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第2話:ギルド長と宰相の報せ、そして賢梟先生、まさかの「うたた寝常連客」に?!

「レイ、ちゃんととぉしゃんと手ぇ繋いで行くんだぞ」

 翌朝、ログハウスの玄関で、ミリアがヴァルドとレイに声をかけていた。今日は、レイのとんでもない祝福について、祖父であるアルヴィンに報告に行く日だった。ヴァルドはギルド長という役職上、王都にいるアルヴィンと定期的に連絡を取っていたが、どうやらユングリング家では、こんな重大な報せは直接伝えるのが慣習らしかった。ご苦労なことである。

「いってらっしゃい、ヴァルド、レイ」

 ミリアは玄関で見送ると、すぐに大キッチンへと戻っていった。今日の夕食は、レイの誕生日と祝福を祝う特別なものにするつもりで、すでに森で採れたての魔獣の肉や、珍しい山菜がテーブルいっぱいに広げられていた。まるで、「今夜は豪華絢爛よ!」とでも言わんばかりだった。

「ふむ、この『飛炎鳥』の肝は、今日の『月光茸』との組み合わせで、最高の逸品になるだろうな……」

 ミリアは楽しそうに独り言を呟きながら、慣れた手つきで肉を捌き始めた。その様子は、育児休業中の母親というよりは、獲物を前にした熟練の狩人の顔そのものだった。彼女が美味しいもののためなら手間を惜しまない、という言葉は決して嘘ではないと、レイは改めて認識したのだ。


 ▪️王都の祖父は、孫にデレデレ?

 ログハウスから少し離れた場所に、アルヴィンが王都との通信に使うための通信所がある。そこは強力な結界で守られており、レイの家の近くから直接王都へ転移できる仕組みになっていた。ヴァルドはレイをひょいと抱きかかえ、通信所の扉を開けた。

「さあ、じぃじに会いに行こうな、レイ」

 転移の光が収まると、そこは王都にある宰相の執務室だった。重厚な調度品と、積み上げられた書類の山。アルヴィンは白銀の髪を持つ威厳ある老紳士で、机に向かって真剣な表情で目を通していた。まるで、「国の命運はこの私が握っているのだ」とでも言いたげな雰囲気だった。

「父上、失礼いたします」

 ヴァルドの声に、アルヴィンは顔を上げた。レイの姿を認めると、その厳しい表情がわずかに和らいだ。まるで、孫の前ではデレデレのおじいちゃんに戻ったかのようだった。

「おお、ヴァルド。そして、レイではないか。大きく、そして立派になったな」

 アルヴィンはレイを抱き上げ、その頬を優しく撫でた。レイは少し照れながらも、祖父の温かい手に身を委ねた。

「父上、ご報告がございます。レイに、フレイ神の祝福が確定いたしました」

 ヴァルドの言葉に、アルヴィンの表情がぴくりと動いた。彼はレイの透き通るようなエメラルドグリーンの瞳をじっと見つめ、その手のひらをそっと重ねた。すると、アルヴィンの手から、温かい魔力がレイの体に流れ込んでくるのが感じられた。同時に、レイの〈神霊視〉が、祖父の体から微かに神性の輝きを発しているのを感じ取った。「あれ?じぃじって、もしかして…?」レイは、こっそり首を傾げた。

「これは……確かに、間違いなく。フレイの血が、色濃く宿っている。それに、この清らかな魔力は……」

 アルヴィンは深く息を吐き、静かに言った。

「ユングリング家の中でも、これほどの祝福を持つ者は、数代に一度現れるか否かだ。……素晴らしい。本当に素晴らしい」

 アルヴィンの目には、喜びと、そして何よりも安堵の色が浮かんでいた。彼は宰相としてヴァルドラ王国の結界も担当している。レイの持つ強大な祝福は、王国にとって大きな意味を持つだろうと、彼は直感的に理解したのだ。


 ▪️図書室の怪奇現象と、賢梟先生の突然の来訪(しかも今回は居候!)

