第三十八話 顛末
遡る事半日。十三郎は以前累が五人の侍とやり合った、神社の裏境内にいた。そこには公儀隠密、若杉雨丸の姿もあった。
「おう、久しぶりだな若杉。朝から色々と聞いてまわってたんで眠くてしょうがねーや。一昨日九州の若侍共を煽ったのはおめぇらしーな」
頭をボリボリと搔きむしりながら、十三郎は若杉に話しかけた。
「岸田殿、ご無沙汰しております。ここに現れたという事は全てをご存知だという事でしょうね」
若杉雨丸は静かな口調でそう言った。
「累でなくて悪かったな。あいつにゃまだ荷が重そうだったんで代わりに俺が来てやった。朝方天流剣術道場に届いた文は累には渡っちゃいねぇ。しかしなんでまたお前さんはこんな事してるんだ? 日の本の将来がどうだとか、そんな玉じゃねーだろ?」
「拙者の事をどう思われているかは分かりませんが……拙者、今は若杉姓を名乗ってはいるものの、元々生家は杉若無心に連なっているのです」
「杉若無心? なるほど関が原では西軍の武将だった杉若無心か……。 ま、なら分からなくもないか。しかし、あの戦はもう終わった話だろう。折角一つにまとまった日の本をまた二つに割ろうなんて話は見過ごすわけにはいかねーな」
「遊んでいる様でいて一応は巡検隠密のお役目を果たそうという事でしょうか。しかしあなたも各地を見て回っているなら、この徳川の世で地方の侍たちがどうなっているのかはご存知でしょう」
「難しいことは知らねーよ。平和ってやつも悪くねぇだろう。確かに戦いが無くなったら侍は商売あがったりだが、元は侍でも百姓になって楽しく暮らしているやつもごまんと見て来たぜ。それはそれでいいんじゃねーのか?」
「日々の暮らしはそれでいいかもしれない。しかし平和ボケして侍が皆腑抜けになってしまったら、大陸から兵が攻めてきた時にいかがいたしますか? 日の本自体が無くなってしまうかもしれないんですよ」
十三郎はしばし考え込む。
「……言いたいことは分からなくもね~な。ま、正義は一つじゃねぇ。侍なら侍らしく刀と刀で語り合おうじゃねーか」
「拙者の目的は血を流すことではない。できればあなたの事は斬りたくない」
「おーおー、俺も舐められたもんだな。最初っから勝負が決まっている様な口振りじゃねーか。その余裕、実に気に食わねーな。おめーとは今まで真剣に手合わせした事は無かったな。言っとくが俺はつえーぜ」
そう言って十三郎は懐から法具の入った箱を取り出して地面に置くと、若杉の方を向いて刀を抜いた。
「知ってしまったのなら立場上斬り合わぬわけにはいかないでしょうね」
若杉も同じく刀を抜いて構えた。




