めた。古代の技術とレイの魔力が融合し、ゴーレムは番人から、秘密基地建設の強力な助っ人へと変貌したのだ。
「わー!ゴーレムさん、すごいね!」
レイはゴーレムに指示を出し始めた。「こっちの壁はもっと広げて、あっちには棚が欲しいな!ログハウスみたいに、ピカピカにしたいな!」
ゴーレムはレイの指示を忠実に実行していく。レイが持参した古文書には、遺跡の構造図や、古代の魔術師が残した「空間拡張魔法」の簡易版などが記されており、レイはそれを見よう見まねでゴーレムに伝え、ゴーレムはそれを完璧に再現していく。
内部はあっという間に、変貌した。壁は磨かれ、ひび割れた床は平らに整えられた。天井には魔法の光が灯り、埃っぽい空間は、まるで生まれたての新しい部屋のように輝き始めた。シャドウは呆れたようにその様子を見ていたが、ルーナは静かにレイの才能の恐ろしさを再認識していた。
「ふむ、これならセイリオスも驚くだろうな…」
バルドルが上空から覗き込み、感心したように呟いた。
秘密基地の建設が進む中、レイは先日発見した金属製の板(森のGoogleマップ)を手にしていた。
「ねぇ、これって、どこでも行けるドアみたいにならないかな?そしたら、いつでも秘密基地に来れるのに!」
レイがそう呟くと、金属製の板が淡く光を放ち、古文書のページがひとりでに捲れ始めた。古文書には、「簡易転移陣」に関する記述が記されていた。レイはそれを読むと、難解な術式も何のその、まるで絵本を読むかのように理解した。
レイはログハウスの庭の隅に、小枝を使って地面に転移陣の図形をなぞった。その指先から淡い光が流れ出し、地面に描かれた線がそのまま魔力の光を帯びて輝き始める。レイのデザインした簡易転移陣は、円の中にいくつかの記号が刻まれたシンプルなものだった。彼は得意げにその中央に立つと、淡い光に包まれ、次の瞬間、遥か森の奥の秘密基地に設置したもう一つの転移陣へと移動していた。
「わー!すごい!本当にどこでもドアだ!」
レイは目を輝かせた。これで、いつでも誰にもバレずに秘密基地とログハウスを行き来できる。念のため、レイが作った転移陣は、レイの魔力にしか反応しないように設定されている。つまり、レイ以外の人間は誰も使えない、まさに彼だけの「どこでもドア」だ。
そして、レイはゴーレムにも新しい仕事を与えた。
「ゴーレムさん、ここで番人をしてたら疲れちゃうでしょ?これからは、森で迷子になった人がいたら、安全な道に案内してあげてね!あと、もしお菓子作りの歌を歌ってくれたら、一緒に歌ってあげる!」
ゴーレムはレイの言葉に、ゆっくりと頷いた。彼の体からは、以前のような疲弊した魔力ではなく、どこか穏やかな、新しい役割への喜びのような魔力が感じられた。まるで、天空の城を守るかつての番人のように、無垢な心に呼応して、穏やかな守護者となったゴーレムは、ときどき「うた…」と呟きながら、遺跡の入り口で静かに森を見守るようになった。
レイの秘密基地は、外見は古びた遺跡のまま。しかし、その内部は、レイの無自覚なチート能力と、古代の魔法技術が融合した、ピカピカで居心地の良い、レイ専用の遊び場兼工房へと変貌を遂げていた。そこには、失われたハイテク魔法の勉強の本や資料が山のように積み重ねられ、レイは目を輝かせながら、新たな「お菓子作り」ならぬ「魔道具作り」に没頭していくのだった。
その頃、ログハウスの庭では、王都調査団の魔力計測器が異常な数値を示し、団長が頭を抱えていた。
「な、なんだこの魔力反応は…森の奥から、何かとてつもないものが生まれているぞ!しかも、妙に居心地が良さそうな…まさか、救世主様がまた何か…」
ヴァルドは、調査団の慌てふためく様子を横目に、静かに胃薬をもう一錠口に放り込んだ。




