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プロローグ
あの晩は満月だったからな。真夜中でも月明かりで何をしているのかは見えていたんだ。はっきりとしなかったのは、多分歳のせいで目が弱っているからだ。
昼間に葬式があって、埋めたばかりの棺桶に入った死体を何者かが掘り起こしていたのさ。
あれはこの世のものではないかもしれないね。この世のものなら、ご遺体を掘り返すなんて失礼なことをするわけがないからね。
きっと餓鬼か何かだろう。そいつら棺桶から死体を取り出すと、丁寧にまた蓋を戻して上から土を被せたんだ。
墓を掘って確かめてみたのかって?
仏様にそんな失礼なことできるわけ無いだろう? あたしゃこれでも人間のつもりだよ。まあ、もっとも片足は棺桶に突っ込んでいるけどね。ヒッヒッヒッ。
死んだあとに掘り起こされたら敵わないよ。私の棺桶の蓋はしっかりと釘を打って欲しいもんだね。