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第二話 二人の友達

僕たちが住むミラ街の中で最も城に近い場所にあるのがその馬小屋で、そのすぐ近くがドンファ村だ。

ドンファ村は大昔は少人数の民族が住んでいた地域で、強靭な肉体をもつ人が多く、ドンファ村の人々は城の警備や戦闘兵として鍛えられている。

他の町村に住んでいる人々は、大昔に他の大陸から移り住んできた人の子孫がほとんどであるため、ドンファ村の人々とは体格が大きく違う。

王の命令がすぐ行き届くように工夫や訓練がされており、民に恐れられ、王に信頼されているのが、ドンファ村の民なのだ。

みんながみんなドンファ村の民を嫌っているわけではないが、自分より強い人には少なからず恐怖感を覚えてしまうのが人間だと思う。

もちろん、僕にとっても昔から怖い存在の一つである。彼らのおかげで安全が保たれているというのは、とても感謝しているけど。

そんなことを考えながら、ミラ街の中心の真っ直ぐな大通りを進んでいると、向こうから歩いてくる見知った顔を見つけた。

どうやら僕より先に向こうが気づいてずっと手を振ってくれていたらしく、気づくのが遅れてしまったようだ。


「マシュー!よっ」


そういって僕に突撃してきたのはウィル、本名ウィリアムだ。

ウィルは運動神経が良く、身長も僕より高い。

そのため、僕は突然の衝撃で少しよろけてしまった。

そしてウィルの隣にいるのがエリィで、僕ら三人は生まれた日が近かったため昔から仲良くしている。

特にウィルとエリィは家も近いため、よく一緒にいる姿を見かける。


「今日もどこかに行くの?」


「今日は、国立の教会に荷物を届けて、掃除とかのお手伝いを。ほらこれ、乗車券を頂いたからそれで行くつもり。」


エリィは乗車券に書いてある文字を読んでいた。

エリィは字を読むのが得意で、図書館などで本をよく読んでいる。

僕はそこそこ読める方だが、ウィルは簡単なものしか読めない。

そのため、ウィルは僕の持つ箱の方に興味があるようだった。


「馬小屋まで遠いだろ?持ってやるよ。」


そういってウィルは箱を僕から取り上げた。

僕は取り返そうとしたが、ウィルは力があり、取り返すことは不可能だった。

少し背が高くて力があるからといってかっこつけて、少し憎い。


「二人が行くなら私も行きたいなぁ。」


「馬小屋までだと遠いだろ?それにエリィはこの後他の友達との約束があるし。その点、俺は暇だし丁度良かった。んじゃ、また後でな。」


そういってウィルはエリィに向かって手を振った。

エリィは少し不満げな顔をしていたが、笑顔でこっちに向かって手を振った。


「マシューもまた今度、遊ぼうね。」


僕がうん、と頷くと、エリィは馬小屋とは反対方向の方に歩いていった。

かわいらしいと評判のエリィは人気者で、彼女にはたくさんの友達がいる。

そのため、僕とは違い、よく色々な友達と遊んでいる。僕は友達といえるのは、この2人だけだ。


「俺らも行くか。」


こうやってウィルが僕を手伝ってくれるのは嬉しい。

しかしこれは、僕を手伝いたかったというよりは、エリィにいい所を見せたかったからだろう。


「エリィもいなくなったんだから、もう僕持つけど?」


「は?…あ、いや、別に、かっこつけたかったから持ったわけじゃないって!エリィがいなくたって俺は手伝ってたぜ?暇だし。」


「嘘つけ。ウィルはいっつもかっこつけたがるし、それはエリィがいるときだけでしょ。」


「はぁー?違いますー!そもそもかっこつけてんのはそっちだろ!エリィが好きなのはマシューなんだから。俺が手伝ってんのは、マシューが非力だからだよ!」


「エリィが好きなのはウィルだけどね。ウィルが好きなのもエリィ。」


「そんなわけないだろ馬鹿か?……とにかく、エリィが誰に恋してようと、俺はエリィの恋を応援してるから良いんだよ。ほら、早く行こうぜ!」


そういってウィルは荷物を担いで向こうまで走り始めた。

どうやらウィルは昔から、エリィはウィルではなく僕のことが好きなのだと勘違いしているらしいのだ。

しかし、僕から見れば、ウィルがエリィのことが好きなのはバレバレだし、エリィもたくさん友達がいるのにウィルとだけはよく一緒にいる。つまり、相思相愛だ。

ウィルのこの勘違いはいつになったら直せるのかと、僕もかなり悩んでいる。

僕にはそんなお互いに特別に思っているような人は居ないのが悪いのだろうか。ウィルとエリィはいいなと羨ましく思ってしまう。

このままずっと一人だったらどうしようか、と少し不安になる。


「将来、僕だけ一人……寂しすぎない?」


愚痴のように呟きながら、人混みに紛れてもう見えなくなり始めているウィルを追って走り、馬小屋へ向かった。

着いた頃には僕はもう息が切れていたのだが、ウィルはというと余裕そうだった。


「こんな短い距離で息を上げているようじゃ、まだまだだな。昔から勉強ばっかりしてたからだぞ。人間生きていくには体力も必要だぜ?」


そういってウィルは僕を小馬鹿にしてくる。いつものウィルで少し安心する。

僕に体力がないのは数年間家の外に出られなかったからだし、もう少し配慮があってもいいと思うのだが。

僕は馬小屋の外にある椅子に座った。どうやらここで待っていればいずれ馬車がやってくるらしい。


「ウィルはもうちょっと勉強した方がいいんじゃない?僕が教えてあげようか?」


「遠慮しておく!俺には必要ないものなんでね!……お?あれじゃないか?」


ウィルが見ている先には、こちらに向かってくる馬車がいた。

まだだいぶ遠くてよく見えないが、確かに庶民用のものだ。


「じゃ、俺も暇だし、なんか家の仕事の手伝いでもしてくるわ。」


ウィルの家は鍛冶屋で、ウィルは5人兄弟の末っ子だ。兄が三人と、姉が一人いる。

父親と兄三人が鍛冶屋で主に働いているらしく、ウィルはまだそんなに手伝っていないが、大人になるという事は家業を継ぎ始めるということだ。

先程も話題に出たが、そろそろ働き始めるらしく、最近は仕事を手伝っている時間も多くなってきている。


「頑張って。じゃ、また。」


手を振ると、ウィルはマシューもな!と言いながらまた走って去っていった。

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