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第二十七話 協議

「一手交えれば十分です。神道流は元々が一撃必殺の剣です。初手を躱されたところであなたの実力は十分に理解できました。確かにあなた自身で守る資格がある様だ。しかしそれは相手が正攻法で来た場合だけでしょう。やはりここは私共にお任せいただけないだろうか?」

「私の方もあなたの実力は分かりました。しかしながら目的を教えて頂けぬことにはどうにも判断がつきません。そもそもあれは私のものというわけでもないですから……それと、この話は斎藤殿のおられるところではちょっと……」

 

 傍らで二人を見ていた斎藤は咳ばらいをする。

「事情はよく分かりませんが、どうも私はお邪魔なようですね……ほんのわずかですが、今日は良いものを見せて頂きました。沖田殿はまた今度拙者ともお手合わせ頂ければ幸いです。ではちょっと拙者は席を外すと致しましょう。あとは若いお二人で今後の話などを詰められるといい」

 そう言って斎藤は道場から出て行った。累には何となく彼が大きな勘違いをしているようにも見えたが、あながち間違いでもないかと考えを改めた。斎藤が出て行ったところで二人は会話を続ける。


「いくら中沢殿の腕が立つとは言っても、反魂の法を行う為の法具とやらを四六時中守り続けるというわけにもいかないでしょう」

「ですから佐吉殿も理由に納得できれば、すぐにでもお渡しするとおっしゃっています」

 それは嘘だった。佐吉は最初から法具にはなんの執着もない。これは累が隠密の手練れをおびき出す為にでっち上げている話だ。いや、佐吉も死人をむやみに蘇らせるのは良くないと言っていたので、あながち嘘とも言い切れないだろう。


「死者の魂をこの世に呼び出す技など、悪い連中の手にでも渡れば何をしでかすか分からない。そのような物騒なものは幕府の方で預かり置いた方が安心でありましょう」

「確かにそれはご無理ごもっともです」

 累はそう言いながらも頭の中では、先ほどの手合わせの事を振り返っていた。あれは果たして自分が負けたという事で、亡き父は納得してくれるのだろうか? なんとなくうやむやになってしまった様な気がする。このまま法具を渡してしまえば、隠密という位だからこの目の前の理想的な男はどこかに雲隠れしてしまうかもしれない。そうして昨晩渡二に言われたことも思い出していた。彼は法具はまだ渡さない方がいいとも言っていた。


「ところで先ほどの手合わせは、沖田殿の勝ちという事になるのでしょうか?」

「勝敗など些事ではないですか、どの道木刀でやり合ったぐらいでは本当の力は測れません。それとも私と真剣で勝負されることをお望みですか? いくら侍だとは言っても、私にはあなたのような美しい女性を理由もなく斬る事は出来ない」

 沖田のその発言には累はカチンときた。

「それだとまるで真剣勝負をすれば、確実に私が斬られてしまうみたいな言い方ですね」

 先ほどまで自分が負けた方がいいのではないかとさえ思っていた累だが、侍としての意気地がそれを良しとはしなかった。ただ確かに真剣で切り合えばどちらかが命を落とすことにはなるのだろう。それほどに実力が拮抗している事はもちろん累も理解はしていた。

 沖田は慌てて発言を訂正する。

「そういうつもりで申し上げたつもりはありません。私の方とてあなたに斬られてしまえば、もうあなたのような美しい女性を見る事も敵わなくなるのです。どちらが斬られてもいい事はないではないですか」

 うむ、確かにこの沖田という男は見どころがある様だ。しかしはっきりと勝負がつかなければ父上の遺言は果たせないだろうと、累は頭を抱えてしまった。

「しばらくの間考えさせてはくれないだろうか? 本来の法具の所有者である佐吉殿にも相談せねばならぬ」

「それはそうでしょう。それではまた明日にでも出直して参ります」

「お手数をおかけする」

「いいえ、あなたの様に美しい女性に又お会いできるのであれば私も幸せに存じます」

 そう言い残して沖田は道場から去って行った。玄関まで送り届けた後、累は道場の方に戻って着座した。


「で、綿二殿は先ほどから何をしているのだ。見張り役なのか?」

「あんな野郎がどうして女にもてるんですかねぇ。大体さっきのはなんだい? あんた実力の半分も出てなかったろう? あっしと手合わせした時とは偉い違いじゃないですかい」

「そうなのか? 自分では分からないものだな。まぁちょっと今日は調子が悪かったという部分はあるかもしれぬ」

「まぁそれはいいや。昨日からまた色々と調べたんですがね。やっぱり幕府の方じゃ正式に反魂の法なんてものの存在は知らない様なんでさ。俺達やさっきの沖田の上には若杉雨丸ってお侍さんがいるんですが、どうもその方が独断で動いているらしい。何か良からぬことを考えているんじゃないかって、逆に若杉の旦那にも探りが入ってるって噂だ」


「お主の諜報能力は凄まじいな」

「だからあっしはこっちが専門だって言ったでしょう。この体質のおかげで近づけばあんた以外には認識されないんだから、どこへ行ったって情報はとり放題でさ」

「とにかく法具は彼、彼らなのかもしれないが渡さない方がいいという事か?」

「しかしそうなると力ずくでもって話になるかもしれませんね。あんたはともかく、あの佐吉ってやつが心配になるな。あっしはあの男嫌いじゃないですよ。天ぷらもうまかったし」

「で、あれば法具は私が持ち歩いた方が良いのかもしれぬな。もし盗みが入ったとしても在処が分からぬ限りは、佐吉も殺められることはないだろう。あの沖田という男もそのたくらみには一枚かんでいるのか?」

「それは無さそうですぜ。そもそもあいつはそんな高尚な考えや信条があって動くような男でもない」

「やはり見どころのある男なのだな」


「どうしてそうなるかな?……あんまり人の生き方をとやかく言うつもりはないですが、あいつはあの剣の腕が無ければとっくに女に背中から刺されているんでしょうな」

「それはどういう意味だ?」

「気になるならご自分で見てみたらどうですかい? 婿さん候補になったんでしょう?」

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