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第一話 なんでも屋のお手伝い

「闇の魔女の生まれ変わりが………再び世界を終わらせようとしておる……視えた……白髪の少年……」


七年前のあの日、予言者のとある一言から、この国は変わり始めた。

怪しい占い師は言った。

世界を終わらせる者がこの国にいる、それはまだ子供だ、殺すなら今だ、と。

臆病な王は信じてしまった。

王が何よりも恐ろしく思っていたものは、死と魔法であった。

王は配下達に命令を出し、次々と子供を殺した。

殺された子供の特徴は、髪が白い少年であること。

ただそれだけだった。


元々高貴な存在だとされていた白髪を殺すことを批判する者は多かった。

しかし、白髪殺しは続いた。

兵士が街中を巡回することが、いつの間にか当たり前になっていった。

王への不信感や国内の不景気により、人々の顔はだんだんと暗くなっていった。

そして、当時小さな子供だった僕も、髪の色が白に近く、身を隠さなければいけなかった。

親が白髪ではなかったことため、兵士が来てもあまり疑われなかったことは不幸中の幸いだった。


そして、数年が経ち、国が貧乏になっていくのに対して、白髪殺しは少しずつなくなっていった。

そんなことは辞めようと、誰かが訴えたわけではない。

理由は単純で、殺す対象がいなくなったからだ。

白髪のほとんどが被害にあったが、僕は生きている。

身を隠したり、逃げたり、未だ生きている白髪は少なからずいる。


僕が生きているのは、ある人に命を救われたおかげであった。

あの日、僕はいつも通り家でひっそり身を隠していたが、兵士はいつもより強硬な手段に出た。

この家に白髪の少年がいる、ということがどこからかバレてしまったのだ。

その時家にいた母は武芸には長けていなかった。

兵士を止めることができるわけもなく、僕はただ僕を探す音に恐怖するしかなかった。

ただ、近所に住んでいた強かったお姉さんが、この騒ぎを聞きつけ、兵士が僕を見つける前に追い返してくれた。

ただ、その人は複数人の兵士を相手にしたことで深い傷を負い、それが原因で命を落としてしまった。

僕はこのことを忘れない。

その恩返し、そして罪の償いの気持ちと共に、僕はその人が行っていた仕事を継ぐことにした。

その人が兄と一緒にしていた仕事である、なんでも屋を手伝い始めてしばらく経った。

時が経つのは早く、来年には僕は十五となる。もう大人だ。

その人が人の代わりに命を落とせるほど優しくて強かったから、僕は今ここにいる。


朝はゆっくりなんてしていられない。

母が用意してくれている朝ごはんを急いで食べる。

一刻も早く仕事に向かいたいからだ。

鞄を持ち、なんでも屋の印であり命の恩人の形見を首にぶら下げた。

鞄には様々な事態に対応できるように色々なものを入れてあるので、そこそこの重さだ。

母にいってきますと告げ家を出る。

今日は天気も良い。仕事日和だ。

僕の家からなんでも屋までは五分もあれば着くことが出来る。

僕の父は城で働いているため、家族は普通の家に住んでいるのだが、少し歩くと大通りに出る。

大通りでは、食材を売っているお店だったりなど、たくさんお店が立ち並んでいる、

ここら辺はミラ街といい、王の住む城の隣の隣の街なので賑やかで豊かな方だ。

仕事場までの時間がもったいないような気がして走る。

特別速いわけではないが、走るのは好きだ。

なんでも屋に着き、僕は息を整えてから扉を開ける。


「兄さん、おはようございます。」


まず、店長に声をかけた。

店長は、僕の命の恩人の兄だ。

店長はデイビッドという名前で、店長と呼ばれるのが嫌だというので、僕は兄さんと呼ばせてもらっている。

兄さんも誰よりも優しく、とても良い人だ。

妹の命が奪われてしまったのは僕のせいでもあるのに、僕を責めたことはなかった。

昔から右足が弱いらしく、兄さんが店長としてお客さんに対応をし、僕や他の人がなんでも屋として働く役目をしている。

