第三十話 紅い目の一族
翌日は沖田は当然道場には現れなかった。顔はともかくあれだけ滅多打ちにされれば、当面はまともに動くこともできないだろう。しかし無傷の累は稽古の後斎藤に呼ばれて、道場ではなく座敷の方で向かい合って茶を啜っていた。昨日は不在だった斎藤だが新之助から事の顛末を聞いていたのだ。
「いや、てっきり婿入り候補かと思っておりましたが、滅多打ちにされたそうですな」
先に口を開いたのは斎藤だった。
「お恥ずかしい限りです。一昨日は見た目に呆けたというか、どうにも亡き父上に面目も立ちません」
「お父上の直光殿も不思議な技をお持ちでしたが、自分は一族としての血は薄いと申されておりました。累殿はその素養を色濃く受け継いだと、以前文には書かれておられましたな」
「私自身、この赤い目の力についてはよく分からないのです。斎藤殿は父から何かお聞きになってるんでしょうか? 緒方殿は何かご存知の様ですが何も教えてはくれませぬ」
「拙者も詳しくは聞いていないのですよ。ただ一族の伝承などは書にまとめられていて、相応の立場になった時には伝わるようになっているみたいなことは言っておりましたな」
「相応の立場とはどういった事でしょうね?」
「子をもつ……つまりは所帯を持つという事ではないのでしょうか? 私との修業時代に直光殿も分かっていないという事は、元服という事でも無さそうだ」
「しかしその書というのは、一体誰がどこに保管しているのでしょうか? もしかして同じ一族が他にもいるのでしょうか?」
「いや、私もそこまで詳しくは知らないのです。緒方殿は何かご存知かもしれませんが……」
「斎藤殿と父上はなぜ緒方殿を師事される事になったのでしょうか?」
「全くの偶然ですな。ん? 中沢殿はどなたかからの紹介では無かったかな? そのあたりも緒方殿であればご存知のはず。聞いてもお教えいただけないのなら、何かしらの事情があるのでしょう」
そこまで話して斎藤はまた一口茶を啜った。
「それで累殿は昨日から又、緒方殿の所に戻られたのだとか……」
「はい、色々と状況が変わりまして、佐吉殿の所に居候を続けると逆に彼に危険が及ぶとも限りません。昨日緒方殿に相談したところ、ならばうちにいた方がいいだろうとおしゃっていただきました。心苦しくはありますが、緒方殿であれば滅多な事で相手に後れを取ることもありますまい」
「まぁ隠居の振りを決め込んでますが、あの剣技を超えるものなどこの江戸にいるのかどうかも怪しいですからな。ああ、緒方殿も独身と言えば独身でしたな」
そう言って斎藤は高笑いをした。




