第49話:世界が「え、今なんかあった?!」からの、父ちゃん青ざめ会議!
レイがログハウスの庭の片隅で「火と風と大地の三重奏魔法」をうっかり大成功させてしまった、そのたった一瞬の出来事が、遠く離れた王都に、まるで地震のような衝撃をもたらした。王城の宰相執務室で、のんびりと書類を広げていた宰相アルヴィンは、手元の魔力羅針盤がブルブル、いや、ドゥルルルルル!!!と激しく震え、真っ赤な異常反応を示したことに目を見開いた。長命なユングリングの血筋ゆえに、実年齢より遥かに若々しい顔に、稀に見る焦燥の色が浮かぶ。その表情は、まさに「え、今日って終末の日だっけ?!それとも、僕のランチに何かあった?!」とでも言いたげなものだった。
時を同じくして、王都のギルドで執務にあたっていたギルド長ヴァルドも、肌で感じるほどの魔力の脈動に、思わずピクッと顔を上げた。元Sランク冒険者であるヴァルドの鍛え上げられた体が、微かにプルプルと震える。その尋常ではない波動に、ヴァルドは思わず周囲を見渡した。すると、ギルド内の他の冒険者や職員たちも、まるで「今、空から何かが降ってきた?いや、世界が揺れた?!お昼ご飯は無事か?!」とでも言いたげに、ざわめき、一斉に空を見上げていたのだった。中には、あまりの衝撃に、持っていたクエスト用紙を落とす者までいた。
アルヴィンは、このただならぬ事態に即座に緊急会議の招集を命じた。招集されたのは、王宮魔術師団長、騎士団長、そしてギルド長であるヴァルドをはじめとする、「この国をどうにかしろ!そして、あわよくばこの謎を解け!」と期待される国の主要な要人たちである。皆、ただならぬ雰囲気に顔を強張らせ、緊急の呼び出しに応じるしかなかった。休日だった者も、寝癖のまま駆けつけてきた。
▪️王都の騒乱:緊急会議は胃が痛い?!
会議室に集められた要人たちの前に、銀髪の紳士然としたアルヴィンが、まるで「今日の胃薬は倍量だ…いや、もはや点滴レベルだ…」とでも言いたげな厳しい表情で口を開いた。
「諸君、今しがた起こったことについて、報告を受ける。コーヒーでも飲んで落ち着いてくれ。」
王宮魔術師団長が、顔色を失ったまま口火を切った。彼の顔色は、まさに「寝不足で見た悪夢が現実になった上に、追い討ちをかけられた」といった感じである。
「宰相閣下。今、世界中で未曾有の魔力変動が観測されました。ごく短時間でしたが、その規模はかつての魔王戦争に匹敵するほどかと……。特に、火、風、大地の三属性が完全に融合したような、とんでもなく異質な波動でした。まるで、誰かがとんでもないごった煮を作ったかのようです!」
続いて、ギルド長であるヴァルドが報告を続ける。彼の声は、普段の冒険者としての力強さがどこへやら、やや震えていた。まるで、巨大なスライムにでも遭遇したかのようだ。
「ギルドの魔力感知網も一斉に最大値を振り切り、各支部からの報告も同様です。世界中から同時刻に、同様の波動が感知されています。幸い、今のところ直接的な被害報告は上がっていませんが、この原因は全く不明です。誰か、面白半分で世界を揺らしたやつがいないか、絶賛捜索中です!見つけたら、厳重注意の上、特大ボーナスを出すべきか悩むところです!」
騎士団長もまた、普段の威厳ある態度とは異なり、不安げな表情で頷いた。彼の額には、冷や汗がキラリと光る。
「我が騎士団の魔術士も、同様の報告をしております。これがもし、何らかの攻撃や予兆だとすれば、これほどの力を持つ存在を、我々が認識していないというのは由々しき、いや、恐ろしき事態です。まるで、新しい魔王が生まれたかのようです…でも、ちょっと方向性が違うような?」
会議室には、重く、そして胃にずっしりとくるような沈黙が落ちる。皆が、この理解不能な現象に頭を抱えていた。まるで、「え、うちの国、滅びるの?それとも、新しい税金が増えるの?!」とでも考えているようだった。
「三属性の複合魔法……それも、これほど広範囲に影響を与えるとは。一体、誰が、何の目的で……もしかして、宇宙人が来たのか?」
アルヴィンは深く息を吐き、机に置かれた魔力羅針盤をじっと見つめた。その針は、今も微かに震え続けている。まるで、「まだなんかあるぞ…早く気づけ…」と囁いているかのようだった。
「被害がないことが、かえって不気味だ。これは、新たな脅威の兆候か、あるいは、何らかの『とんでもない』覚醒の前触れか……。もしかしたら、世界がもっと面白くなる予兆なのかもしれない。」
アルヴィンは立ち上がり、窓の外の空を見上げた。穏やかに見える空の下で、世界は今、レイが引き起こした無自覚な一撃によって、静かに、しかし確実にざわめき始めていたのだ。
「ギルド、王宮魔術師団、そして騎士団は、この件について徹底的に調査を進めてくれ。何としてでも、この現象の正体を突き止めねばならない!胃に穴が開く前に!そして、もし犯人が見つかったら、まずはおやつを奢ってやってくれ!」
ヴァルドをはじめとする要人たちは深く頭を下げた。彼らはまだ知らない。この世界を揺るがすほどの魔力変動が、遠く離れた森のログハウスで、一人の幼い少年が無邪気な好奇心から起こした、ささやかな魔法実験の結果であることを。そして、その少年が、彼らの心を癒す泉まで湧かせていたことも。
父子の密談:まさか、ウチの子が?!