ただ最近は、他の人たちが次々と結婚や、やむを得ない引越しをしてしまったので、今は僕一人で仕事をしている。

兄さんはそんな僕が心配らしいが、僕ももうそろそろ大人だし、そこまで大変な仕事はないので、心配する必要はないと思う。


「よう、マシュー。今日も朝早くからご苦労さま。」


マシューというのは僕の名前だ。

兄さんはまだ朝食中だったようだ。

周りの散らかり具合と比べて比較的綺麗な机の上のコップには、少しだけ飲み物が残っていた。コーヒーかな。


「今日は国立教会の孤児院の清掃だが、それに加えて孤児院への差し入れを運んでほしいんだとよ。奥の部屋にそれが入った箱があるから、持ってきてくれ。」


僕は頷いて奥の部屋へ進む。

今から行くことになった教会の孤児院は国で一番広い。広いだけではなく、豪華で、キラキラとしている。最近のこの国の貧しさを感じさせないくらい、きらびやかで美しい。

その美しさは貴族たちの寄付金でできている。

この孤児院は貴族の息がかかっている子や、才能のある子が多くいるため、自分を優遇して貰えるようにと寄付をするのだ。つまり、迎え入れは富裕層専用の孤児院だ。

孤児の中でも身分差はあるのだと最近学んだ。

孤児院の清掃、もといお手伝いはよく行っているが、この孤児院は特に大変だ。綺麗にしなくてはいけないというのももちろんあるが、僕より身分が高い子がたくさんいることに気をつけなければいけないためだ。

小さな孤児院であれば、みんなと打ち解けたり仲良くなれるが、ここじゃそうもいかない。

今日孤児院へ持っていく箱には、今日の日付と、国のサイン、そして宛先が書いてある。

孤児院への贈り物は、中身はいつも本や服などだ。特にこの孤児院には、本を届けることが多い。

箱を手に取り、僕は兄さんの元に戻って確認をとった。


「これであってますか?」


「それだな。国立教会までは長いから、気をつけるんだぞ。」


ここ、ミラ街は城の西側だが、国立教会は城の東側にある。

歩くのかと思うと少し気が乗らないが、昔よりは体力もついてきたし、いけるだろう。

そう思って店を出ようとすると、ちょっと待てと兄さんが声をかけてきた。

振り向くと、兄さんは棚の中を見て何かを探していた。


「あった。ほら、乗車券。」


そういって兄さんが渡してきたのは、荷車の庶民用の乗車券だった。

貨物を運ぶ車の余ったスペースに乗る、庶民用のものの馬車とはいえ、これはあまり手に入らない。高いはずだ。


「こんな高価なもの、どこで?」


「貰った。」


兄さんはそう冷たく返してきたが、思いつく送り主は一人しかいない。


「恋人さんに貰ったんですか?だめじゃないですか、兄さんが使わないと。」


「…恋人じゃねぇって……しばらく国外に行ってるんだが、もったいないから期限が切れる前に使って欲しいんだとよ。っていっても自分はどこにも行かないんだから、マシューにあげるしかないんだよ。使ってやれ。」


兄さんから聞いた話なので詳しくは分からないが、兄さんの大切な人は遠くに住んでいる上に、世界を飛び回っている自由な人らしい。

そのためなのか、奥の部屋はその方から送られてきた個性的なお土産で溢れている。

よくわからない古い食器類、見たこともない楽器、大きな武器や、呪われそうな人形まで。

肝心なその方の顔だが、僕はここに通ってもう長いはずなのに一度も見たことがない。

もちろん兄さんに会いにたまにここへ来ているが、すぐ居なくなってしまうらしい。

だから、ずっとここにいる兄さんと違って、色々な場所に行ったりと活動的な僕は、兄さんの恋人さんに会えないのだ。

まあ、こんな個性的なお土産や乗車券をくれるあたり、お金に余裕があって、良い意味で変な人なのだろうと思っている。


「荷車にはミラ街の端の馬小屋から乗れるからな。そこまでくらいなら余裕で歩けるだろ。ほら、さっさと行ってこい。」


そういって兄さんは僕を追い出した。

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