テーマ1「転生を司る女神にチート能力を貰って異世界へ転生する」
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俺の名前は「天星 翔」。
どこにでもいる普通のフリーターだ。
決まった職にもつけない、人生負け組の俺だったんだが、ある日突然歩道に乗り上げたトラックに轢かれて死んでしまった!
これで冴えない俺の人生も終わりか…そう思った矢先、実は運命の女神が俺を見放していないことに気づいた。
なんと俺は死んでいなかった!
いや、死んでいないかと言われれば、きっと厳密には違うんだが。
意識ははっきりしているし、体は五体満足で痛くもなんともない。
だけど周囲は俺がいた現代日本とは明らかに違う場所だった。
床も天井も、天地もわからないような場所にふわふわ浮いていたのだ。
視界は真っ白だけど、別にまぶしいってわけでもない。
ここはどこなんだ?
俺はただ一人残された白い世界で首を傾げる。
「転生者よ…」
突然、俺の耳の中に女の人の声が届く。
優しくて、聞いているだけで思わず安らぎを覚える声。
神々しさすら感じるこの声。
もしや、女神様の声なのだろうか。
「聞こえているのですね、転生者よ。」
俺の心を読んだのかのような言葉を発する女神ボイス(仮)。
死んだかと思ったら、生きていて、今いる場所は俺のいた世界ではない。
そして俺の耳に届く穏やかな女神様の声。
そして最後に女神様は俺のことを「転生者」と呼んだ。
これは、もしや。
もしやもしや、もしかして。
今話題にして噂の「異世界転生」シチュエーションなのではないか!?
人生詰んだ負け組フリーターの俺にも、一発逆転俺様チート無双モテモテハーレム展開が怒涛のように押し寄せる予感!
今まで生きてみるものだな!
トラックに轢かれたときはどうなるかと思ったが、災い転じて福となすってこういうことなんだろう!
「そうです、転生者よ、あなたは選ばれました…!」
優し気な女神様の声が耳の中ではなく、自分の背後で聞こえる。
俺は希望を持ってそのお姿を拝まんと、勢いよく振り返った!
そこにいたのは決して女神と呼んでよいものではなかった。
体長2mはあるだろう体躯。
ちょっと大げさすぎるのではないか、と思えるほどにモリモリの筋肉の壁。
身に着けたダメージジーンズがはちきれんばかりの太ももに、丸太のようなむき出しの腕。
体にはサスペンダーのようなガンベルトが張り巡らされ、その大きすぎる胸筋を強調している。
まるで地平線のような肩の上には棘のついた肩パッドが乗っている。
ボディビルダーの大会ならば間違いなくぶっちぎりの一位になるような我儘マッチョボディだろう。
顔は眉がなく、彫りの深いバタ臭い顔。
ご丁寧に顎までしっかり割れてやがる。
厳ついという言葉をそのまま形にしたらこんな造形になるだろうか。
彫りの深い顔のせいで、目元にはしっかりと影が落ちている。
頭髪はしっかりと刈り込まれて決まったピンクのモヒカン。
左側頭部にはハートを矢で打ち抜いたようなタトゥーまで付属。
こんなキャラクター、どこかの世紀末的な漫画の雑魚にいたなあ、と俺は思った。
そんなヒャッハーゴリラが目の前で、まるで獲物を見つけた肉食獣のような目を向けて笑っている。
俺はこれから取って食われるのだろうか。
もしかして、転生した先は世紀末だったのかもしれない。
「私は、女神『ダーメィ』。」
目の前のヒャッハーゴリラが口を開く。
間違いなくその声は先ほどまで俺の耳に届いていた優しくて神々しい女神様ボイスだった。
というか、なんだって?
今このヒャッハーゴリラ何て言いました?
え?何?女神?
「…私は、女神『ダーメィ』。」
いやいや、ダメ押しとばかりにもう一回名乗ってんじゃねえよヒャッハーゴリラ。
こちとら現在進行形で脳みそが眼前の情報を処理できないでエラー起こしてんだよ。
別に異世界系主人公とかハーレム主人公みてえな突発性難聴引き起こしてるわけじゃないんだからねっ!
