第24話:真なる月狼の誕生
ルーナが手にした銀色の巻物から放たれる光は、まるで「ここからが本番だよ!」と言わんばかりに、昨日感じた微かな輝きをはるかに超えて、図書室全体を純粋な月の光で満たし始めた。それは、古びた書物の埃をまるで魔法の掃除機で吸い取るように払い、ひんやりとした空気を、なんだか心がポカポカする神秘的な温かいものへと変えていく。空間全体が月の光に包まれ、まるで夜空に浮かぶ満月の中に、すっぽり入り込んでしまったかのようだった。
「どうしたの、ルーナ!?」
ミリアが不安げに声を上げた。その光はあまりに強く、思わず「ひえっ」と畏敬の念すら抱かせるものだったからだ。
しかし、セイリオスは落ち着いた声で答えた。
「案ずるな、ミリア。これは、真なる月狼が誕生する光景だ。ルーナが、自身の本来の力を呼び起こしているのだ。この図書室に宿る月の神聖な魔力と、レイの祝福が、彼を導いたのだろう」
セイリオスの言葉通り、図書室の中央に、月の光が降り注ぐような巨大な柱が現れた。その光の柱の中で、ルーナの姿が変化し始めた。彼の白い毛並みは、まばゆいばかりに輝きを増し、その体は一回りどころか、二回りも三回りも大きく、雄々しく変貌していく。細身だった四肢には強靭な筋肉がつき、しなやかでありながらも力強い体躯が形成されていく。額には、完璧な形をした三日月型の紋様がくっきりと浮かび上がり、その周囲には月の魔力が螺旋を描くように渦巻いていた。それは、まるで神話に出てくるような、威厳に満ちた姿だった。
「これが……ルーナの本来の姿……」
レイは、目の前の神々しい光景に息をのんだ。目の前にいるのは、かつての愛らしい狼とは似て非なる、圧倒的な威厳を放つ真の月狼だった。その存在は、この図書室の空間すらも凌駕するかのようだった。
光の柱がゆっくりと収束すると、そこには、まさに月の化身と呼ぶにふさわしい、堂々たる姿のルーナが立っていた。彼の青い瞳は、遥かなる古の知識と、経験に裏打ちされた深遠な輝きを放ち、その眼差しは、レイの心を見透かすように深く、澄んでいた。
「レイ……アナタの加護が、ワタシを目覚めさせた。この恩義、必ず報いましょう。ワタシの使命は、月の神殿の光を再びこの地に灯すこと。そして、その光は、アナタ、レイの力と共にあると、古の盟約は告げています。ワタシはアナタの傍らにあり、行く道を共に切り開き、あらゆる脅威から守りましょう」
ルーナの言葉は、以前よりもさらに丁寧で、言葉の一つ一つに重みが加わっていた。それは、長き時を経て、記憶を取り戻した古の守護者の言葉だった。彼の覚醒は、単なる力の増強ではない。レイ自身の使命とも深く結びつき、これから進むべき道を明確に示しているかのようだった。
「ありがとう、ルーナ。これからも、ずっと一緒にいてくれるんだね」
レイがそう言うと、ルーナはレイの傍らに歩み寄り、その大きな頭をレイの手に優しく擦り寄せた。その仕草は、彼の姿が変わっても、レイへの変わらぬ親愛の情を示していた。彼の存在は、レイにとって、計り知れないほど心強いものとなった。
図書室に差し込む夕陽が、覚醒したルーナの白い毛並みを黄金色に染め上げる。レイは、ルーナの頭を優しく撫でながら、これから始まるであろう、彼らの新たな旅路に思いを馳せていた。月の神殿の光が灯される時、一体何が明らかになるのだろうか。そして、レイとルーナの絆は、さらなる試練を乗り越えて、どこまで深く、強固になっていくのだろうか。




