第18話:王都の精霊と、賢梟の特別授業、そして「サプライズ従魔披露大作戦」?!
王都での滞在を終え、レイと家族は慣れ親しんだログハウスへと戻っていた。しかし、レイの胸の内には、王都の宰相邸の庭園で出会い、電撃契約を交わした水の精霊、ネクサのことがあった。帰りの転移陣の中で、レイはネクサをそっと抱きしめながら、いかにしてヴァルドとミリアに「新しいお友達ができたよ!しかも精霊だよ!」と打ち明けるべきか、小さな頭を悩ませていた。まるで、秘密のケーキを隠し持つ子供のようだった。
ログハウスに到着すると、ミリアが温かいハーブティーを「おかえりなさい!」とばかりに用意してくれた。ヴァルドも、王都での仕事の疲れを見せることなく、笑顔でレイを迎えた。うん、いつもの平和なログハウスだ。食卓を囲みながら、レイは意を決して口を開いた。まるで、重大発表をするかのようだった。
「父さん、母さん……あのね、王都で、新しいお友達ができたの!」
レイがそっと腕の中のネクサを差し出すと、ヴァルドとミリアは目を丸くした。透き通るように輝く小さな精霊の姿は、彼らの知るいかなる魔獣とも異なる。というか、見たこともない。
「レイ、その子は一体……まさか、王都で拾ってきたの?!」
ミリアが驚きを隠せない声で尋ねる。ヴァルドも、その表情に一瞬の戸惑いを浮かべた。まるで「まさかまた何か拾ってきたのか?」とでも言いたげに、眉間にシワを寄せた。
レイは、泉での出来事を、正直に話し始めた。じぃじの庭園で幻獣の歌声を聞いたこと、それが泉に囚われていたネクサのものだったこと、そして、苦しそうなネクサを助けたい一心で、まるで「お友達になりたい!」とばかりに契約したこと。
レイの話を聞き終えたヴァルドは、深く息を吐き、そのままテーブルに突っ伏し、頭を抱えた。まるで、雷に打たれたかのようだった。
「レイ、お前は……! 幻獣との契約は、国の許可が必要なほどに特別なことなんだぞ。しかも、じぃじの庭園のど真ん中で、まさか水の精霊と契約してくるとは……!私の胃が、もう……!」
ヴァルドの言葉には、驚きと、レイの突飛な行動に対する困惑が入り混じっていた。レイがどこまでも規格外なのは知っていたが、まさかここまでとは。
しかし、ミリアはネクサの透明な体にそっと触れ、その清らかな水の魔力を感じ取った。そして、レイの行動を優しく肯定した。
「いいのよ、レイ。ネクサを助けたことは、決して悪いことじゃないわ。むしろ、よく頑張ったわね!ただ、ネクサが精霊であること、そして幻獣と呼ばれる特別な存在であることは、今はまだ、私たち家族だけの秘密にしておきましょうね。秘密基地の秘密みたいにね!」
ミリアはそう言って、レイとネクサを優しく抱きしめた。ヴァルドも、ミリアの言葉に「うぅむ……」と唸りながらも頷き、レイの頭を撫でた。
「そうだな。お前がネクサを助けたことは、正しいことだった。だが、このことは、すぐにじぃじにも報告せねばなるまい。王都の宰相邸に幻獣が囚われていたという事態自体が、何らかの『おかしな事態』を示唆しているからな。じぃじもさぞ驚くことだろう……いや、呆れるか?」
ヴァルドは、ネクサがレイと契約したことを、宰相アルヴィンに報告する手はずを整え始めた。すでに頭の中では、じぃじの「またお主は……」という声が響いているようだった。
その日の夕食後、レイが絵本を読んでいると、セイリオスがいつものように書棚から「フワリ」と舞い降りてきた。
「ふむ、レイよ。お主が王都で新たな従魔を迎え入れたと聞いたぞ。しかも、水の精霊ネクサとはな。なかなか骨のあることをしてくれたのう」
セイリオスは、レイの頭に止まっているネクサをじっと見つめた。ネクサは、セイリオスの神聖な気配に、少しだけ身を硬くしている。まるで、厳しい先生にチェックされている生徒のようだった。
「父さん、母さんに、びっくりされちゃった」
レイがしょんぼりと言うと、セイリオスは「グフフ」と不敵な笑みを浮かべた。
「当然じゃろう。じゃが、お主の行動は、決して無意味ではなかった。お主は、その祝福を、自身の意思で正しく使った。それは、何よりも価値のあることじゃ。お主は『できる子』じゃからのう」
セイリオスは、丸眼鏡をクイッと持ち上げ、真剣な眼差しでレイを見つめた。
「しかし、ヴァルド殿も言っておったように、お主はまだ幼い。その力を、漠然と『すごい!ぴかー!』としか理解しておらぬようでは、いずれ身を滅ぼすことになりかねん。そこでじゃ、明日から、余が特別授業を開いてやろう。名付けて『賢梟によるレイの祝福徹底解剖講座!』じゃ!」
レイは目を丸くした。セイリオスが授業をしてくれるなんて、想像もしていなかった。しかも、なんだかやたら長い名前の講座だ。
「え、セイリオスが先生?!」
「いかにも。お主の持つ四つの祝福、〈契約の王印〉、〈神霊視〉、〈言霊理解〉、〈大地の祝福〉。それぞれが具体的にどのような力で、いかに活かすべきか。そして、何が通常の者たちの能力と異なるのか。それを座学でみっちりと教えてやろう。居眠りは許さんぞ!」
セイリオスの言葉に、レイは少しだけ緊張したが、自分の力を深く知ることができる、という期待の方が大きかった。
「うん! よろしくお願いします!頑張る!」
レイが元気よく返事をすると、セイリオスは満足げに頷いた。バルドルも、窓辺から見守るように、静かにその様子を見つめていた。明日から始まるセイリオスによる特別授業。それは、レイが自身の祝福の真価を理解し、この世界の真実へと足を踏み出すための、重要な第一歩となるだろう。うん、レイの「最強への道」が、いよいよ本格的にスタートする予感だ!