「いやいや、おかしいだろ!」
ようやく絞り出した俺のツッコミがこれだ。
ついでに空中を切るツッコミチョップまで繰り出した。
型にハマりまくったお決まりのツッコミみたいな形になっている。
「もう、なんですか急に。
何がおかしいんですか?」
「いや、何がって!
普通にもう大前提からおかしいから!」
ヒャッハーゴリラはぷんすこ、と言いたげに頬を膨らませて、腰に手を当てている。
可愛くねえよ、ヒャッハーゴリラがやっても可愛くねえよそれ。
俺はその気持ちも全部乗せて眼前のヒャッハーゴリラをびしっと指さした。
自覚のない自称女神のヒャッハーゴリラに対して、現実を突きつけてやったつもりだ。
「前提…とは?」
えぇ~、突きつけられてな~い。
現実突きつけられてませんでしたぁ~。
ヒャッハーゴリラはきょとんとして自分を指さしているだけだ。
こうなれば全部教えてやんなきゃならないのか、面倒すぎるだろ!
「その見た目はなんだ!
女神にしちゃ世紀末に極振りされまくってるぞ!」
「え?この見た目ですか?」
指摘されて、ヒャッハーゴリラはまるでドレスを見せるお姫様のようにたおやかな仕草でくるりと回る。
うわぁ、この仕草ってかわいいレディがやるから萌え萌えできるのね。
そして、一回転して俺に向き直ったヒャッハーゴリラは、その厳つい顔に満面の笑みを浮かべた。
歯を見せて笑っても邪悪な笑顔にしかならないって凄すぎるだろ。
「何を言ってるんですか、この見た目はあなたが当てたんですよ?」
ヒャッハーゴリラは不可解な言葉を吐き出した。
俺が?当てた?どういうことだ?
理解できない俺に対して、ヒャッハーゴリラは畳みかけるように神々しい声で言葉を紡ぐ。
「あなたは『転生の女神見た目ガチャ』で、このSSRキャラ『ヒャッハーゴリラ』を引き当てたのです。」
やだ…なにそれ…聞いたことない…
俺は思わず口元をそっと両手で押さえる。
いや、本当に転生の女神見た目ガチャってなんだよ。
転生の女神の見た目を決めるガチャなんてあるのかい。
というか、それSSRなんだ。
「私たち転生を司る女神は、転生者が一番最初に引くチュートリアルガチャでその見た目を決定するのです。」
話を続けるな、また脳みそがエラー起こしてるわ。
というか、転生ってチュートリアルガチャあるの?
知らなかったんだけど。
「あなたたち転生者は転生先や転生後の姿、スキルに至るまでこれから引く『転生プレミアムガチャ』で決定されます。」
「て、転生ってそんな風に決められてたのかよ!!」
「はいそうです!
転生者というものはそうやって転生していくものなのです!」
淀みのない発言。
嘘じゃないようだ。
ヒャッハーゴリラ自身は女神様スマイルを浮かべてるつもりだろうが、俺の眼前にいる巨漢はこれから罪なき市民を虐殺しますとでも言いたげな顔だ。
それはともかく、転生のためにはどうやらその「転生プレミアムガチャ」というものを回さなければならないらしい。
フリーターだったころからアプリゲームに興じまくっていた俺にはお馴染みの響き。
こんな世界に来てまでガチャしなきゃならないってのも皮肉だな。
俺はそうして少しニヒルな笑みを口元に浮かべる。
「カッコつけてるとこ悪いんですけど、とりあえず一本引きません?」
言うな、俺もちょっと恥ずかしいんだよ。
ヒャッハーゴリラはそんな俺の気持ちを察しているのか察していないのか、どこからともなくガチャガチャの機械を取り出した。
見た目はよくあるカプセルフィギュアとかが入っているガチャガチャマシーンそのもの。
この機械が本当に転生の運命をガチャガチャで決めるんだということを強調する。
「わ、わかった、やってやるよ。」
「その意気です!
