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第27話:目覚める守護者と奇妙な歌声

 甘いイチゴの収穫を終え、日本のフルーツ栽培という名の「沼」にどっぷりハマったレイは、従魔のポポと共に、今日もせっせと畑の世話に精を出していた。頭の中は、「次はリンゴ!いや、やっぱりミカンか!?」と、まるで夢見る小学生のように妄想でいっぱいだった。そんなある日、レイは父ヴァルドと母ミリアの会話で耳にした「動かない伝説のゴーレム」のことが、脳みその片隅にこびり付いて離れずにいた。倉庫の奥に鎮座ましましているというその巨像を、どうにかして「動く!光る!しゃべる!」スーパーお手伝いロボットに改造できないものかと、レイは密かに野望を燃やしていたのだ。

 休憩がてら、レイはポポを連れて倉庫の奥に置かれたゴーレムの側で、だらーんと座り込んでいた。ポポはレイの膝の上で、「もふもふ」と、まるで湯たんぽのように心地よく身を寄せている。ふわふわは、レイの頭の上で「Zzz…」と平和な寝息を立てていた。

「うーん……どうやったら、この石像、動き出すんだろうなぁ……必殺技とか、隠しボタンとか、ないのかなぁ……」

 レイが独り言ちると、ポポが急に「ピクッ!」と耳をそばだて、レイの膝から勢いよく飛び降りた。そして、ちょこちょこと短い足で、まるで小さな探検家のようにゴーレムの足元へと歩み寄った。そして、その小さな体で、冷たくて硬いゴーレムの足に、これでもかとばかりに「もふっ!」と一声鳴くと、自慢の地の魔力を、遠慮なくゴーレムへとドバドバ流し始めた。まるで、「さあ起きろ!働け!」とでも言っているかのようだ。

 ポポの純粋な地の魔力がゴーレムに触れると、レイの神霊視は、ゴーレムの内部で冬眠していた巨大な魔力の塊が、「ん?なんかあった?」とばかりに、ほんの少しだけ反応したのを感じ取った。それは、まるで長年放置されていた錆び付いたブリキのおもちゃが、「ギギッ…」と微かに音を立てたような、そんな頼りない反応だった。

「ポポ……きみ、もしかして……すっごい力持ちなんじゃ……!?」

 レイは目をキラキラさせ、自身もゴーレムの体に両手をペタリと当てた。そして、ゴーレムの内部を彷徨うポポの地の魔力に、得意の言霊理解と神霊視をフル稼働させ、さらにありったけの魔力を「えいっ!」と送り込んだ。レイの魔力が、ゴーレムの表面に刻まれた不思議な模様を、まるで迷路ゲームの攻略ルートをなぞるように浸透していくと、くすんだ金属の表面に、ジワリと光の筋が走り始めた。まるで、血管が浮き出てきたみたいで、ちょっと気持ち悪いけど、でもワクワクする!

「動け!動いて、僕のしもべになるんだ!」

 レイが心の中で、まるで悪の組織のボスのように強く念じた、その時だ。ゴーレムの暗かった瞳の部分に、ぼんやりとした、まるで豆電球のような光が宿り始めた。そして、まるで長年寝たきりだった老人が、やっと起き上がったかのように、体全体がブルブルと微かに震え、床が「ドスン……」と重々しく音を立てた。

「ぐ……ご……もご……」

 ゴーレムが、初めて言葉にならない、まるで腹の底から響くような唸り声を発した。その音に、家の中にいたヴァルドとミリアが、「今、家が揺れた!?」とばかりに、慌てて駆け寄ってきた。彼らの目の前で、ゴーレムの錆び付いた関節が「ギギギ……バキバキ……」と悲鳴を上げながら、スローモーションのようにゆっくりと動き出したのだ。

「なっ……動いただと!?うそだろ!?あんな置物が!?」ヴァルドが、顎が外れそうなほど驚愕の声を上げた。その顔は、まるで幽霊でも見たかのように真っ青だった。

「信じられない……あの邪魔なガラクタが……!まさか、本当に動き出すなんて……倉庫、もっと片付けなきゃ……」ミリアも目を丸くして呆然と呟いた。彼女の頭の中では、ゴーレムが動き出すことよりも、倉庫の整理整頓という現実的な問題が渦巻いていたのかもしれない。

 ゴーレムは完全に意識を取り戻したわけではないようだが、確かに、そこに「何か」がいる。レイの魔力とポポの地の魔力が、まるで強力な目覚まし時計のように、ゴーレムの長い眠りを無理やり叩き起こしたのだ。レイは、ゴーレムの意識がまだボーッとしているのを感じ取りつつも、「よし、こいつは操れる!」と、まるでゲームのラスボスをゲットしたかのように確信した。


 ▪️畑の頼れる(?)巨人

 数時間後、レイはゴーレムに「ゴーレム」と、そのまんまな名前を付け、動くようになった彼を、さっそく「今日からお前は畑の用心棒兼耕運機だ!」とばかりに畑に連れ出した。レイの片言の指示を、まるで忠実な犬のように理解しようとすると、ゴーレムはその巨体に見合わない、ヨチヨチとした、どこかぎこちない動きで畑仕事を始めた。一歩踏み出すたびに地面が「ドーン!」と揺れ、彼が腕をブン!と振るうたびに、まるで小型爆弾が炸裂したかのように土が大きく掘り返される。