緊急会議が終わり、王宮の要人たちがそれぞれの持ち場へと、足早に、しかしどこか疲れ切った様子で戻っていく中、宰相アルヴィンは、ヴァルドだけをその執務室に留めた。ドアが静かに閉じられ、二人きりになると、アルヴィンの表情は公の場の宰相から、一人の「困り果てた父親」のそれへと変わる。その顔には、「もう勘弁してくれ…」と書いてある。
「ヴァルドよ。先ほどの魔力変動だが……お前は何か、心当たりはないか?」
アルヴィンは、他の要人たちには見せなかった、探るような、いや、「まさか、ウチの子じゃあるまいな?頼むから違うと言ってくれ、僕の胃が持たないんだ…」という切実な視線をヴァルドに向けた。彼の言葉は、国の最高権力者の問いというよりは、息子への、そして自分自身への、悲痛な問いかけだったのだ。
ヴァルドは一瞬、言葉に詰まった。父の問いが、何を意味しているのか。自分にはレイがいる。そして、レイの周りでは、常識では考えられないような、「え?そんなことある?マジで?」という出来事が頻繁に起こるのだ。先日、庭に癒しの泉が湧いたことも、まさにその一つだった。あの泉のせいで、ペンギン精霊たちはますます自由奔放になったし…。
「父上……正直なところ、具体的な心当たりはありません。しかし、あの波動を感じた時、私の脳裏には、ちょっと嫌な、ある可能性がよぎりました。まるで、夢に出てきた悪魔のように…。」
ヴァルドは正直に答える。彼の脳裏には、ログハウスの庭で無邪気に魔法を練習するレイの姿が、鮮やかに、しかし恐ろしく浮かんでいたのだ。そして、彼が次に何を「うっかり」しでかすのか、とんでもない予感がしていた。
アルヴィンはヴァルドの言葉に、静かに、しかし深いため息とともに頷いた。彼の額には、新たなシワが刻まれたようだ。
「そうか……。やはりお前も、同じ可能性を考えているか。あの羅針盤は、ユングリングの血が濃い者でなければ扱えぬ。そして、長年、国の魔力変動を見守ってきたこのわしにとっても、これほどの反応は初めてのことだ。まさか、この歳になって胃潰瘍の心配をするとはな…しかも、原因が孫とは…。」
「レイが、ですか……?」ヴァルドは、まだ信じられないといった様子で小さく呟いた。まだ確証はない。だが、彼の直感と、父の鋭い問いが、一点を、つまり「我が息子、レイ」を指し示しているようだった。なんて恐ろしい子だ。
「わからぬ。だが、もしそうであるならば、その力は想像を絶する。不思議な図書室の現在の管理者であるお前が、そしてユングリングの当主として、わしも動かねばならぬ。このことは、くれぐれも他言無用だ。特に、レイには絶対にな。本人が一番ビックリするだろうし、もし調子に乗ったら、次は世界が爆発するかもしれんからな。」
アルヴィンはヴァルドの目を見据え、厳しく言い含めた。レイの能力が、世に知られることの危険性を誰よりも理解しているからこその言葉だった。何よりも、自分の胃袋の平和のためにも。
「承知いたしました、父上。レイには秘密にしておきます。ただ、彼が次に何を『うっかり』するのか、私も気が気ではありませんが…。」
ヴァルドは深く頭を下げた。彼の心には、愛する息子の底知れぬ力への驚きと、その力を守り育むことへの決意が、静かに、しかし熱く燃え始めていたのだ。世界がざわめく中、ユングリング家は、また一つ、新たな秘密と、そしてとんでもない日常と向き合うことになるのだった。そして、アルヴィンとヴァルドの胃痛は、これからも続きそうだ。