では、最初はスキルから行きましょうか?」
俺は意を決して、ヒャッハーゴリラが勧めるガチャのハンドルに手をかけた。
このガチャから出るスキルで、俺の異世界ライフの楽しさが決まると言っても過言ではないだろう。
ごくりと生唾を飲んで、俺はガチャのハンドルを右に回転させる。
ガラガラ、ガラガラと中身がかき回される独特の音がして、紫色のカプセルが吐き出される。
紫色のカプセルはそのまま誰が手を触れることなくパカンと二つに割れると、きらきらと紫の光をその隙間から放出する。
「こっ、これは…SRスキル『魅了』です!」
ヒャッハーゴリラがカプセルの中から光の塊を取り出した。
紫の粒子を零すそれを高々と掲げる姿は、善良な市民から形見のペンダントを奪う雑魚モヒカンのようでもある。
というか、魅了だって!?
魅了って、異世界転生系主人公とか、ハーレムもの主人公なら持ってて当然の、あのスキル!?
どんなに冴えないクソ性格の主人公だろうと、浮気酒池肉林が実行できちゃうあのスキルなのか!?
これがあれば俺の異世界勝ち組チートハーレムライフは約束されたようなもの、俺の運スゲー!!
「ふふふ…早速の強運、流石ですね…現実世界でクソみたいな生活を送っていたから、全ての幸運という幸運がここに集約されたのでしょうか。」
ぐふふと笑うヒャッハーゴリラ。
うるせー誰がクソみたいな生活だ。
しかし何とでも言え!
魅了のスキルさえあれば、どんな世界だろうと俺の異世界モテモテ勝ち組生活は約束されたも同然。
俺はヒャッハーゴリラの発言にほんの少しだけ傷つきながらも、フンと胸を張った。
「とりあえずは当たりなんだな、じゃあ次にガチャで決めるのは何の要素だ?」
「んもう、欲しがり屋さんですねぇ。
じゃあ次は転生後の姿にしましょう。」
なんかちょっとどころかかなり痛いキャラ付けになってる気がするヒャッハーゴリラを無視して、俺はまたガチャのハンドルを握った。
正直、確かにヒャッハーゴリラの言う通り、現実世界の俺は負け組確定のフリーター系非モテ野郎。
その俺が今まで使わなかった幸運がここに集約されているのだとしたら、次の転生後の姿も確実に俺にとって当たりになるはず!
俺のこの手が真っ赤に燃える!
運気を掴めと轟き叫ぶ!!
さあ出てこい大当たりのSSR外見!
俺の勝ち組ライフはどんな姿で送ることになるんだ!?
ポンと吐き出されたカプセルは、なんと金色。
これが普通のゲームのガチャなら、この色は間違いなく…
「おおお、なんということでしょう!
これは…これは…!SSRです!!」
ヒャッハーゴリラもその彫りの深い顔にくっついた深い影を落とす目元を見開いて見せる。
見開いてるかどうかなんて全然わかんないけど。
というか、今SSRって言ったのか?
SSRってもしかして最上級のレアなんじゃないか!?
流石は生きている間は幸運を使わなかった俺!
ここですべての運を放出していくのか!
「なんと…あなたの転生後の見た目は…SSR『ヒャッハーゴリラ』です!!」
「ヒャッハーゴリラかよおぉぉぉぉ!!!」
発表された内容に思わずどこかの漫画みたいなツッコミ方をしてしまう。
いや、これしか出ないだろツッコミ。
というかSSRヒャッハーゴリラって俺の方のガチャにも封入されてたのか!
女神の見た目ガチャにしか封入されていない限定キャラかと思ってたわ!!
「なんということでしょう…全ガチャ確率中1%しか当選しないSSRを引き当てた上に、その中でも数少ない男性キャラ『ヒャッハーゴリラ』を引き当てるとは…あなた、やはり只物ではないですね?」
「いらないいらない!
こんなところでそんな運いらないから!!」
俺は全力全開でその首を左右に振る。
首がもげてしまいそうなほどに振る。
というかそんなすごい確率で引き当てちゃったのか俺よ。
チュートリアルとそのあとのガチャでそれだけ確率低いのを二度当ててるんだから…実は凄いのか?
いやいや、絆されてはいけない。
外見ヒャッハーゴリラに魅了スキルで異世界ハーレム転生って、どんなニッチ向けなの?
…まあ、とりあえず俺の見た目はいいか。
大事なのは最後に来るだろう「転生する世界」だ!
