第19話:賢梟の特別授業:契約の王印の真実、まさかの「心の距離ゼロ」契約?!
ログハウスに戻った翌朝、レイはいつもより早く目を覚ました。今日から始まるセイリオス先生の特別授業に、期待と少しの緊張を感じていた。まるで、遠足の日の朝に目が覚める子どものようにワクワクだ。朝食を済ませ、レイは従魔たちを連れて図書室へと向かった。セイリオスはすでに書棚の一番上の段に止まって、丸眼鏡をクイッと持ち上げ、レイの到着を今か今かと待ち構えていた。まるで、定刻通りに運行する魔法の列車を待つ駅員さんだ。
「ほう、レイ。時間通りとは感心じゃな。さあ、始めるぞ。朝寝坊は許さんぞ!フフフ……」
セイリオスはそう言うと、持っていた分厚い古文書をパタンと閉じた。まるで、今日の授業はこれを全部読むぞ、と言わんばかりに。バルドルは、いつものように窓辺から授業を見守っている。シャドウはレイの影に、ミルは肩に、ふわふわは足元に、フラムはレイの頭の上に、そしてネクサはレイのそばの空中に、ふわりと浮かんで、それぞれ収まっていた。ルーナは、静かに書棚の一角に座り、セイリオスの授業に耳を傾けていた。優等生ぶっているが、たまにコクリと舟を漕いでいるのは、レイしか知らない秘密だ。
「さて、レイ。お主が持つ四つの祝福の中で、最初に理解すべきは、契約の王印じゃ」
セイリオスは、レイの右手のひらに刻まれた紋様を指差した。まるで「ほれ、そこじゃ」とでも言いたげに。
「お主は、既にシャドウやミルたちと契約を交わしておるが、その契約が、一般的なテイマー(魔獣使い)が結ぶ契約とは、まるで異なることを知っておるか?全くの別物じゃぞ?天と地ほどに違うのじゃ!」
レイは首を傾げた。「うーん、なんかすごいのは知ってるけど……?」という顔だ。前世の知識では、魔獣と契約する、という概念自体がフィクションの世界の話で、詳しい仕組みなど知る由もなかった。
「ううん、わからない」
セイリオスは満足げに頷いた。「よしよし、素直でよろしい」とばかりに。
「良い返事じゃ。一般的なテイマーは、魔獣を『従属』させる。魔獣の力を借り、命令し、使役する。いわば、主従関係に過ぎん。魔獣はテイマーの『道具』に近い存在となるのじゃ」
セイリオスは、書棚から一冊の古い書物を取り出し、レイにページを開いて見せた。そこには、鎖で繋がれた魔獣と、鞭を持つ人間の絵が描かれていた。見るからに「パワハラ上司」と「可哀想な部下」という雰囲気だ。
「しかし、お主の契約の王印は違う。お主は魔獣や精霊の心を理解し、魂と魂を繋ぐ。それは『契約』であると同時に、『盟約』、そして『家族』となる証なのじゃ!まるで、運命の赤い糸、いや、青い糸じゃな!」
セイリオスは、レイの足元で寛いでいるシャドウに視線を向けた。シャドウは「ふん、当然のことだ」とばかりに鼻を鳴らし、しっぽでレイの足にペシペシと軽くアピールした。
「例えば、シャドウ。彼は本来、この森の黒豹の魔獣。並のテイマーであれば、力で服従させ、強引に契約を結ぶだろう。無理やり言うことを聞かせようとするじゃろうな。だが、お主はそうではない。シャドウが自らお主の影に入り込み、お主の危機には命をかけて身を挺す。それは、彼がお主を『家族』と認め、心から信頼しておるからじゃ。まるで、番犬ならぬ『番影』じゃな。いや、番猫か?」
シャドウは、セイリオスの言葉に呼応するように、レイの足にゴロゴロと擦り付いた。「ニャー」とでも言いそうな勢いだ。レイはシャドウの温かい体を感じ、その信頼の深さに改めて気づいた。
「ミルもそうじゃ。彼はモモンガゆえ、その小さな体と素早さ、そして滑空能力を活かせば、どんな小さな隙間にも入り込み、情報を集められる。じゃが、一般的なテイマーであれば、ただの『偵察要員』としてしか見んじゃろう。それも、命令されて仕方なく、じゃな。ミルはお主の頼みを聞き、自ら進んで情報を集めてくれる。それは、お主が彼の意志を尊重し、対等な関係を築いているからじゃ。さながら、一流のフットワーク軽めな秘書じゃな」
ミルはレイの肩で、「ぴぃ!」と嬉しそうに鳴いた。「もっと褒めて!」とでも言いたげだ。
「そしてネクサ。彼女は囚われ、力を失いかけていた水の精霊じゃった。一般的なテイマーであれば、弱ったところを付け込み、力ずくで従わせようとするやもしれん。無理やり働かせようとするじゃろうな。じゃが、お主は彼女の苦しみを癒し、救いの手を差し伸べた。だからこそ、ネクサはお主を信頼し、自らの意思でお主の仲間となることを選んだのじゃ。これはもう、一目惚れ、いや、出会って秒速で恋に落ちたようなものじゃな!」
ネクサは、レイのそばの空中にふわりと浮かびながら、きらきらと輝く水の粒子を放ち、レイの指にそっと触れた。「えへへ」と照れているようだ。
「つまり、契約の王印は、単なる力の行使ではない。それは、相手の心に寄り添い、絆を育む力。契約した魔獣や精霊は、お主の『家族』として、共に成長し、共に戦い、そして共に生きる。彼らの能力も、お主との絆が深まるほどに、無限の可能性を秘めていくのじゃ。まさしく、『心の距離ゼロ』契約じゃな!なんなら、マイナスじゃ!」
セイリオスはそう締めくくると、丸眼鏡を押し上げた。得意げな顔だ。
「これが、お主の契約の王印が、一般的なテイマー魔法と異なる、真の姿じゃ。理解できたか、レイ?」
レイは、セイリオスの説明に、深く頷いた。漠然と「なんかすごい力」だと思っていたことが、具体的にどう「すごい」のか、そして、自分がどれほどかけがえのない絆を従魔たちと結んでいるのかを、初めて実感できた。
「うん、よくわかったよ! ありがとう、セイリオス先生!セイリオス先生、すごい!」
レイが元気よく返事をすると、セイリオスは満足そうに「グフフ」と笑った。シャドウ、ミル、ふわふわ、フラム、ルーナ、そしてネクサも、それぞれがレイの言葉に喜びを表しているようだった。
「よし、今日の授業はここまでじゃ。明日からは、別の祝福について、さらに深く学んでいくとしよう。予習はしておけよ?居眠りは許さんぞ!」
レイは、自分の持つ力の意味を理解できた喜びでいっぱいだった。セイリオスとの特別授業は、レイの新たな冒険の始まりを、より確かなものにするだろう。うん、レイの「最強への道」は、賢梟の特別授業によって、さらに加速する予感だ!もはや、止められない!