第26話:異世界の庭で、日本の恵み
レイは、大地の祝福を使って日本の植物を育て始めたのだが、これがとんでもなく楽しくて、すっかり味を占めていた。特に、以前試しに植えてみたイチゴが、想像以上に甘くジューシーに育ったものだから、レイの心はもう「次はあれも!これも!」と、日本のフルーツ栽培計画でパンク寸前だった。ログハウスの広々とした庭で、次に植える作物の畝をどうするか考えながら、土に意識を集中させる。彼の神霊視は、土の中に満ちる微かな魔力の流れを感じ取っていたのだが、それがいつもよりやけに活発になっていることに気づいた。まるで、土が「レイ様、何か面白いこと始まりましたか?」とでも言いたげに、そわそわしているかのようだった。
「ん?なんだろう、この感じ……」
レイが不思議に思っていると、彼の足元の土が、わずかに震え始めた。最初は小さな振動だったが、やがてそれは脈打つように大きくなり、土の表面がむくむくと盛り上がっていく。シャドウがレイの足元で警戒の姿勢を取り、ミルが心配そうにレイの顔を覗き込んだ。ふわふわも、レイの膝の上で「なんだか地面が揺れる〜」とでも言うように、もふもふした体を小さく震わせている。
次の瞬間、盛り上がった土の中から、「もふっ!」という可愛らしい声と共に、ふわりと小さな土の塊が飛び出した。それは、手のひらサイズのモグラのような姿をしていた。丸っこい体に、短い手足と、つぶらな瞳。頭には小さな芽のようなものがちょこんと生えており、柔らかな茶色の毛並みが土の色に溶け込んでいる。まるで、土から生まれたばかりの、とびきり可愛い妖精のようだった。
「えっ……きみは……?」
レイが思わず声をかけると、小さなモグラはくるくるとレイの周りを飛び跳ね、再び「もふっ!もふもふ!」と楽しそうに鳴いた。その体からは、大地そのもののような温かく優しい魔力が発せられている。レイは、この小さな存在が、自分に引き寄せられるようにして土から生まれた、地属性の従魔だと直感した。これはもう、運命の出会いだろう!我が家の庭に新しい仲間が降臨したのだ!
「もふっ!もふもふ!」
小さなモグラは、レイの指にすり寄ってきた。レイは優しく頭を撫でてやる。その感触は、ふわふわで心地よかった。
「そうだね、もふもふ、って感じだね。きみ、名前はポポでいいかな?」
レイが「ポポ」と呼んでやると、小さなモグラは嬉しそうに体を揺らし、再び「もふっ!」と応えた。こうして、レイの従魔に新たな仲間、地属性のポポが加わったのだった。ポポは、早速レイの足元で、自らの魔力で土を柔らかくしたり、枯れた葉を栄養に変えたりと、まるでベテラン農夫のように畑仕事に興味津々の様子を見せていた。ふわふわもポポの周りをちょこまか動き回り、新しい友達に興味津々だ。
▪️眠れる伝説のゴーレム
その日の夕食後、レイはふと、ヴァルドとミリアが冒険者時代の話をしているのを聞いた。
「そういえば、あのダンジョンで手に入れた変な石像、まだ倉庫にあるのかしら?」とミリアが言った。「全然動かないし、何の役にも立たないから、邪魔なだけなのよねぇ。」
「ああ、あれか。伝説のゴーレムとか言われていたが、ただのガラクタだったな。重くて売るにも困るし、倉庫の奥にしまい込んだままだろう」ヴァルドが苦笑した。
レイの耳は、その「伝説のゴーレム」という言葉にピクリと反応した。動かないけれど、伝説級?これはもう、僕の言霊理解か神霊視で、何か分かるかもしれない!レイは翌日、倉庫の奥を探し始めた。まるで宝探しゲームの始まりのようなワクワク感が募った。
倉庫の片隅、埃をかぶった大量のガラクタの山の中に、それはあった。高さ2メートルほど、全身が鈍い金属光沢を放つ、人型の石像だ。表面には複雑な紋様が刻まれ、確かにただの石像にしては異様な存在感を放っている。しかし、手足の関節は錆びついたように固まり、瞳の部分は光を失って真っ暗だ。まるで、充電切れの巨大ロボットみたいだった。
「これか……。たしかに動かないし、ガラクタに見えるな」
レイがゴーレムの体に触れると、彼の神霊視が、ゴーレムの内部に微かな、しかし確かに存在する魔力の源を感じ取った。それは、まるで深い眠りについているかのような、静かで巨大な魔力の塊だった。ただの石像ではない、確かな手応えがあった。まるで、眠っている巨人が目の前にいるかのようだ。
「もしかして……動く、かもしれない!」
レイは、胸が高鳴るのを感じた。このゴーレムがもし動き出せば、我が家の生活はもちろん、これからの冒険にも、計り知れないほどの助けとなるだろう。まるで、頼もしい仲間が増える未来が、目に浮かぶようだった。しかし、どうすればこの眠れる守護者を目覚めさせられるのか。レイの新たな挑戦が、ここに始まったのだ。




