表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/74

第34話:ホワクイックとの出会いとマヨネーズの誕生

 泥の実から生まれた味噌やコチュジャン、そして毒とされていた赤いトマトが変化したケチャップとチリソース。レイが生み出す調味料たちは、家族の食卓を日々豊かに彩っていた。ヴァルドは毎日、食卓につくと「今日のレイは、一体どんな驚きをくれるのか!」と目を輝かせ、ミリアも「もう普通の食事が物足りないわ!これじゃあ、贅沢病になっちゃう!」と嬉しい悲鳴を上げていた。しかし、レイの胸には、まだ実現していない「美味しい」への強い思いがあった。それは、生食が避けられていた「卵」を使った、あの滑らかな調味料、マヨネーズだった。

 この世界では、卵は貴重なタンパク源だが、生で食べることは一般的に行われていなかった。主な理由は、産み落とされてから食卓に上るまでの鮮度の問題に加え、卵の殻に多くの菌が付着しやすいことだった。そのため、卵は常にしっかりと火を通す料理にしか使われず、その風味も単調になりがちだとレイは感じていた。彼の頭の中には、生卵で作るフワフワの卵かけご飯や、とろとろのオムレツのイメージが渦巻いていたが、この世界の卵ではそれが叶わない。

 ある日のこと、レイはふと食卓に並んだ固焼きの卵を見て考えた。「この卵で、サラダをもっと美味しくする方法があるはずなんだ。この単調な卵の味を、もっと華やかにする方法が!まるで、卵の第二の人生を切り開くかのように!」

 彼の神霊視は、卵が持つ秘めたる可能性を明確に捉えていた。加熱することで固まるタンパク質、そして凝縮された栄養と旨味。さらに、この世界に存在する「油草」から絞り出される油と、酸味を持つ果実の汁を組み合わせれば、あの懐かしいマヨネーズが作れるはずだと直感した。しかし、そのためには「生食可能な卵」が不可欠だった。「どこかに、とびきりクリーンな卵はないものか……!まるで、無菌室育ちのお嬢様のような卵が!」レイの脳裏に、ある魔獣の姿が浮かんだ。

 そしてレイは、マヨネーズ作りのための特別な卵を探しに、森へ向かった。彼の目的は、ストレスが溜まると大量の卵を産むという珍しい魔獣の鳥「ホワクイック」を連れてくることだった。ホワクイックの卵は、その特異な性質から市場には出回らないが、栄養価が高いと一部の賢者の間では知られていた。

「よし、今日もシャドウ、お願いね。バルドルも空からの護衛、よろしくね!」

 レイが声をかけると、隣にシャドウが寄り添い、金色の目をきらめかせた。彼はレイが森に入る時はいつも先頭で警戒し、時には影の中に隠れて周囲を探ってくれる。レイの背にはミルがしっかりと張り付き、森のざわめきに耳を澄ませていた。そして、レイの隣には、ふさふさの体を持つ大型月狼、ルーナが静かに同行する。その姿は、まるでレイを守る精鋭部隊のようだ。もはや、遠足というよりは、特殊部隊の秘密ミッションである。

 その上空を、大型鷲のバルドルが悠々と旋回している。

「空の目は任せておけ、レイ坊!何か怪しいものがあれば、すぐに知らせてやろう!空の王者、バルドル様にお任せあれ!ついでに、美味しそうな獲物も探しておいてやるぞ!」バルドルが力強い声で応え、レイの進行方向を鋭い眼光で見定めた。

「ありがとう、バルドル。君がいると本当に心強いんだ。」レイは空を見上げて微笑んだ。彼らの森への冒険は、いつもこんな風に賑やかだった。まるで、子供とペットたちの楽しい遠足、ただし途中で魔物が出たりするが。

 森の奥深く、神霊視が導くままに進むと、レイはホワクイックの群れを発見した。彼らは美しい茶色の羽を持ち、尾羽を扇のように広げていた。しかし、彼らの様子はどこか落ち着かない。レイは、言霊理解を使い、ホワクイックのストレスの原因を突き止めた。彼らは不規則な魔力の変動と、周囲の大型魔物の気配に怯えていたのだ。「なるほど、引っ越しをしたいわけか!よし、僕が理想の住まいを用意してあげよう!」レイは、自身の持つ大地の祝福の力で穏やかな魔力を放ち、シャドウが周囲を警戒する中、ホワクイックたちを落ち着かせた。そして、彼らに優しく語りかけながら、安全な「畑の聖域」へと誘導することで、ストレスなく安定して卵を得られるようにした。ホワクイックたちは、まるで新たな楽園を見つけたかのように、レイの後に続いていく。彼らはもう、レイを「救世主」と崇めているに違いない。

