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第47話:大地の祝福の顕現!癒しの泉、湧く!

 レイの魔法の授業は、着実にその奥深さを増していた。日々、知識の泉を吸い上げるように学ぶレイの瞳は、知的好奇心に輝いている。まるで、知識を無限に吸収する掃除機のように。そして、その内なる力の源である「大地の祝福」は、静かに、だが確実に、周囲の世界へと影響を及ぼし始めていた。その影響は、時に予測不能な、楽しすぎる方向へ進むこともあった。

 ある晴れた午後、レイはログハウスの庭の隅で一人、地面を見つめていた。以前からそこに鎮座していた、いささか無骨な巨石の存在が、小さなレイの探究心を刺激していたのだ。「どかしてみたら、何か面白いものが出てくるかもしれない。もしかしたら、お宝が埋まっているかも!冒険者の血が騒ぐぜ!」――そんな子供らしい好奇心に突き動かされ、レイは小さな両手を石に添え、意を決して押し始めた。「えいっ!」という掛け声とともに、レイの体から微かな魔力が流れ込んだのだろうか、信じられないことに、その巨石は音もなく、まるで意思を持っているかのように、ゆっくりと脇へと移動した。まさか本当に動くとは、レイ自身が一番驚いていた。ちょっとした超能力者気分だ。

 石が取り除かれた跡には、湿った土が顔を出し、かすかな土の香りが鼻腔をくすぐる。そして次の瞬間、驚くべき光景がレイの目に飛び込んできた。地中から、まるで生きているかのように、きらきらと輝く水が湧き上がり始めたのだ。それは、まるで大地の息吹そのものだった。澄んだ水は、小さな水たまりをあっという間に満たし、やがて銀糸のような流れとなって、ログハウスの庭の緑を縫うように流れ始めた。

「わぁ!泉だ!僕だけの秘密の泉だ!これで夏はプールができるぞ!」

 レイの歓声は、庭の静寂を破り、たちまち従魔たちの耳に届いた。彼らは、まるで獲物を見つけたかのように、次々と泉へと集まってくる。その足音は、まるで運動会のスタートのようだ。

 最初にその異変に気づいたのは、水を司るネクサだった。彼女の全身は、陽光を受けてきらめく水面のように、より一層透明感を増し、背の羽根を震わせながら、歓喜の舞を踊る。泉の周りを優雅に旋回し、喜びを全身で表現していた。あまりにも楽しそうで、レイは思わず拍手をしてしまった。ネクサは、まるで泉の妖精がそのまま具現化したかのようだった。そして、泉の水の美しさにうっとりしすぎて、あやうく泉に突っ込みそうになる。

 続いて現れたのは、マンドレイクのマンちゃんだった。「きゃっ!ぎゃあぁぁ!」という愛らしい叫び声を上げながら、短い手足を懸命に動かし、泉へと駆け寄る。泥で少し汚れていた葉っぱを泉の水で丁寧に洗い清めると、その緑は一層鮮やかさを増し、まるで喜んでいるかのように小さく揺れた。ぴょこぴょこと跳ねる姿は、泉の恩恵に感動する小さな妖精のようだった。そして、なぜか泉の周りの土を掘り返し始める。「もっと泉の水を吸い込みたい!」とでも言っているかのようだ。

 冷たい水を愛するペンギン精霊たちは、誰よりも早く泉に飛び込んだ。丸い体を勢いよく水中に滑らせ、けたたましい鳴き声を上げながら、無邪気に水しぶきを跳ね上げ、その清涼感を満喫していた。中には、あまりの気持ちよさに、プカプカと仰向けに浮かんで、小さく居眠りを始める者までいた。泉は一瞬にして、ペンギン専用の高級スパと化した。まるで、彼らがこの泉のために生まれてきたかのようだ。一匹のペンギン精霊が調子に乗りすぎたのか、勢い余って小さな滝の流れに乗ってしまい、「ブエェェェェ!」と叫びながら流されていく。しかし、すぐに別のペンギン精霊が助けに飛び込み、無事に岸辺に押し戻された。まるで、彼らの間で日常的に行われている水上アクロバットショーのようだった。

