第3話:空飛ぶ友達と、図書室の賢梟(と、うたた寝名人)との冒険
セイリオスがレイの家の図書室に常駐することになった。彼はまるで何十年も前からそこにいたかのように、すぐにその場に馴染んでいた。すでに図書室の主のような貫禄さえ漂わせていたのだ。
「ふむ、レイ。今日のところは、この世界の魔法の基礎について学ぶと良いだろう」
セイリオスは、レイの身長よりもはるかに高い本棚の最上段から、分厚い古文書を器用に足で掴んで引き抜き、目の前にすとんと落とした。本棚に積もっていた埃が、舞い上がった。その光景は、まるで「これが賢者の奥義書じゃ!」とでも言いたげな、ドラマチックな登場だった。
「ええと……これは、魔法文字がぎっしりですね」
レイは内心でたじろぎつつ、厚い羊皮紙のページをめくった。幼い子供には到底理解できないような複雑な魔法陣や呪文が、びっしりと書き込まれている。しかし、〈言霊理解〉の祝福のおかげで、その難解な文字が日本語のようにスラスラと頭に入ってくる。まるで、「これ、日本語訳付きですか?」とでも言いたくなるほどだった。
「ふむ、飲み込みが早いな。さすがはフレイの血筋……うむむ……」
セイリオスは満足げに頷いたかと思うと、次の瞬間には微かな居眠り(もとい、瞑想)に入ってしまった。丸眼鏡が少しずり落ちている。その姿は、まるで「賢者も眠いときは眠るのだ」とでも言いたげだった。レイはくすりと笑い、セイリオスが目を覚ますまで、ひたすら本を読み漁った。
図書室での学びの日々が始まった。レイはセイリオスの指導のもと、この世界の歴史、地理、魔法、そして魔物に関する知識を吸収していった。セイリオスは時折、居眠りから覚めると、レイの質問に的確に答え、時には彼自身の経験談を交えながら、この世界の奥深さを教えてくれた。しかし、レイが質問を始めると途中でまた寝てしまうことも、もはや日常風景となっていたのだ。
▪️空飛ぶ友達、ミル、まさかの「顔面着地」常習犯?!
ある日の午後、レイが図書室で読書に没頭していると、窓の外から賑やかな声が聞こえてきた。
「ぴぃ! ぴぴぃーっ!」
窓を開けると、そこにいたのは、手のひらに乗るほどの小さな魔獣だった。リスとモモンガを合わせたような姿で、ふわふわとした茶色い毛並みと、大きなクリクリとした瞳が特徴的だ。背中には、まるでマントのような飛膜が広がり、それがひらひらと風に揺れている。その可愛らしさは、レイの心を鷲掴みにするのに十分だった。
「君は、モモンガ?」
レイが声をかけると、モモンガは元気いっぱいに「ぴぃ!」と鳴き、ひょいと窓枠から飛び込んできた。そして、そのままレイの肩に飛び乗り、背中に張り付いた。まさに、「僕の指定席はここだ!」とでも言わんばかりだった。
「うわっ!」
モモンガはレイの背中にしがみつき、ふわふわの毛がレイの首元をくすぐる。レイは思わず笑ってしまった。
「ぴぃ、ぴぴー!」
モモンガは楽しそうに鳴き、レイの背中から顔を出すと、クリクリした目でレイの顔を覗き込んだ。その好奇心旺盛な瞳に、レイはすぐに親近感を覚えたのだ。
「君も、僕のお友達になってくれるの?」
レイが優しく尋ねると、モモンガはさらに体を密着させ、「ぴぃ!」と嬉しそうに返事をした。そして、そのままレイの背中を定位置にしたようだった。
モモンガは、名前を尋ねても特に反応がなかったため、レイは彼をミルと名付けた。ミルは元気いっぱいで、しばしばレイの背中から飛び立っては、部屋の中を縦横無尽に飛び回った。しかし、着地はあまり得意ではないらしく、たまにレイの顔面にドスン!とぶつかってくることもあった。
「うぐっ、ミル、顔面着地は勘弁してよ……」
レイがそう言うと、ミルは反省しているのかいないのか、首を傾げて「ぴぃ?」と可愛らしい声で鳴くばかり。その姿は、まるで「てへぺろ!」とでも言いたげだった。そんなミルのドジな行動に、レイはいつも笑いをこぼしていたのだ。
図書室での賢梟先生との学びと、ミルとの賑やかな日々が、レイの異世界での生活をさらに彩り豊かにしていった。シャドウは相変わらず気まぐれにレイの影に隠れたり、枕になったりしてくれたが、ミルの出現で、レイの周囲はますます動物たちで賑やかになっていく予感がしたのだった。