第55話:じぃじも巻き込まれる!従魔とのハモり特訓?!
アルヴィン宰相の突撃訪問と、その裏で交わされた「レイの無自覚チート能力を、なんとか従魔で補ってもらおう大作戦」の密談。そして、セイリオス先生からのまさかの「お主も特訓に加わるが良い」という無慈悲な一言に、アルヴィンは完全に固まった。彼の顔に、「え、マジで?!冗談だろ?!」という驚きの表情が浮かぶ。しかし、レイのキラキラした瞳と、お菓子を期待する従魔たちの視線に、断ることはできない。特に、レイの無邪気な「じぃじも一緒にやろう!」という一言が決め手だった。
セイリオスの指示で、アルヴィンは渋々目を閉じ、瞑想の姿勢をとった。彼の従魔たちも、言われるがままにアルヴィンの周りに集まる。フェネックは不安げに耳を動かし、スズメフクロウは首をかしげ、ピグミーメガネザルは警戒するように周囲を見回し、ナキウサギはぶるぶると震えている。彼らもまた、宰相の無茶ぶりに巻き込まれることに不安を隠せないようだ。
「よし、アルヴィン殿、まずは己の魔力を澄ませ、従魔たちの波動を感じ取るのじゃ!王都の書類の山のことなど忘れるのじゃ!」セイリオスの声が響く。
アルヴィンは集中しようと試みたが、彼の脳裏に浮かんだのは、積まれた書類の山、胃痛の感覚、そして秘書官の怨念のような視線だった。まるで、頭の中に書類の山がドーム状にそびえ立っているようだ。その瞬間、アルヴィンの従魔たちが一斉にざわめき始めた。
「……書類、ヤバイ…」「胃、痛い…」「早く帰りたい…」「秘書官、怖い…」「もう限界だ…」
レイの頭の中に、文字通り「心の声」が流れ込んでくる。それは、従魔たちの波動に乗って伝わってきた、アルヴィンの本音そのものだった。レイは目を大きく見開き、驚きと同時に、じぃじの心の声が面白くてたまらないといった表情を浮かべた。彼の顔には「じぃじって、いつもこんなこと考えてるんだ!」と書いてある。
「じぃじ、お仕事嫌なんだって!胃が痛いって言ってる!秘書官が怖いんだって!」
レイの無邪気な言葉に、アルヴィンの顔は一瞬で真っ赤になった。従魔たちは、レイの言葉に同意するように、それぞれが小さく鳴き声を上げた。シャドウは小さく鼻を鳴らし、ルーナは静かに微笑んでいる。ヴァルドは遠くでこの様子を見守りながら、彼の胃も共鳴するように痛んだ。「父上、そこまで心が丸裸になるとは…」
「こ、これは特訓の邪魔じゃ!レイ、わしの心の声を聞くのはやめるのじゃ!」アルヴィンは慌てて目を開け、レイを制止しようとするが、時すでに遅し。レイはすっかり従魔たちの「心の声」を聞くのが楽しくなってしまったようだ。
その時、アルヴィンの体が、微かに青白い光を帯び始めた。彼自身は全く気づいていない。光は瞬きのように現れては消え、まるで彼の秘めたる力が、レイの特訓に感応しているかのようだった。しかし、アルヴィンはただ「む、なんだか目がチカチカするな。最近老眼がひどくなったのか…」と首をかしげるだけだ。その様子に、セイリオスは小さく目を細めた。彼の鋭い視線は、アルヴィンが持つ「神託の力」の兆候を捉えていた。
「おお、見事じゃ、皆の衆!連携が取れておるぞ!」セイリオスは満足げに笑った。彼の目には、この特訓が成功する未来が見えているようだ。
「よし、レイ。では、適当に魔力を放ってみるのじゃ!」セイリオスが指示を出す。
「わーい!わかった!」レイは無邪気に両手を広げ、小さな魔力の球を放とうとする。その瞬間、従魔たちの間に緊張が走った。
シャドウはすばやくレイの腕を抑えようとし、ミルはレイの周りを素早く飛び回り注意をそらす。ルーナはレイの背後に回り込み、もしもの事態に備えて魔力を集中させる。そして、バルドルは上空で警戒態勢に入った。
アルヴィンの従魔たちも、レイの魔力を感じ取ると、本能的に行動を起こした。フェネックはレイの足元に飛びつき、彼の注意をそらそうとする。スズメフクロウはアルヴィンの頭上でバタバタと羽ばたき、ピグミーメガネザルは奇妙な声を上げてレイを牽制し、ナキウサギはすでに庭の隅へと逃げ込み、土に頭を埋めている。まるで、レイの魔力が世界を終わらせるかのような反応だ。
「と、止めるのじゃ!そこまで警戒しなくて良いぞ!」アルヴィンは自分の従魔たちの過剰な反応に焦った。しかし、彼らは本気だった。レイの無自覚な力は、従魔たちにとって、とんでもない脅威として認識されているようだった。
「おお、見事じゃ、皆の衆!連携が取れておるぞ!」セイリオスは満足げに笑った。彼の目には、この特訓が成功する未来が見えているようだ。
ログハウスの庭では、今日もまた、レイの無自覚なチート能力と、それに振り回される大人たち、そして新たに巻き込まれた宰相と彼の従魔たちの、賑やかで楽しい、しかし胃が痛くなるような日々が続いていくのだった。




