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第二十八話 ストーカー

 累は道場から少し外れた場所にある屋敷街を歩いていた。このあたりは武家屋敷ほどではないものの、そこそこ成功した町人が店舗などとは別の住居を設けている場所だ。綿二の話によれば、このところ沖田はこの辺りにある家に入りびたっているそうだ。綿二の書いてくれた地図を頼りにうろうろと歩き回る。すると後ろから老人に声をかけられた。


「お侍さんこの辺りじゃ見ない顔だね。何か探し物かね?」

「いや、この辺りにある家を探しているのだが……」

「?!、こりゃ驚いた。お侍さん女性なんですね。しかも偉い別嬪さんだ。どれどれその地図を見せてくだされ」

 別嬪という言葉に気をよくした累は『うむ、この老人は信用できそうだ』という事で、地図を老人に渡す。


「……ああ、そういう事かい。うーん行くのはやめておいた方がいいんじゃないのかね」

 地図を見た老人は少し困ったような顔をした。流石の累もそこは察する。

「多分貴殿がご想像されるような話ではないと思いますぞ。何、少し様子を伺うだけです」

「ならいいんですけどね。あのお侍さんがこのあたりに来るようになってから、何かと騒ぎばかり起こるんでね」

「その侍というのはその家に住んでおられるんでしょうか?」

「どうなんだろうね。この家はそれなりに大きな店の後家さんのものでね。店の方は若いもんに任せて、自分は遊び惚けている。いつのまにかそのお侍さんが居付いたって感じではないのかな……」


 老人の案内で目的の家に近づいたところで、門の前に女の姿を見て累は咄嗟に物陰に隠れた。

「またやってるな」

 そう言い残して老人はその場を立ち去った。門の前にいる女は扉をどんどんと叩いている。そうしてしばらくすると中から沖田が現れた。


「お雪ちゃんここに来ては駄目だと言ったろう?」

「だから私はお雪じゃなくて小夜です。幸四郎様が全然会いに来てくれないからです。先日もお約束したのにすっぽかされたでは無いですか」

 沖田は少し考えてからこう言った。

「……流石に自分が避けられているのは分かるよね。俺は一人の女性とは長く付き合える性分ではないんだよ。この風貌だろ? 寄ってくるより多くの女性に幸せを分け与えないといけない宿命なんだよ」

「私との事は遊びだったというのですか?」

「だから、俺と遊べて楽しかったでしょう? 町娘なら町娘らしくそれ相応の殿方とお付き合いしたほうがいいんじゃないかな?」

「私知ってるんですよ。この家は商家の未亡人のものでしょう? その人だって私と同じ町人じゃないですか?」

「あの人はね違うんだよ。私がいくら女遊びをしても嫉妬するなんて事もないし、おいしい食事を用意していつでも待っていてくれるんだ。小遣いもくれる。君とつきあって俺に何か得でもあるのかな?」


「このひとでなし!! 体を許す前は、散々調子いい事ばかり言っていて結局遊びたかっただけなのね!」

「男なんて大体そんなもんだろう? まぁでも中には誠実な野郎ってのもいるんだろうけどね。悪いことは言わないからそういう奴を探すんだ……」

 沖田が言い終わる前に、小夜はその横っ面を平手でぴしゃりとはたいた。そうして泣きながらその場を走り去っていった。すると屋敷の中から先ほど話に出ていた未亡人らしき女が出て来る。


「何だいまた女と揉め事かい? だから若い娘なんかやめときゃいいっていってるだろう?」

「何だい佳代さん珍しくやきもちを焼いてくれてるのかい? うなぎだって毎日食べてたら飽きるだろう? たまにはそばだって食いたくなる。今度また食べたい田舎風そばを見つけたところだ」

「全く罪な男だねぇ」

 そんな会話を交わした後にまだ日も暮れぬうちから、公道で二人は接吻を交わした。


 全てのやり取りを累は物陰で見聞きしていた。聞いていて体全体が熱くなっていくのを感じていた。しかし頭の中は不思議と冷静だった。


『くそ中のくそだな!!』

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