第3話 財閥組と名家組
「聖夜君。教室に居ないと思ったら…こんなところにいらっしゃったんですね」
凛としていながら、聴く者に心地の良い声色。聖夜にも覚えのある声だ。
案の定、声のした方を振り向くと、皇クラスの代表者である、皇周が佇んでいた。
「お隣失礼しても?」
「ああ」
聖夜は芝生の地面をぽんぽん、と2回ほど叩き、その場所に周が「失礼します」と静かに収まった。女子にしては身長が高い周だが、こうして隣に座っていると彼女の体格が随分と華奢なことがわかる。
「この場所…"秘密の庭園"って呼ばれているらしいですね、知ってました?」
「そうなのか。いやはや、知らなかったな」
聖夜がこの場所を選んだことに、特に深い理由は無かった。自分のクラスの教室内の雰囲気があまりにも重いものだったので、避難してきただけであった。
「"秘密の庭園"…何故そう呼ばれているんだ?」
「そうですね…なんでもこの学院の生徒の殆どが、この場所に気が付かないままに卒業してしまうから…だと小耳に挟んだ覚えがありますが。本当のところはどうなんでしょう?」
「まあ、そのうちわかるかもな」
聖夜も周も別段この話題に興味を示すことはなく、そこで会話が途切れる。しかし決してそれは、対人関係でふとした瞬間発生するような気まずいものではなかった。
聖夜も周も、相手に話したい事項がある。だから、こうしてこの場に留まっている。
そして、2人はそれが共通事項であるのを確信し合っていた。
機を待って、聖夜の方からそれを提示した。
「皇クラスはどうだ?今年の追加ルールに対しての生徒達の反応は」
「一言でいうならば、最悪です。皆、財界の戦争に今更、名家が参入してきたことをかなり不安視していますよ」
「だろうな。うちのクラスは『競争相手が増える』という懸念を抱いていたもので、呑気なものだと思ったが……流石皇だな。よく先が視えている」
皇クラスは、ここ国立大日本帝高院に於ける過去9回の戦いで見事に4回の勝利を収めている。"全能大権"を巡る四大財閥の争い。その戦績は充分素晴らしい。
「柊の代表者にそう言って頂けるとは、光栄ですね」
周はほんのりと嬉しさを滲ませる微笑みを浮かべた。仮面か、本心か。とっさには判断しかねたが、恐らく後者だ。何とも可愛らしいことで。
「なあ、周」
「はい」
「お前自身はどう思った?初めて追加ルールを発表されたとき、何を感じた?」
今年で10回目となる国立大日本帝高院の「開院」。
10回という数字は、四大財閥のこれまでの世代交代の一致する。他の三家には少々ズレがあるが、少なくとも柊家の現当主ーーー聖夜の父だがーーーは、柊家の9代目当主にあたる。
もし、聖夜が継げば、10代目の柊家当主となる。
本来のルールでは、1学年につき最大4クラスだったのだ。
柊クラス、皇クラス、圍クラス、京クラス。
それが聖夜たちの父の世代までの常識だった。
それなのに、名家の参戦とは。
周は唇をきゅっと結んだ。
膝の上で組んだ両手を組み替える。
「確証がないことはあまり言いたくないのですけどーーー、財界はこれから激動の時代を迎えるでしょうね。何か極めて重大なことが起こるかもしれない…そんな気がします」
聖夜は周の意見にいたく同意して、頷く。
ああ、そんな気がする。