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第48話:こっそり魔法実験!でも世界がざわつく?

 ログハウスの庭に湧き出した癒しの泉は、従魔たちの新しいお気に入りの場所となり、彼らがはしゃぐ声がいつも響いていた。レイも、従魔たちの楽しそうな様子を見るたびに、心が温かくなった。まるで、庭が巨大なテーマパークになったかのようだ。そんな穏やかな日々の中、レイは図書室での学びとセイリオスの授業で得た知識に、新たな好奇心を掻き立てられていた。それは、「複合魔術」と呼ばれる、複数の属性を同時に操る高度な魔法だ。中でもレイの興味を引いたのは、「火と風と大地の三重奏魔法」という、なんとも響きの良い記述だった。

「これ、やってみたらどうなるんだろう?もしかしたら、すごいケーキとか作れるかも?」

 レイは、誰にも邪魔されないよう、こっそりと庭の奥、従魔たちから少し離れた場所にやってきた。まるで、秘密基地で秘密の実験をする科学者のようだ。深呼吸をして、集中する。まず、指先に温かい炎を灯し、次に柔らかな風を巻き起こす。そして、足元の大地から力強いエネルギーを引き出すイメージ。三つの異なる属性の魔力を、同時に、そして完璧に調和させる。

 難しい。けれど、レイは諦めなかった。何度も失敗し、小さな炎が風に消えたり、土塊がバラバラになったりしたが、そのたびに集中力を高め、感覚を研ぎ澄ませていく。まるで、修行中の武道家のようだ。やがて、レイの小さな体が、微かな光に包まれた。

「う……ん、今だ!」

 レイが小さく息を吐いたその瞬間、三つの魔力がまるで生き物のように絡み合い、一つの輝く球体となってレイの手のひらから放たれた。それは、赤と緑と黄色の光が複雑に混じり合い、きらきらと瞬く、まさに魔法の芸術品だった。球体は宙を舞い、静かに庭の片隅に着地すると、音もなくフッと消えた。地面には、焦げ跡も、吹き飛ばされた跡も、何も残っていない。ただ、その場所から、微かに清々しい風が吹き抜けるだけだった。まるで、魔法が「あら、失礼しました」と言って去っていったかのようだ。

「やった!できた!これで、僕も一人前の魔法使いだ!」

 レイは、満面の笑みを浮かべた。初めての複合魔術成功に、心底満足げな表情で頷く。しかし、レイは全く気づいていなかった。その小さな成功が、どれほど遠く、どれほど大きな影響を及ぼしたかを。世界が、まるで地震でも起きたかのようにざわつき始めていたのだ。

 その同じ瞬間、遠く離れた王都の王宮魔術研究所では、最高位の魔術師が顔色を変えて立ち上がった。彼の顔は、まるでレモンを丸かじりしたかのように酸っぱくなっている。

「何だ、この魔力の高まりは?!今、世界のどこかでとんでもないことが起きたぞ!これは歴史の教科書に載るレベルだ!」

 彼の水晶玉が激しく明滅し、研究室の書物がガタガタと音を立てる。まるで、書物たちが「何があったんだ?!」と囁き合っているかのようだ。

 砂漠の国の隠された聖域では、白衣の老賢者が静かに座っていた瞑想の姿勢を崩し、ゆっくりと空を見上げた。その目は、まるで宇宙の真理を見通すかのように澄んでいる。

「……感じたか、この波動を。新たな時代が、あるいは、とんでもない災厄が始まる予兆か……。私の昼寝の邪魔をするとは、何者だ!」

 彼の傍らに侍る弟子たちが、その異様な気配にざわめき始める。「師匠の昼寝を邪魔するなんて、よほどの魔物だ…」と戦々恐々としている。

 雪山の奥深くに住む魔術師は、普段はどんなことにも動じない冷静沈着な人物だったが、この時ばかりは目を見開き、凍てつく空に手をかざした。彼の顔は、まるで凍りついた湖面のように硬直している。

「まさか、ありえない……。これほどの魔力変動、一体誰が……?!もしや、氷の精霊が暴走したのか?!」

 彼の杖の先端に宿る魔石が、激しく脈動する。まるで、心臓がバクバクしているかのようだ。

 海に囲まれた島国の魔術師は、波の音を聞きながら書物を読んでいたが、突然、全身の鳥肌が逆立つような感覚に襲われた。まるで、真夏のビーチで幽霊を見たかのような反応だ。

「これは……とんでもない魔力だ。まるで、古の神々が目覚めたかのような……。もしかして、海坊主の仕業か?!」

 彼は慌てて祭壇に供えられた魔法の羅針盤を手に取ったが、その針は激しく震え、定まることがなかった。まるで、羅針盤が「もう無理!」と叫んでいるかのようだ。

 広大な草原の民を束ねるシャーマンは、大地に耳を傾けていたが、突如として顔を上げ、遠い空を見つめた。その顔には、驚きと、どこか期待のような表情が浮かんでいた。

「大地の波動が、天へと駆け上がった……。これほどの力は、我らの歴史にも類を見ない。一体、何が始まるというのか……。ひょっとして、新しいお祭りが始まるのか?!」

 彼の部族の者たちは、その異変に戸惑い、不安げな表情で空を見上げていた。中には、「きっと美味しいものが降ってくるに違いない!」と期待する者もいた。

 地下深くに築かれたドワーフの王国では、魔術師兼鍛冶師の長が、精巧な魔力計測器の前で唸っていた。彼の唸り声は、まるで地響きのようだ。

「むむむ、これは一体……!地脈から、尋常ならざる魔力反応が跳ね上がったぞ!それも、火と風と大地の属性が、これほどまでに完璧に調和しているとは……!まさか、伝説のあの魔法か?!新しい鍛冶のヒントになるかもしれん!」

