第4話 手始めの学力テスト
秘密の花園こと、校舎の裏の庭園で周と別れた後。聖夜は自分のクラスの教室に戻った。
追加ルールが発表され、"全能大権"を獲得するための競争相手が増えたことにお通夜ムードだった柊クラスだったが、戻ってみると、そんな空気は消えており、和気あいあいとしている。
その理由は、歴然だ。
「はい、次の子〜!そこの…ええと?かきあげみたいな髪の子!どぞっ!」
刈り上げだな、と聖夜は訂正した。
しかし、間違いに気付いてすらないのか、黒髪のポニーテールの美少女は、にこにこと例の男子にどうぞのポーズをする。サイドの髪を刈り上げている男子は、彼女に促されるまま自分の名前と軽い挨拶をした。
「どんどん自己紹介してこっ!閉院までクラス替えないんだから、仲良くしないと損だぞーっ?」
コイツは人を惹きつけるのが昔から得意な奴だなと、聖夜は彼女の姿を羨ましく思った。ニコニコと愛想がよく、相手の懐に入るのが上手い。
ーーー柊美琴。聖夜の従姉妹である。
クラスメイトは、大半が柊の関係者だ。血縁者は美琴1人だったが、親が柊財閥の要職に就いているというクラスメイトが多い。
他のクラスもこの構図は同様である。
教室のドアに立ったままの聖夜に気付いたらしい美琴が長いポニーテールを揺らして、こちらを振り返った。
「あ、聖くん!遅いよ〜、どこ行ってたの?皆んな待ってたんだよー」
「ああ、悪い。ちょっとな」
「はいはい〜こっちこっち〜」
聖夜の背中をぐいっと押して、さっきまで自分が居た輪の中心に聖夜をよこす美琴。
「はい、こちら!我らがクラスのリーダー、柊聖夜くんです!顔がとても良いです!皆んな仲良くしてあげてねー?」
「顔がいいって……、もっと言うことはないのか?」
もっとパーソナルデータを入れて欲しかったものだ。
「実は、聖くんはとても寂しがり屋さんなの…お気に入りのくまちゃんがないと眠れないの…」
「おい捏造するな」
輪の中から、笑いが起こる。聖夜が柊の代表者だからか、まだ知り合って日が浅いからなのか、遠慮気味だったが。
「まあ、そういうわけでよろしく頼む。できれば温かい目で見守ってくれると助かるな」
パチパチパチパチと拍手がこだました。
「頑張りましょう、聖夜様!」
「目指せ、全能大権獲得!」
その目は温かい。
だから、とても胸が痛んだ。
聖夜の目的は全能大権の獲得だ。それは彼らの目標と一致している。
だが、聖夜がこれから学院で過ごす際の己の理想像は、間違いなく彼らの期待とかけ離れているだろう。
午前は開院の儀と、クラス内の顔合わせ。
午後からは、入学して初日だったが、なんと学力テストが行われた。
国英数の三教科。加えて、大日本帝高院の歴史についてのペーパーテスト。
後者はこの学院らしさのあるテストだった。
ちなみにこのテストの結果ももちろん、ポイントに換算されて"代表者序列"の順位に影響する。
解答始め、と監督者の合図があった。
全ての学院の生徒が懸命に筆を走らせたーーーーー。