 ホワクイックが産む卵を神霊視で観察すると、レイは確信した。ホワクイックは一般的な鳥とは異なり、排泄器官とは完全に独立した、清潔な「卵嚢らんのう」のような特別な産卵器官を持っていた。卵はこの卵嚢の内部で形成され、外部とは直接触れないクリーンな環境で成熟する。排出される際も、卵嚢から直接、清潔な状態で体外に出てくるため、外部からの菌が付着するリスクが極めて低いのだ。さらに、レイの神霊視によれば、この卵嚢には自己浄化能力を持つ特殊な粘液腺があり、産まれる卵を常に清浄に保つ特性があった。レイは、この卵こそが、マヨネーズを作るために使われていた、生食可能な卵の条件を完璧に満たしていることを確信した。「これだ!この卵なら、あのマヨネーズが作れる!僕のグルメ探求の旅に、新たな光が差したぞ!」レイの顔に、してやったりという、とびきりの笑顔が浮かんだ。

 数羽のホワクイックを連れて帰路につくと、バルドルがレイの頭上を旋回しながら話しかけてきた。「ほう、レイ坊、ずいぶん立派な鳥を連れてきたな!これはまた、セイリオスに自慢できるぞ!きっと、悔しさに顔を歪めるだろうな!」

「はは、そうだね、バルドル。きっとセイリオス先生は、このホワクイックの卵でどんな美味しいものができるか、そっちの方が気になるだろうね!」レイは5歳らしい、少し幼い口調で、セイリオスの食へのこだわりを無邪気に言い当てた。セイリオスのグルメセンサーは、恐らくすでに遠くから反応して、居ても立っても居られない状態になっていることだろう。

 家に帰ったレイは、早速、連れてきたホワクイックが産んだばかりの卵を手に取った。ミリアは、レイが「生で使える卵を見つけた」と言ったことに驚きつつも、その成果に期待の眼差しを向けた。彼女の心臓は、ワクワクでバクバクと音を立てていた。まるで、宝箱を開ける瞬間のようだ。

 レイは、卵の黄身と白身を注意深く分けさせ、黄身だけを器に入れた。そこに油草から絞った油を少しずつ加え、酸味のある野果実の汁を数滴加える。そして、隠し味に高品質な塩を少量加える。レイは、自身の錬金術の力を応用し、混ぜ合わせる液体に微細な魔力を通した。これにより、手動で混ぜるよりも遥かに効率よく、瞬く間に乳化が進んでいった。まるで、魔法の泡立て器を使っているかのようだ。器の中の液体が、みるみるうちに白く、とろりとしたクリーム状に変化していく。ミリアは、その神秘的な光景に目を奪われた。

 数分後、レイの手によって、白く輝く滑らかな調味料が完成した。その見た目は、まるで純白の宝石のようだった。ミリアは、その輝きに思わず手を伸ばしそうになった。

「できたー!これが『マヨネーズ』だよ!サラダにかけると、もう止められないよ!野菜嫌いもこれで克服できるはず!」

 レイが差し出したマヨネーズを、ミリアはほんの少し指先につけて、ドキドキしながら口に運んだ。その瞬間、彼女の顔がぱっと輝いた。目が見開かれ、口が半開きになり、そのまま固まってしまう。そして、ゆっくりと、恍惚とした表情で、彼女は呟いた。

「これは……!なんて滑らかで、クリーミーなの!この酸味とまろやかさが絶妙に絡み合って……美味しい!本当に美味しいわ!この世にこんな調味料があったなんて!もう、サラダの革命よ!サラダが、私を呼んでいるわ!」

 ミリアは、採れたての新鮮な野菜にマヨネーズを添えて出した。(特に、このサラダで生食されているトマトは、一般的な毒性を持つトマトとは異なり、レイが記憶から再現し、大地の祝福を与えて特別な環境で栽培した「レイのトマト」である。)シャキシャキとしたレタスに、とろりとしたマヨネーズが絡みつき、ミリアは夢中になって食べ始めた。これまでのシンプルな野菜料理が、マヨネーズ一つで全く新しいご馳走へと生まれ変わったのだ。彼女は、まるで初めて空を飛んだかのような感動に打ち震えていた。その勢いは、もはやサラダを食べ尽くす勢いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