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第41話:ぐうたら精霊のお引越し(後編)

 正式な許可を得て、ミリアと従魔たちはダンジョンへと向かう準備を整えた。レイは自宅で、冷たいプリンを夢見て目を輝かせている。彼の頭の中では、すでにプリンが踊り、歌っているかのようだ。

「まったく、レイの望みのためとはいえ、こんな形でギルドに許可申請をしてダンジョンに入るなんてねぇ……もう、私の冒険者人生、どこへ向かっているのかしら?」

 ミリアはため息をつきつつも、どこか楽しげな顔で、シャドウ、ルーナ、ミル、そしてバルドルを従え、ダンジョンの入り口へと足を踏み入れた。Sランク冒険者としての勘は、未だ衰えていない。彼女は警戒しつつも、バルドルの正確な案内でダンジョン奥深く、凍結鉱石のある氷の広間へと進んでいく。バルドルの「こっちだ、ミリア!美味い冷気がするぞ!」という声に、ミリアは苦笑いする。

 広大な氷の空間に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を刺す。しかし、その冷たさはミリアにとっては心地よいものだった。バルドルの報告通り、そこには青白い光を放つ凍結鉱石が点々と輝き、その周りでは、例の間の抜けた顔をした氷の精霊たちが、ぐうたらとゴロゴロしていた。中には、お腹を上にして大の字になっている精霊もいる。

「ボエ〜ッ……」

 ミリアの姿に気づいた一匹のペンギン精霊が、警戒するでもなく、ただ興味深そうに鳴いた。彼らは、人間が来ることに慣れていないのか、あるいはミリアの纏うSランクの威圧感に、ただただ圧倒されているのか、一様に動きを止めている。彼らの目には、ミリアが巨大な甘いお菓子に見えているのかもしれない。

 ミリアは、レイから託された蜂蜜とグラニュー糖を手に、優しく語りかけた。その声は、まるで子供に絵本を読み聞かせるようだ。

「みんな、こんにちは。私たちはレイの使いよ。この凍結鉱石を、少し分けてほしいの。お礼に、この美味しい甘いものを毎日あげるわ!それに、もっと快適な場所を用意するから、そこでぐうたらしてもいいのよ!しかも、ご飯は食べ放題よ!」

 ペンギン精霊たちは、ミリアの言葉と、甘い香りに耳を傾け、「ブエッ……ブエッ……」と互いに顔を見合わせて相談を始めた。彼らの間抜けな表情が、ますます間の抜けたものに見える。「ぐうたら」という言葉に、彼らの目がキラリと光ったのがミリアには見えた。

 数秒の沈黙の後、リーダー格らしき一番大きなペンギン精霊が、ヨチヨチとミリアの前に進み出た。その姿は、まるで偉大な指導者のようだ。

「ボエェェェェェッ!」

 それは、「いいだろう!最高の条件だ!」と言っているようだった。どうやら、甘い誘惑には勝てなかったらしい。そして「ぐうたらし放題」という条件も、彼らの心に深く響いたようだ。他の精霊たちも、「ブエッ!ブエッ!」と同意の鳴き声を上げ、その場はペンギン精霊たちの歓喜の声で満たされた。

「レイの家には、君たちが快適に過ごせる部屋がある。そこで冷気を放ち、食べ物を冷やせばいい。そうすれば、毎日おやつが手に入り、仲間と離れることもない。まさに、夢のような生活だ。」

 シャドウが淡々と語りかける。すると、ペンギン精霊たちは喜びのあまり、その場で奇妙なダンスを始めた。まるで、ロックコンサート会場のようだ。彼らにとって、外敵に怯えることなく、ぐうたらと冷気を放っていれば美味しいものがもらえる「冷蔵室」という新しい遊び場は、これ以上ない好条件だったのだ。彼らの顔は、満面の笑みならぬ、満面の「ボエ〜ッ」顔である。

 ペンギン精霊たちは「ボエェェェェェェッ!」と喜びの鳴き声を上げ、了承した。彼らは、レイの言葉に偽りがないことを本能的に感じ取ったようだ。ミリアたちは、約束通り凍結鉱石をいくつか分けもらい、ペンギン精霊たちを連れて、ダンジョンを後にした。精霊たちは、レイがくれた蜂蜜を舐めながら、満足そうにバルドルの背中に乗ったり、ルーナの周りをヨチヨチと歩きながらついていったりする。中には、ミリアのローブに張り付こうとするミルと、じゃれ合うように追いかけっこを始める精霊もいた。その道中は、まるで珍獣たちのパレードのようだった。

「やれやれ、レイ坊は本当に、食の力で何でも解決してしまうな。ワシの知恵も、もはや食欲の前では無力じゃ。」

 自宅で留守番をしていたセイリオスは、帰ってきたミリアたちを見て呆れ顔でつぶやいたが、その表情にはどこか楽しそうな色が見えた。彼の心の中では、次にどんな「美味しい」が生まれるのか、ワクワクが止まらないのだろう。

 レイは、精霊たちが無事に連れてこられたことに大興奮だ。

「わぁ、ペンギンさんたち!可愛いね!これで冷たいプリンが作れるぞ!」

 レイの指先が精霊の氷の体に触れると、ひんやりとした冷たさが伝わってくる。

「母さん、どこに冷蔵室作る?やっぱりキッチンから近い方が良いかな?プリンはすぐに食べたいし!」

 レイが尋ねると、ミリアはにっこり笑って頷いた。

「そうね。レイのプリン作りを考えたら、キッチンから近い方が便利だわ。このログハウスなら、この部屋を拡張して、冷蔵室にするのが一番効率的ね!まるで、魔法の冷蔵庫を作るみたいだわ!」

 ミリアはそう言うと、間取り図を頭に思い浮かべ、「魔法」で部屋の壁を巧みに拡張し、ペンギン精霊たちが快適に過ごせる広い空間を作り出した。その中心に凍結鉱石を置き、ペンギン精霊たちが好む氷の床を錬成する。さらに、彼らが身を寄せ合って休めるよう、冷気が直接当たりすぎない奥まった場所に氷の壁で囲われた寝床を設けた。そして、部屋の一角には、彼らが泳ぎ回れるよう、透き通った冷たい水が張られた小さな池も作られた。まるで、ペンギン専用の高級リゾートホテルだ。

 ペンギン精霊たちは、用意された「冷蔵室」に大喜びだ。ダンジョンでの生活では普段はぐうたらとゴロゴロしているが、新しい環境では時折池で気持ちよさそうに泳いだり、寝床で休んだりする。ある日、冷蔵室の入り口から、何やら甘い匂いを嗅ぎつけたフラムが鼻をヒクヒクさせながら覗き込もうとすると、「ブエッ!」と一番大きなペンギン精霊が鼻息荒く冷気を放ち、フラムを凍りつかせようとした。その姿は、なんとも可愛らしくも頼もしかった。 彼らが放つ冷気で、部屋全体は天然の冷蔵庫となり、凍結鉱石も相まって、これ以上ない冷気を生み出している。

 これで、冷たいプリンを作る環境は完璧に整った。次のステップは、いよいよ待望のプリン作りだ。そして、さらにその先には、冷たい生クリームや、フワフワのソフトクリームが待っている!レイの「美味しいもの」への夢は、止まるところを知らない。彼のグルメ探求の旅は、いよいよ次なるステージへと突入するのだった。

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