 炎を操るフラムは、泉から少し離れた場所で、ゆらめく炎を小さく灯しながら、その様子を興味深そうに見つめている。回復の力を持つ水と、自らの炎の力が共鳴し合うような、不思議な感覚を覚えているのかもしれない。しかし、彼が泉に近づこうとすると、ペンギン精霊たちが「ブエッ!ブエッ!」と警戒するように水をかけ、フラムが「ブォッ!」と火花を散らす一幕もあり、レイを思わず笑わせた。水と火の小競り合いは、いつものことながら仲良しの証拠だ。まるで、子供同士のじゃれつきを見ているかのようだ。時には、泉の水蒸気をフラムが吸い込み、巨大な炎を出すのではないかと、レイはひそかに期待していた。

 漆黒の毛並みに金色の瞳を持つシャドウは、普段のクールな様子を崩さず、しかしその足取りは軽く、静かに泉のほとりに近づいた。警戒するように周囲を見渡した後、そっと首を傾け、清らかな泉の水を舌先で味わう。その瞳の奥には、かすかな満足の色が灯っているようだったが、すぐに表情を元に戻し、何事もなかったかのようにすましていた。彼にとっては、どんなに美味しい水でも、クールさは失えないらしい。内心ではしっぽをぶんぶん振っているに違いないと、レイはこっそり思っていた。そして、誰も見ていないところで、もう一口、こっそり水を飲む姿をレイは目撃した。「シャドウ、クールぶっててもバレてるぞ!」とレイは心の中でツッコミを入れた。

 月の光を宿す白銀の毛並みのルーナは、泉の周りをゆっくりと歩き回る。普段は寡黙なその身から、微かに安堵の吐息が漏れた。泉から立ち上る清浄なエネルギーが、彼の内に眠る力を優しく呼び覚ましているのかもしれない。彼が泉のそばを通ると、ひときわ清らかな空気が流れるのを感じた。その時、はしゃぎすぎたペンギン精霊の一匹が、大ジャンプに失敗して水しぶきをルーナの顔に直撃させた。ルーナは一瞬、時間が止まったかのようにピタリと動きを止め、その瞳から生気が失われたかのような無表情になった。まるで、魂が一時的に離脱したかのようだ。しかし、次の瞬間には何事もなかったかのように平静に戻り、呆れたような、それでいて優しい眼差しでペンギンたちを見守っていた。彼の反応が面白すぎて、レイはこっそり笑いをこらえた。

 空高くを舞う大鷲バルドルは、地上に湧き出した清らかな水の輝きを認めると、翼を大きく広げ、優雅に着地した。普段は鋭い眼光を湛えるその瞳も、泉の穏やかな光を反射して、どこか和らいでいる。ログハウスの周囲を巡回していたわずかな疲れが、泉の癒しの力によってゆっくりと洗い流されていくのを感じているのだろう。彼は泉のそばに陣取ると、ペンギン精霊たちがはしゃぎすぎていないか、まるで番人のように目を光らせ始めた。「お前たち、あまり騒ぎすぎるなよ。せっかくの癒しの泉が台無しだぞ!」とでも言っているかのようだ。

 その時、書斎から金縁の丸眼鏡をかけた賢梟セイリオスが、ゆっくりとした足取りで現れた。泉の聖なる気配に誘われたのだろうか。彼の足元には、なぜか古い魔導書が転がっていた。

「ふむ、これは興味深い。この水質は、一体どのような組成をしておるのか……。まさか、若返りの秘薬が混じっておるのではないか?」

 セイリオスは泉に近づき、水をじっと見つめ、水質の分析を始めた。彼の目は、まるで世界中の論文を読み解くかのように真剣だ。あわよくば、この泉の水を研究して、不老不死の魔法を開発しようとしているのかもしれない。

 その様子を見ていたバルドルが、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「おや?これはこれは、知識の権威セイリオス様ではございませんか!そんなところで泉の水に睨みつけて、まさか新しい論文でも書かれるつもりですか?『泉の水を巡る賢者の考察』とか?それとも、『不老不死の泉の成分分析と応用』とか?」