 彼の周囲のドワーフたちは、顔を見合わせ、重い金槌を握りしめていた。すぐにでも、その魔力を利用して何か新しいものを作り出そうと目論んでいるかのようだ。

 世界中の高位魔術師たちが、一斉に空を見上げ、あるいは魔力を感知する道具を手に取り、その異変に戦慄していた。彼らは、未曽有の魔力変動に「今、何かすごいことが起きた」と動揺し、何が起こったのかを必死に探ろうとしていた。しかし、誰もがその原因がログハウスの庭でこっそり実験している小さな少年の仕業だとは、夢にも思っていなかった。

 その頃、当の本人であるレイはといえば、そんな世界の騒ぎなど露ほども知らず、自分の手から放たれた光の残像をぼんやりと眺め、小さく満足げに呟いていた。

「うーん、次は、もうちょっと派手な方がいいかな?やっぱり花火みたいにバーンといくやつ!」

 レイが無自覚なチート能力を持つことなど、夢にも思っていなかった。

 そして、その異変の中心にいるレイの隣に、いつの間にか賢梟のセイリオスがいた。普段は冷静沈着な彼も、この時ばかりは金縁の眼鏡を押し上げ、目を丸くしている。その驚きの顔は、まるで初めて見るお菓子のようだ。

「レイ、お主……今、一体何をしたのだ?この尋常ならざる魔力変動、まさか……まさかお主が起こしたというのか?いや、そんな馬鹿な!このわしですら到達し得ない領域の魔導理論を、この幼いお主が……?!わしの長年の研究は一体何だったのだ?!」

 セイリオスは、普段の理知的な口調を忘れ、興奮と困惑がない交ぜになった声でまくし立てた。羽を震わせ、眼鏡がずり落ちそうになっている。まるで、パニックになったニワトリのようだ。

 レイは、そんなセイリオスの慌てぶりに首を傾げた。

「え?別に何も。ただ、火と風と大地の魔法を一緒にやってみただけだよ?セイリオス先生も前に言ってたじゃない、複合魔術は組み合わせが大事だって!僕、ちゃんと先生の言うこと聞いてるよ!」

 レイの無邪気な言葉に、セイリオスは顔をさらに青ざめた。その表情は、まるで未解明の現象に直面した最高峰の学者のようだった。いや、むしろ、自分の理論がひっくり返された科学者のようだ。

「……そんな単純なものではないわい!だが、確かに、その組み合わせは……くっ、このわしですら、まだ理論の段階にあるというのに……!レイ、お主は天才か、それともただの魔力暴走児か?!」

 セイリオスは金縁の眼鏡が落ちるのも構わず、首を限界まで捻じ曲げたかと思うと、全身の羽毛を逆立てたまま、その場にガクッと崩れ落ちた。彼の尾羽からは、ストレスか、いくつかの羽がポロポロと零れ落ちる。まるで、羽毛布団が破れたかのようだ。

「もうダメだ……このわしはもう、図書室の管理者など辞めたい……っ!冒険者になって気ままに暮らしたい…!」

 セイリオスが弱音を吐き、羽を逆立てていると、近くで様子を見ていたバルドルが、普段の彼からは想像できないほど呆けた顔で、ゆっくりと近づいてきた。

「ほうほう、ジジィもたまには呆けた顔をするんだな!まるで、昨日の飯を忘れたかのようだ!」

 バルドルはそう言いながらも、その目には驚きが隠せない。

「ほら、気にするなよ!レイ坊は、なんだかんだと規格外……凄いことをやらかすのが得意なんだからよ。お前の理論が追いつかないのは、別に恥ずかしいことじゃねぇだろ?むしろ、レイ坊がすごすぎるんだ!」

 バルドルは、セイリオスの頭を大きな翼で軽く叩いた。その叩き方は、まるで励ましているようで、実はもっと混乱させている。

「まあ、わからなくもないが、今更だぞ? レイ坊の世話係は、お前が引き受けたんだろ?諦めるにはまだ早いぜ、ジジィ!」

 セイリオスの顔が、怒りから複雑な感情へと変化していく。確かにバルドルの言う通り、レイの才能は底知れない。だが、それを認めるのは、彼の長年の研究者としてのプライドが許さない部分もあるのだろう。彼の頭の中では、新しい研究テーマと、レイの才能をどう解釈するかで、激しい会議が開かれていた。

 レイの小さな冒険は、まだ始まったばかりだ。そして、その無自覚な強さが、これからも周囲を、そして世界を巻き込んでいくことになるだろう。そして、セイリオスの胃をキリキリと痛めつける日も、そう遠くないはずだ。

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