「おお、これは……すごい……破壊力だ……!」

 レイはゴーレムの、予想を遥かに超えるパワーに感嘆した。畝作りも、土を耕す作業も、ゴーレムにかかれば、ものの数分で終わる……のだが、その跡地はまるで巨大なモグラが暴れた後のようだった。時には力加減を盛大に間違えて、レイが大切に育てていた果樹を根っこから「スポーン!」と引き抜いてしまったり、畑の端っこを巨大なクレーターのように大きくえぐってしまったりと、ゴーレムならではの豪快すぎるミスもあったが、そのたびにポポが「もふっ!」と鳴いて、まるで高性能な土団子製造機のように土を元に戻し、レイが「コラコラ!優しく!」と笑いながら指示を出す。そして、ふわふわはゴーレムの頭の上にちょこんと乗り、まるで王様のように畑を見下ろしていた。レイの庭は、巨大なゴーレムと小さなモグラ、そして頭にふわふわを乗せたレイが忙しなく動き回る、異様な活気に満ちた場所へと変わっていった。近所の住人たちは、遠巻きに「あの庭、今日も何かやってるぞ……」と噂しているとか、いないとか。

 図書室から、まるでロケットのように勢いよく飛んできたセイリオスは、ゴーレムのヨチヨチ歩きとレイの適当な指示、そしてポポの地味な土壌修復作業の連携を、目を皿のようにして観察していた。彼の表情――正確には、ギョロギョロと忙しなく動く金色の瞳には、またしても面白そうな研究テーマを見つけてしまった科学者の、抑えきれない探求心がメラメラと燃え上がっていた。きっと、今頃頭の中では、「ゴーレムの動力源解析」「ポポの土壌復元能力の法則」「レイの操縦テクニックの謎」といった研究論文のタイトルが、洪水のように溢れかえっているに違いない。


 ▪️畑の奇妙な歌声

 それから数日経ったある日の午後、レイはポポと一緒に畑の世話をしていた。ゴーレムは、相変わらずドタドタと畑を歩き回り、時々レイの指示を無視して近くの岩を持ち上げようとしていた。そんな中、レイは畑の隅で、ふと見慣れない、なんだか気味の悪い植物がニョキッと芽吹いていることに気づいた。それは、まるで小さな人間が土から生えてきたかのような、奇妙な根のような姿で、頭には数枚の細い葉が、まるで弱々しいアンテナのようにぴょこぴょこと揺れている。

「あれ?こんなヘンテコな植物、植えた覚え全然ないんだけど……まさか、ポポの仕業か?」

 レイがそっとその植物に、好奇心半分、いたずら心半分で触れようとした、その時だ。

「キャアアアッ!ぎゃあああッ!」

 それは、耳をつんざくような、しかしどこか幼く、そして意外なほどに可愛らしい、甲高い悲鳴だった。レイは驚いて手を引っ込めかけたが、その声に頭が痛むことも、気分が悪くなることもない。むしろ、小鳥のさえずりのように心地よく響く、奇妙な歌声にすら聞こえた。レイは思わず「ふふっ、可愛い声だなぁ!」と笑ってしまった。

 その声に驚いたのは、レイだけではなかった。ログハウスの中から飛び出してきたヴァルドとミリアは、顔を真っ青にしてその場に立ち尽くした。

「ま、マンドレイクの叫び!?」ヴァルドが震える声で呟いた。「だ、大丈夫かレイ!すぐに耳を塞ぐんだ!」

 ミリアも必死の形相でレイに駆け寄ろうとするが、レイはきょとんとした顔で首を傾げた。

「え、でも、別に痛くないよ?なんか、可愛らしい声が聞こえるだけだけど……」

 そこに、突如として空から舞い降りてきたセイリオスが、マンドレイクの株を興味深そうに覗き込み、自身の魔力を微かに送って観察する。彼の顔には、「面白いもの見つけた!」という科学者の好奇心が満載だった。

「ふむ……なるほど、そういうことか。ヴァルドよ、ミリアよ、心配ご無用じゃ。このマンドレイクの叫びは、本来ならば生命力を吸い取り、死に至らしめる毒性を持つが……レイの大地の祝福による聖域化された畑では、その性質が変質しておるのじゃ」

 セイリオスは、普段の冷静さからは想像もつかないほど興奮した様子で、羽を微かに震わせながら説明を続けた。「レイの言霊理解と神霊視、そしてこの大地に満ちるレイの魔力が、マンドレイクの根源的な魔力にも影響を及ぼし、本来の危険な叫びを、このような無害で可愛らしい音に変えているのじゃろう。これは実に興味深い現象じゃ!いやはや、レイの祝福は、儂の予想をはるかに超えてくるのう!」

 ヴァルドとミリアは、セイリオスからの説明を聞いても、目の前のマンドレイクが「可愛い声」で叫んでいるという信じられない状況に、ただただ愕然とするばかりだった。伝説の恐ろしい魔物が、レイの庭ではまるでペットのように愛らしい鳴き声を発しているのだ。これはもう、常識がひっくり返る瞬間だった。

 そのマンドレイクは、レイが「マンちゃん」と名付けると、嬉しそうに畑をちょこまかと歩き回り、他の植物たちに寄り添い始めた。そして日が暮れると、マンちゃんは自ら土の中に潜り込み、まるで畑そのものが寝床であるかのように、すやすやと眠りについた。ポポが土を耕し、マンちゃんが植物の世話をする、というレイの畑は、異世界でも類を見ない、奇妙で賑やかな楽園へと変わりつつあった。

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