 そう言うが早いか、バルドルは大きな翼を一振り!バッシャーン!と大量の水をセイリオスめがけて飛ばした。

「ぬぉっ?!バルドル、貴様!何をするか!このわしの貴重な眼鏡が台無しではないか!論文が書けなくなるだろうが!」

 眼鏡に水滴が飛び散り、少しよろめいたセイリオスは、普段の冷静さを失い、羽毛を逆立ててバルドルを睨みつけた。その姿は、まるで濡れたフクロウの置物のようだ。

「おーい、ジジィ、水浴びでもして頭を冷やせってんだ!眉間にシワ寄せてちゃ、いい論文も書けねぇだろ?ついでに若返るかもよ!」

 バルドルは上機嫌で、もう一度翼を振ろうとする。

「待てバルドル!このわしを誰と心得る!知識の権威に向かって無礼千万!もうこれ以上は勘弁してくれ!風邪をひいてしまうではないか!」

 セイリオスは慌てて泉から距離を取り、バルドルとの間に微妙な距離を置いた。レイは、二人のコミカルな小競り合いに、思わず吹き出してしまった。彼らのやり取りは、まるで漫才のようだった。ログハウスの庭は、今日も平和(?)だ。

 そして、大地の従魔であるゴーレムは、その巨大な体躯をゆっくりと泉に近づけた。無機質なはずのその体からも、湧き上がる泉の力強い生命力を感じ取っているのだろうか、静かに水面を見つめている。その傍らでは、土の精であるポポが、「もふっ!」といういつもの愛らしい鳴き声を上げながら、泉の周りの土を忙しなく掘り返している。泉の力が、土壌をさらに豊かにしてくれることを、本能的に理解しているのかもしれない。ポポは、泉の水を吸い込んだ土をゴーレムの足元に押し付け、ゴーレムがそれを畑へと運ぶ、という共同作業を始めた。畑がさらに肥えることに、彼らは並々ならぬ情熱を燃やしているようだった。もはや、彼らは「畑を潤すプロフェッショナル」のチームと化していた。ふわふわは、泉の周りの空気を吸い込み、体が一回り大きくなったかのように見えた。そして、その大きな体でぴょんぴょんと飛び跳ね、レイの周りを何度も跳ね回った。

「すごい!みんな、本当に嬉しそうだね!」

 レイは、従魔たちが思い思いに泉の恵みを楽しむ光景を眺めながら、心から喜びを感じていた。この泉は、紛れもなく自身の「大地の祝福」が、より強く、より明確な形となって現れた証だろう。そして、僕の「大地の祝福」は、みんなを幸せにする力があるんだ!と確信した。

 その時、ログハウスの賑わいに気づいた母のミリアが、優雅な足取りで近づいてきた。泉の放つ清らかな輝きと、そこに満ちる回復の力を敏感に感じ取ると、彼女の瞳は一瞬、宝石のようにきらりと輝いた。

「あら、レイ!これは……なんて素晴らしい泉なの!ねぇ、この泉の水って、もしかして……売れないかしら? 特許とか取れない?『若返りの泉』とか、『奇跡の回復水』とか、いくらでも名前はつけられるわ!これなら、うちの商会が大儲けよ!」

 ミリアの口から、商人の魂が垣間見える言葉が滑り出た。その言葉を聞いたレイは、せっかくの清々しい気分が一転、背筋に冷たいものが走るのを感じた。まるで、冷たいプリンを早食いした時のような感覚だ。

「えっ、母さん、それは……!」

 レイの露骨な狼狽ぶりに気づいたミリアは、すぐにいつもの穏やかな笑顔を取り戻し、慌てて両手を振った。「あらあら、ごめんなさい、レイ!冗談よ、もちろん!こんなに清らかで特別な泉を売るなんて、とんでもないことだもの。でも、もし売れたら、このログハウスがもう一つ建てられるわね!それも、もっと豪華なやつが!」そう言いながらも、ミリアの視線は、なおも泉の神秘的な輝きに引き寄せられているようだった。レイは内心でそっと安堵の息をつきながらも、母に宿る商人の血の根深さを改めて感じ、今後も予期せぬ一言には注意が必要だと心に誓うのだった。ミリアの頭の中では、すでに泉の水を瓶詰にして世界中に売り出す計画が、秒速で練られているに違いなかった。もしかしたら、この泉の水を飲んだ人が、若返ってミリアの商会で働くようになる夢まで見ていたかもしれない。

 こうして、レイの「大地の祝福」がもたらした癒しの泉は、ユングリング家の新たな宝物として、そして何よりも、レイと愛する従魔たちの心を潤す、かけがえのない存在となるだろう。そして、ミリアがいつか、この泉を本当に売り出さないか、レイは密かに警戒し続けることになった。このログハウスの庭は、今日も予測不能な笑いと奇跡に満ちていた。

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