 王都での用事を終え、その日の夕方、レイとヴァルドはログハウスへと戻った。

 夕食時、ミリアが今日の狩りの成果を誇らしげに語る。既に帰宅していたミリアは、レイとヴァルドが王都へ行っている間、今日の夕食にとびきりの獲物を仕留めてきたらしかった。

「今日はね、ダンジョンの奥で『虹色の鱗を持つ魚』を捕まえたんだ。刺身にしてもよし、焼いてもよし! レイもたくさん食べるんだぞ!」

 ミリアが並べたのは、見たこともないほど豪華な料理の数々だった。前世ではアレルギーで動物に近づくことすら叶わなかったレイだが、この世界ではアレルギー反応も出ない。美味しい料理をたらふく食べられることに、レイは心底感動した。まさに、「アレルギーよ、さらば!」という気分だった。

 食事が終わり、レイが図書室で絵本を読んでいると、ふと違和感に気づいた。いつもは見慣れた背表紙ばかりのはずなのに、書棚の隙間や、テーブルの隅に、見たことのない古びた書物や、妙に光る羊皮紙がいくつか増えているのだった。

「あれ?これ、いつからあったんだろ?」

 レイが首を傾げていると、ヴァルドとミリアが何やらひそひそと話しているのが聞こえてきた。

「そういえば、父上が言っていたな。レイが生まれる少し前だったか。『もう一人、孫が生まれる』とセイリオスに話していたと。あの賢梟、レイが生まれる前から張り切っていたらしいぞ。」

「あら、そうなの? あの賢梟が、わざわざこんな辺境まで来るなんて珍しいわね。とはいえ、この家の結界は、祝福を持つ賢き存在を引き寄せる力も持っていると聞くわ。それに、この図書室には昔から頻繁に来てたものね。何か書き残していったりもしてたし。」

 ミリアの言葉を聞き流していると、突然、開け放たれた窓から、静かに、しかし確かな存在感を持って、一羽の大きなフクロウが舞い降りてきたのだった。まるで、「やあ、待たせたな」とでも言いたげに。

 そのフクロウは、白と灰色の羽毛に包まれ、金色の縁の丸眼鏡をかけている。背には小さな革のポーチを提げており、いかにも賢そうな雰囲気を漂わせていた。彼はそのまま、図書室の開架書棚の一角に、すっと止まった。

「ふむ……まさか、これほど早く会えるとはな。フレイの血を継ぎし、祝福されし子よ」

 フクロウは、おじいちゃんのような、落ち着いた声で話した。その金の瞳は、レイの顔をじっと見つめている。レイの〈神霊視〉が、このフクロウから放たれる圧倒的な神性の輝きを捉えた。

「もしかして、あなたが……セイリオス?」

 レイの言葉に、フクロウはゆっくりと瞬きをした。そして、そのまま「いかにも。余が賢梟、セイリオス。オーディン神の祝福を受けし者にして、知識を司る者……」と、自己紹介を始めたものの、その途中で、ふいにコクリと首を傾げ、そのまま静かな寝息を立て始めたのだった。

「……だそうですよ、レイ。まあ、よくあることなのじゃ」

 セイリオスの隣で微笑むヴァルドに、レイは目をぱちくりさせた。どうやら、この賢梟は、話の途中でうたた寝をするのが特技らしかった。

「ふむ。この図書室は、なかなか蔵書も多いようだな。このまま、ここでしばらく過ごさせてもらおうか」

 少しして目を覚ましたセイリオスは、何事もなかったかのようにそう呟いた。どうやら、セイリオスはレイの家の図書室に常駐するつもりらしかった。まさかこんな形で、神の使いとも言える賢梟が、しかもうたた寝常連客としてやってくるとは。レイは、この異世界での生活が、想像以上に賑やかで、そして刺激的なものになりそうだと確信したのだった。


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