第50話:ヤバい才能と、父ちゃんの大決心!
王都でのてんやわんや会議と、父さんとのコソコソ密談を終え、ヴァルドは疲労困憊のままログハウスへと戻ってきた。まるで、巨大なダンジョンから生還した冒険者のようだ。しかし、彼の心は一向に晴れない。幼いレイが無邪気に放った魔法が、世界中の高位魔術師たちを「ぎゃー!何が起きたー?!まさか、僕の昼ごはんが消えた!?」とパニックに陥れたという事実に、驚きと同時に、「このままではマジでヤバイ!ログハウスごと世界が吹っ飛ぶ!」という、とてつもない責任感が、ずっしりと彼の肩にのしかかっていたのだ。
その日の午後、庭で従魔たちとキャッキャウフフと無邪気に遊ぶレイのそばに、賢梟のセイリオスがスーッと静かに降り立った。まるで、空から舞い降りた偉大な預言者のようだ。今朝のドタバタ劇、そしてアルヴィンじぃじの「まさかあいつが…?僕の胃はもう限界だ…」と不安げな顔が、ヴァルドの頭の中を何度も駆け巡る。ヴァルドはレイの前にゆっくりと歩み寄り、セイリオスを見上げた。
「セイリオス先生!今朝の件なんですけど、レイに何か、とんでもないことが…?!まさか、悪魔にでも憑りつかれたんでしょうか?!」
ヴァルドの問いかけは、困惑と期待がごちゃ混ぜになり、もはや諦めすら滲むような声だった。セイリオスは金縁の眼鏡をくいっと押し上げ、深々と息を吐く。その様子は、まるで「やれやれ、また面倒なことに巻き込まれたわい。私の研究時間が削られる…」とでも言いたげだった。
「ヴァルドよ。お主の直感は正しい。レイの才能はな、このわしの古ーい脳みそでも想像を遥かに超えておる。今朝、レイが放ったあの魔法は、複合魔術の領域をはるかに逸脱したものだった。あれはな、魔法の根源……この世界の真理にうっかり触れちゃったような、とてつもない力じゃ!まるで、おもちゃ箱をひっくり返したかのようにな!」
セイリオスの言葉に、ヴァルドは「え?うっかり?!そんなアホな!」と絶句した。レイが、そんなアホみたいに途方もない力を秘めているというのか?!彼の頭の中には、すでに世界がうっかり爆発する未来が見えていた。
「レイは、まだその力を完全に制御できておらん。いや、むしろ無自覚すぎて、何をしでかすか分からんという危険性も大きい。だが、それは同時に、無限の可能性を秘めておるということじゃ。言ってみれば、彼は動く天災、いや、動く奇跡の塊と言えるだろう。」
セイリオスは、何も知らないまま、楽しそうに風の魔法で従魔たちと戯れているレイに視線を向けた。レイは、ミルとシャドウを風で軽々と浮かせて、大はしゃぎしている。シャドウは一瞬、クールを保とうとするが、結局は風に身を任せて楽しんでいた。その光景は、あまりに微笑ましく、そして同時に恐ろしい。「可愛い…でも、世界を滅ぼすかも…」とヴァルドは頭を抱えた。
「かつて、フレイ神の血を引くユングリング家には、稀に世界の理を『えいっ!』と揺るがすほどの才能を持つ者が現れたと聞く。レイはその中でも、群を抜いておる。まるで、突然変異か、はたまた神様の悪戯か。だからこそ、親として、そして不思議な図書室の管理者として、お主がレイの力を正しく導き、世界がひっくり返る前に守り抜かねばならぬ。さもなくば、このログハウスも宇宙の塵となるぞ!」
ヴァルドはセイリオスの言葉を、もう生真面目どころか、半泣きに近い真剣な面持ちで受け止めた。王都での父アルヴィンとの「またアイツが…胃が痛い…」という会話、そして今、セイリオスから語られた「うっかり真理に触れちゃったチート幼児」の真実。彼の胸中で、ギルド長としての責任と、父としての「なんとかしなきゃ!このログハウスを、そして世界を、レイのうっかりから守るんだ!」という切迫した覚悟が、熱い奔流となって一つになっていくのであった。
「はい、セイリオス先生!レイの力を、僕が必ず導きます!そして、絶対に世界をひっくり返させません!守り抜いてみせます!たとえ僕が胃潰瘍になろうとも!」
ヴァルドの瞳には、かつてSランク冒険者として幾多の困難を乗り越えてきた者だけが持つ、強い決意……と、ほんの少しの諦めが宿っていた。彼の心の中では、「レイ、頼むから大人しくしてくれ!」という叫びが木霊していた。
セイリオスは満足げに頷いた。
「うむ。その決意、しかと受け取った。わしにできることがあれば、何なりと申し付けるが良い。そして、レイには、もう少し高度な魔導の知識が必要になるやもしれぬ。なにせ、世界をうっかり滅ぼしかねないからな。これは一種の教育責任だ。それについては、わしが全面的に協力しよう。もちろん、研究材料としても大いに期待しておるぞ。」
レイの秘めたる才能は、世界をざわつかせ、家族に新たな「大仕事」を促した。不思議な図書室の管理者として、そして一人の父として、ヴァルドはレイの未来、いや、世界の未来を背負うことになる。そして、賢梟セイリオスの導きのもと、レイの無自覚な力は、さらにその「とんでもない」深淵を覗き始めるのだった。ヴァルドは、これからの胃薬の量が倍増することを覚悟した。




