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第22話:選ばれし者たちの図書室

 

 セイリオスの特別授業を終え、レイは自身の持つ祝福の力を、より深く理解することができた。特に、言霊理解で古文書が読めたり、神霊視で微かな神性が見えたりする能力は、レイの知的好奇心を大いに刺激した。「僕って、もしかして天才?!」とこっそり思っているとかいないとか。セイリオスもレイの成長にご満悦のようで、最近は書庫の奥で、新たな書物を読みふけっていた。まるで、お宝を見つけたフクロウのように、目を輝かせているようだった。しかし、セイリオスが特に興味を示していたのは、レイの学びの場でもある、このログハウスの図書室そのものだった。


 ある日の午後、レイは母さんと一緒に、図書室でまったり過ごしていた。母さんは新しい料理の本を読み、「ふふふ、今夜はこれかしら?あらあら、美味しそう!」と、なんだか怪しい笑顔を浮かべていた。レイはセイリオスに教えてもらった古文書を読んで、おさらい中だった。ふと、レイは首をかしげて、キョロキョロ見回した。


「母さん、この図書室って、また広くなった?」

 レイが尋ねると、ミリアはニコニコしながら言った。


「ええ、そうね。また少し広くなったみたい。不思議でしょう?他の部屋は父さんと私が、汗水たらして頑張って壁をぶち抜いたり、床を広げたりして工夫して広げているのに、ここだけは勝手に空間が拡張されていくのよ。まるで、図書室自身が『もっと本を読んで!』って言ってるみたいね!」


 ミリアはそう言って、いつの間にか壁にニョキッと生えてきたような、新しい書棚を指差した。ログハウスは、ヴァルドとミリアが二人でせっせと生活スペースを広げてきたのだが、この図書室だけは、選ばれた者が知識を深めるたびに、まるで生きているかのように勝手に内部が広がり、書棚が増えていくという奇妙な性質を持っていたのだ。それはまるで、増築費用がいらない、魔法のような部屋だった。

 ミリアはさらに教えてくれた。


「父さんが話してたのだけど、このログハウスがある場所はね、ユングリング家がずーっと昔からフレイ神様っていう神様の加護を受けて、守ってきた聖なる場所らしいのよ。だから、すっごく強い結界がいつも張ってあるんですって。父さんが遠い王都まで楽に通勤できるのも、この図書室のおかげだからって、いつもニコニコしてるわ」


 レイの頭の中では、まるで現代の動画で見た「どこでもドア」のように、父さんが王都へビュン!とワープしていく姿が思い浮かんだ。ミリアの説明を聞いて、レイは目をまん丸にした。祖父であるアルヴィンが、現国王の弟にあたる王族の出身であることは知っていたが、それがこのログハウスや図書室とどう繋がるのか、レイにはまだサッパリわからなかった。「じぃじもキラキラしてるし、何か秘密があるのかな?」レイは心の中で、こっそり思った。

 そこへ、書物から顔を上げたセイリオスが、にこやかに加わった。まるで、全てを見通しているかのように。


「その通りだ、ミリア。この図書室はな、古い歴史書や珍しい本が山ほどあるから、ヴァルドラ王国にとっても、それはもう大事な場所なのだ。王家としても、この貴重な知識が失われるのを恐れて、昔からこの場所の管理者を選定してきた。まさに、知識を守る金庫番とも言えるじゃろうな!」

 セイリオスの言葉に、レイはますます興味を惹かれた。


「管理者って、じゃあ、父さん以外の人も選ばれたりしたの?」

 レイの素朴な疑問に、セイリオスは頷いた。


「管理者自体は代々存在したが、この図書室の選定方法は血筋の順位では決まらない。フレイ神の祝福を受けたユングリング家の血を引く者の中から、図書室が『この人だ!』と自分で選んだ者のみが管理者となれるのだ。まるで、図書室に意思があるかのようにな。ヴァルドの世代で選ばれたのは、驚くことに彼一人だけだったんだ。そしてな、その前の管理者になれたのは、他でもないお主の祖父、アルヴィンだったと聞いているぞ」


 レイは少し驚いたように言った。

「そうなんだ! じゃあ、必ず誰かが選ばれるってわけじゃないんだね?」

 ミリアが答えた。

「そうなのよ。そういう時もあったと聞いてるわ。しかもね、選ばれないと、図書室への扉が急に消えて、ただの壁になっちゃうんですって!本当に不思議でしょう?お祖父様が選ばれるまでは、扉が閉ざされたままの時期もあったらしいわ。何百年も、誰も選ばれなくて、ずっと閉ざされていた時代もあったそうよ。本好きには、さぞかし辛い時代だったでしょうね」

「何百年も!?」

 レイは目を丸くして、広々とした図書室を見回した。こんなにも多くの知識が詰まった場所が、長い間、誰にも開かれない壁になっていたと想像すると、背筋がゾッとした。それはまるで、巨大な本の牢獄のようだった。

 ミリアはレイの驚きに微笑み、続けた。

「そうよ。だから、父さんはいつも、祖父様の代で図書室が閉じられることなく、自分が選ばれてまた本を読めるようになったことに、心からホッとしたって話していたわ。まるで、閉ざされていた宝の山が、やっと日の目を見たかのようにね」

 セイリオスが補足した。

「そうだ。ヴァルドはユングリング家の次代の管理者として選ばれ、一度途絶えかけた図書室の管理を再び引き継いだのだ。そしてな、彼が今この家の主だから、家族であるミリアやお主、学園で学ぶレオンとリィナも、自由にこの図書室を利用できる。この重要な図書室の管理と稀少な蔵書を守るため、ここには王都と繋がる特別な転移陣という便利なワープ装置が設置されていてな、ヴァルドはギルド長のお仕事と管理者の役割を、両方こなせていたのだ。まったく、便利な世の中になったものじゃな!」

 セイリオスの言葉を聞きながら、レイは改めて図書室を見渡した。どこか古めかしいその空間は、単なる知識の保管場所ではなく、家族を温かく見守ってくれる、大切な存在のように感じられた。セイリオスが言っていた「運命に選ばれる」という言葉が、この図書室を見ていると、より具体的に感じられた。


 レイは、自分もいつか、この不思議な図書室に選ばれる日が来るのだろうかと、漠然とした期待を抱いた。そして、もしその時が来たら、自分にしかできないやり方で、この図書室を、そしてこの家族を守っていきたい!と、幼いながらも心に誓ったのだった。「僕が選ばれるなら、もっともっと面白い本を増やして、みんながビックリするような図書室にしたいな!」と、レイは心の中でひそかに大きな野望を燃やしたのだった。


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