第5話:契約の光、モフモフ家族爆誕!
レイが異世界に来てから数ヶ月が経った。ログハウスでの生活は、祝福の力を持つレイにとって、驚きと喜びに満ちた日々だった。シャドウは相変わらず気まぐれだが、レイが困っているとさりげなく助けてくれる。まるで「仕方ないな、レイは」とでも言いたげだった。ミルは元気いっぱいにレイの周りを飛び回り、時々ドジをしてはレイを笑わせた。そして、ふわふわは、レイの家庭菜園に欠かせない存在となり、その温かい魔力で植物たちをすくすく育ててくれたのだ。
レイは彼らを心から「友達」だと思っていた。だが、彼らと「契約」を交わしたいという思いが、日増しに募っていた。契約すれば、もっと深く、彼らと心を繋げられる。より強い絆で結ばれることができるはずだった。
ある日の午後、レイは庭の隅にある大きな樫の木の下で、シャドウ、ミル、ふわふわと一緒に過ごしていた。シャドウはレイの膝の上で丸くなり、ミルはレイの肩に、ふわふわは足元で気持ちよさそうに寝息を立てている。まるで、「ここは僕らの特等席だ」とでも言いたげな、平和な光景だった。
「ねぇ、みんな。僕と契約してくれないかな?」
レイは、そっと彼らの頭を撫でながら、心の中で語りかけた。幼いレイの言葉は、〈言霊理解〉の祝福によって、彼らの心に直接届いた。
シャドウはゆっくりと金色の瞳を開き、レイの顔を見上げた。その瞳には、深い信頼と、そして少しの迷いが宿っているように見えた。ミルは「ぴぴぃ?」と首を傾げ、ふわふわも「ぴぃ……」と小さく鳴いた。
レイは、彼らが即座に頷くことはないだろうと知っていた。契約は、強制するものではない。彼らが心から望んでくれること、それがレイの願いだった。「君たちの自由な意思を尊重するよ!」 レイは心の中で誓った。
「僕、みんなとずっと一緒にいたいんだ。美味しいものを一緒に食べて、森で遊んで、本を読んで……。どんな時も、みんなと分かち合いたい」
レイのまっすぐな思いが、彼らの心に響いたのだろう。
▪️契約の王印、ピカーン!モフモフ家族、誕生の瞬間!
最初に動いたのは、シャドウだった。彼はレイの膝から降りると、静かにレイの前に座り、その金色の瞳でレイをじっと見つめた。そして、小さく、しかしはっきりと「……契約、する」と返事をした。その声は、レイの心に力強く響いた。
その瞬間、レイの右手のひらに、淡い金色の光が灯った。その光は、ゆっくりと渦を巻き、まるで古代の文字が刻まれたかのように、複雑な紋様を形成していく。これが、〈契約の王印〉だ。シャドウの体からも、同様の光が立ち上り、レイの王印と強く共鳴した。
強い光が、庭に差し込む木漏れ日を貫いた。ピカッと眩い光が収まった後、シャドウの姿は変わらないように見えた。しかし、レイには確かに感じられた。彼との間に、以前よりもはるかに強固な絆が結ばれたことを。シャドウは、レイの足元に擦り寄ると、その体をレイの影の中へと滑り込ませた。
「にゃあ……」
それは、満足げな、しかしどこか誇らしげな鳴き声だった。まるで、「これでレイは完全に俺のものだ」とでも言いたげだった。
続いて、ミルがレイの肩から飛び降りて、レイの前に降り立った。「ぴぴぃ! ぴぃ!」と元気に鳴きながら、レイの目の前で何度も跳ねた。レイが「ミルも契約してくれるの?」と問いかけると、ミルは「ぴぃ!」と力強く返事をした。まるで、「もちろんさ!待ってたよ!」とでも言わんばかりだった。
再び、レイの右手の王印が輝き、ミルの小さな体からも光が放たれる。眩い光に包まれ、ミルはレイの肩に飛び乗った。彼との間にも、確かな繋がりが生まれた。
最後に、ふわふわがゆっくりとレイの足元にやってきた。その大きな瞳は、レイを真っ直ぐに見つめている。
「ふわふわも、僕と契約してくれる?」
レイが優しく尋ねると、ふわふわは「ぴぃ……」と、少し恥ずかしそうに、しかし確かに頷いた。レイの王印と、ふわふわの体から放たれる温かい緑色の光が溶け合うように重なり、契約が成立した。その光景は、まるで大地とレイの心が一つになったかのようだった。
三匹の魔獣との契約が完了した瞬間、ログハウス全体を、清らかな魔力の波が包み込んだ。それは、祖父アルヴィンが張った結界にも共鳴し、空間が祝福されたかのような、温かい感覚だった。
ログハウスの中にいたヴァルドとミリアも、その強大な魔力の波動に気づき、慌てて庭へと駆けつけてきた。
「レイ! 今の光は……!」
ヴァルドが驚きの声を上げた。ミリアも、レイの周りにいるシャドウ、ミル、ふわふわ、そして輝くレイの右手のひらを見て、目を見開いた。
「祝福の力……? レイが、魔獣と契約を……!」
ヴァルドがレイの右手に刻まれた王印を見つめ、感慨深げに呟いた。その顔には、驚きと、そして何よりも喜びが浮かんでいる。しかし、この後の胃痛の種になるとは、まだ知る由もなかった。
「うん! みんな、僕の家族になったんだ!」
レイは満面の笑みで、三匹の従魔たちを抱きしめた。シャドウはレイの腕の中でゴロゴロと喉を鳴らし、ミルはレイの頬に擦り付き、ふわふわはレイの手に顔を埋めた。
この瞬間から、シャドウ、ミル、ふわふわは、レイにとってかけがえのない「従魔」となった。そして彼らは、ただのペットではない。レイの家族として、この異世界での生活を共に歩む、大切な仲間たちなのだ。彼らとの絆は、レイの心に温かい光を灯し、これからの冒険への確かな一歩となったのだった。