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第53話:じぃじ、森に現る!そして密かな相談

 王都での胃が痛くなるような激務と、レイが引き起こす(無自覚な)騒動に頭を悩ませていた宰相アルヴィンは、ついに決断した。このままでは、いつ何時レイがとんでもないことをしでかすか分からない。いや、すでにしでかしている。しかも、神様をうっかり浄化してしまっている。そして、その事態に自分だけが対処しきれるのか、という不安も募る。彼は、ログハウスの結界と、そこに常駐する賢梟セイリオス、そして何より愛する孫のレイに会いたくて仕方がなかった。

「もうダメだ、こんな書類仕事ばかりでは身が持たぬ!胃に穴が開く前に、癒しが必要だ!」

 執務室で大量の書類に埋もれていたアルヴィンは、ガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。彼の従魔であるフェネックが、そのただならぬ気配にピクリと耳を動かす。 「宰相閣下、どちらへ?まだ書類が山ほど…」 秘書官が慌てて尋ねるが、アルヴィンはもうほとんど聞いていない。 「フン、気分転換よ!少しばかり、我が癒しの地へ赴く!まさか、休日にまで書類の山に埋もれるとはな!」 そう言い残すと、アルヴィンはさっさと執務室の奥にある転移設備へと向かった。秘書官の悲鳴のような声も虚しく、アルヴィンの姿は光の中に消えた。彼は、ヴァルドが「緊急事態が発生した場合」に備えて、自分の許可があればヴァルドなしでも転移できるよう、裏でこっそり手を回していた。もちろん、ヴァルドには内緒だ。サプライズ訪問である。

 ログハウスの庭に、眩い光が弾けた。その光の中から、銀髪をなびかせたアルヴィンが、颯爽と現れる。彼の従魔であるスズメフクロウが、その肩で羽ばたく。 「ふむ、やはりこの地の空気は清浄で心地よいな。ああ、仕事の疲れが吹き飛ぶようだ!これで胃も癒されるわい!」 アルヴィンは大きく深呼吸すると、庭を見渡した。すると、そこには従魔たちと無邪気に遊ぶレイの姿が。

「じぃじ!」

 レイが満面の笑みで駆け寄ってくる。その笑顔に、アルヴィンの顔の皺が少しだけ緩んだ。癒しの泉に浸かるよりも、レイの笑顔の方が効果があるようだ。

「おお、レイ!元気にしておったか!」 アルヴィンはレイを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。その瞬間、彼の耳元でスズメフクロウが小さく鳴いた。

「……む?レイ、お主、また何か面白いことをしでかしたのか?王都がまた騒がしいぞ?」 アルヴィンは、レイの体に宿る清浄な魔力の残滓と、周囲の気の流れの変化に気づいた。それは、王都で感知された、あの不可思議な現象と酷似している。

「え?何もしてないよ!ただ、お勉強して、弓の練習しただけ!的がなんか変な光になっちゃったけど、消えたからいいでしょ?」 レイはきょとんとした顔で答える。その無邪気な言葉に、アルヴィンは深くため息をついた。やはり、この子は自覚がない。そして、とんでもないことを「変な光」の一言で済ませている。

 その日の昼食は、急な来客に驚きつつも、ミリアが腕を振るった豪華なものになった。食卓には、ミリアがダンジョンで手に入れた上質な魔獣の肉を使ったローストや、レイが作った色とりどりのお菓子が並ぶ。アルヴィンは、久しぶりに家族全員で食卓を囲む喜びを噛みしめていた。王都の高級レストランよりも、こっちの方が美味しい。

 食事が終わり、レイが庭で従魔たちと遊び始めた頃、アルヴィンはヴァルドを呼び出した。

「ヴァルドよ。先の魔力変動と、邪神の眷属の浄化だが……やはり、レイが関係していると見て間違いないだろう。まさか、孫が神様を浄化するとはな。」

 アルヴィンは、昨日の会議での報告と、今朝レイと会った直感的な確信をヴァルドに伝えた。

 ヴァルドは深く頷いた。彼の顔には、諦めと胃痛が刻まれている。

「ええ、父上。私もそう思います。弓の練習と言っていましたが、どうもあの光の矢のような消滅の仕方は、レイの仕業としか考えられません。もはや、彼の『うっかり』は世界の危機に直結しているかと…」

「うむ……」アルヴィンは腕を組んだ。

「あの力の根源を探る必要がある。このままでは、いつ世界がひっくり返るか分かったものではない。いや、もうすでにひっくり返っているのかもしれぬ。だが、レイに直接尋ねても、本人は自覚がないゆえに、何も分からぬだろう。そこでだ……」 アルヴィンの顔に、悪巧みをするような笑みが浮かんだ。その笑顔は、どこかセイリオスと似ている。

「レイには、従魔たちともっと深く心を通わせる術を学ばせてはどうかと考えている。すでに契約の王印を持っているのだ。彼らとより密接に連携できるようになれば、レイの無自覚な行動を、彼らが補ってくれるかもしれぬ。言わば、従魔たちがレイの『うっかりストッパー』になってもらうのだ。」

 ヴァルドは目を丸くした。

「従魔との連携強化、ですか?しかし、レイはすでに十分、従魔たちと心を通わせているように見えますが……これ以上深める必要があるのでしょうか?」

「いや、レイは大地の祝福を持っている。そして、言霊理解の能力もある。精霊や魔獣、幻獣との相性は抜群だ。彼らとの魂の繋がりをさらに深めることで、レイ自身の魔力の流れや、その力の使い方が、もっと明確になるかもしれぬ。それに、レイ自身も、従魔たちと直接、より深く会話できるようになれば、喜ぶだろう。何より、彼の力が暴走した時に、彼らが止めてくれる可能性がある。」 アルヴィンの提案は、レイの能力を「制御」する第一歩となるかもしれなかった。そして、何よりレイ自身が、この新しい学びを楽しんでくれるだろう、という思惑もあった。

「しかし、父上。そのような術は、通常の魔術とは異なります。一体、誰に教えてもらうのですか?まさか、私がやるのですか?」 ヴァルドが尋ねると、アルヴィンはにやりと笑った。

「無論、セイリオス先生よ。彼はあらゆる知識に通じておる。それに、我が王国の精霊術の大家といえば、彼に勝る者はいないだろう。どうせなら、レイの才能を最大限に引き出してもらおうではないか。」

 王都の重鎮たちは、未曽有の魔力変動に戦慄し、救い主を必死に探している。その一方で、ログハウスでは、宰相とギルド長が、その「救い主」に従魔との魂の繋がりを深める術を学ばせるという、壮大な計画を企んでいた。レイの無自覚なチート能力は、今日もまた、新たな展開を巻き起こす。そして、セイリオスの胃も、これから少しばかり痛み出すことだろう。

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