第57話:王都からの刺客?!調査団、ログハウスに現る!
セイリオス先生の特訓により、レイの「大地の祝福」は驚くべき進化を遂げた。今や庭の植物たちは、レイにとって最高の情報源であり、おしゃべりな友人たちだ。王都からの調査団が二日後にやってくるという情報も、庭のバラから仕入れたものだ。ヴァルドは頭を抱えたが、セイリオス先生は「これもレイの能力を試す良い機会じゃ!」と意気揚々としている。
「ねぇ、バラさん!王都のお偉いさんたち、何食べたいって言ってた?」
レイがしゃがみこんで問いかけると、バラの葉がそよぎ、微かな声が響いた。「ふふ、彼らはね、この森で獲れる上質な魔獣の肉と、新鮮な森の恵みを期待しているって。特に、朝露を浴びたハーブの香りを、すごく楽しみにしてるみたいよ?」
その情報に、ミリアは目を輝かせた。「あら、気が利くわね、バラさん!よし、とびきりのご馳走で、おもてなししてあげるわ!」彼女はSランク冒険者の本領を発揮し、早速、森の奥へと食材調達に向かった。ヴァルドは「おもてなし、じゃなくて、秘密厳守が最優先なんですが…」と呟いたが、もうミリアの耳には届いていない。
そして、レイは植物たちとの会話を通じて、彼らの「情報網」が、単なる情報収集だけでなく、遠隔地の「声」を伝えることもできると気づき始めた。試しに、王都の庭園の椿に「じぃじは元気?」と尋ねてみると、数秒後、椿から「アルヴィン宰相は、今日も胃薬が手放せないと嘆いてるわ。秘書官が休むたびに書類の山に埋もれて、げっそりしてるって」という返事が返ってきたのだ。
「じぃじ、本当に胃が痛いんだね!」レイが驚いてヴァルドに報告すると、ヴァルドは遠い目で空を仰いだ。この植物情報網は、手紙が数日かかるこの世界において、とんでもない通信手段になるかもしれない。しかし、同時にプライバシーの概念が崩壊する予感もした。
二日後、ログハウスの上空に巨大な魔鳥が飛来した。王都から派遣されたエリート魔術師と騎士で構成された調査団だ。彼らは厳粛な面持ちで、ログハウスの庭に降り立った。彼らの脳裏には、「神域の救世主」という、厳かで神秘的なイメージが焼き付いている。
しかし、彼らの目に飛び込んできたのは、無邪気に庭を駆け回るレイと、彼を追いかけるミル、そしてその様子をのんびり見守る従魔たちの姿だった。そして、庭のあちこちには、色とりどりの花々で作られた「ようこそ!」の文字と、葉っぱで編まれた奇妙な歓迎ゲートが設置されていた。レイが植物たちから「おもてなし」の助言を受けて、せっせと作ったものだ。
「……これが、神域の救世主の痕跡だと?」調査団の団長である厳格な騎士が、困惑した表情で呟いた。彼の隣にいた魔術師も、額に汗を浮かべ、羅針盤の反応がログハウスを指していることに信じられないといった顔をしている。
「あれー?お兄さんたち、まさか王都から来たお偉いさんたちかな?バラさんが教えてくれたよ!ミリア母さんが美味しいご飯作ってるから、中に入ってね!」
レイは元気いっぱいに駆け寄り、屈託のない笑顔で調査団を歓迎した。彼らは、レイのあまりの無邪気さと、自分たちがイメージしていた「救世主」とのギャップに、完全に思考が停止した。
その時、庭の歓迎ゲートから、まるで合図のように大量のハーブの香りが立ち上った。バラさん情報による「ハーブの香りを期待している」という要望に応えるため、レイが植物たちにお願いして一斉に香りを放たせたのだ。しかし、その香りはあまりにも強烈で、慣れない調査団の面々は思わずむせ返った。
「ぐっ…この芳香は…!」「まさか、これも神域の力の一端なのか…?!」
魔術師の一人が、咳き込みながら羅針盤を再び見ると、羅針盤の針が激しく震え、異常な反応を示していた。それは、レイの放つ無自覚な魔力と、植物たちの強すぎる歓迎が混ざり合った結果だった。
ログハウスの入り口から、ミリアが笑顔で顔を出した。「さあ、皆様!夕食の準備ができましたわ!とっておきのローストをご用意いたしました!」
調査団の面々は、混乱と困惑、そして強烈なハーブの香りに包まれながら、ログハウスへと吸い込まれていった。彼らの胃痛も、すでに始まっているようだった。ヴァルドは遠くからその様子を見て、静かに胃薬を噛み砕いた。このおもてなしは、果たして吉と出るか、凶と出るか。