転生先の世界はとにかく大事だ。
転生先の世界が俺にとって幸せでなければ、異世界転生してもハッピーライフは送れないだろう。
全てがこの右手と、俺の幸運にかけられた。
「さあ、最後のガチャタイムです転生者よ…!
あなたが転生する世界を決定するのです!」
「よし!SSRの世界よ来い!!」
俺は俗物的な気合の言葉を吐き出しつつ、そのガチャハンドルを思い切り右に回した。
独特の手ごたえが二度伝わって、ガチャガチャマシーンからカプセルが飛び出す。
飛び出したカプセルが勢い余って、真っ白な世界の床めがけて落ちていく。
そのカプセルの色は金色だった。
「やった!SSRだ!」
「あなたは本当に素晴らしい幸運の持ち主のようですね…!」
俺はガッツポーズを繰り出す。
ヒャッハーゴリラが慈愛に満ちた声で呟き、転がったカプセルから金色の光の塊を取り出した。
その光の塊をふわりと空中に浮かび上がらせると、先ほどまでに引いた光の塊も一緒に天へと昇っていく。
三つの光が輪を描いて、一つになり、輪の中へファンタジーな世界を作り出した。
「これであなたの転生準備が整いました…さあ、このゲートを通って、転生をするのです。」
ヒャッハーゴリラは本人なりに精いっぱいの慈愛に満ちた表情を浮かべて俺を促す。
何かを企んでいる雑魚悪役にしか見えないが、それはまあ、ともかくだ。
俺は宙に浮かんだ光の輪の先にある世界を見据える。
まるで古城のような施設に、装飾が多いローブを身に着けた人物たちがちらりと見える。
今はまだ男(やたらと線の細いイケメン)ばかりしか見えないが、きっと女の子も美人揃いなのだろう。
ここから始まる甘酸っぱい異世界チートハーレム生活を思うと、俺の胸はドキドキワクワク、股間はイライラしてきた。
俺はそんな期待に心を躍らせながら、輪をくぐらんとその足を踏み出した。
「そう…SSRの世界『異世界ファンタジー魔法学校BL』の世界に!」
ん?なんだって?
今なんて言いました?
俺は踏み入れようとした足を縫い付けて止めた。
あと一歩でとんでもない異世界に転生しようとしていた気がする。
「…どうしました、転生者よ、早く転生なさい。
『異世界ファンタジー魔法学校BL』の世界に。」
やっぱそうだよね!?
言ったよねコイツ!
異世界ファンタジー魔法学校BLの世界って言ったよね!!
「冗談じゃねえ!どこに転生させるつもりだこのヒャッハーゴリラ!」
「失礼ですね!
誰がヒャッハーゴリラですか!」
「まだお前しかいねえよ!?」
俺は今通ろうとした光の輪の前からバックステップで遠ざかる。
何かの拍子にうっかりこんな世界に落ちたら大変だ。
急いで後ずさりしてガチャガチャマシーンに捕まった。
「どこって、あなたがそうガチャで引いた通りの世界ですよ?
いやぁ、凄いですね、SRスキル持ちにSSRの見た目と世界…パーフェクトではないですか。」
「どこの世界に異世界転生してBLしようとする男を喜ぶ奴がいるんだよ!
馬鹿なの!?
死ぬの!?」
にやにやと笑っている(ように見える)ヒャッハーゴリラに対して、俺は必死に叫ぶ。
嫌だ、BLは嫌だ。
何が悲しくてヒャッハーゴリラの見た目でBLハーレムしなきゃならないんだ。
俺は再び首をちぎれんばかりに振って見せる。
「えぇ~?せっかく当たりスキルに大当たり世界で転生ハーレム無双ができるのに…」
「俺は女子とハーレムしたいの!」
「魅了スキルのおかげであなたを見た男はみんなその場で勃起天元突破で絶頂ヘヴンするのに?」
「もっと嫌だわ!!」
なんとしてもBL世界転生だけは阻止したい。
俺はテコでも動かんという意思でガチャガチャマシーンにしがみついていく。
まあ、あのヒャッハーゴリラの筋肉の鎧を駆使されたらどうなるかわからんが。
「本当に仕方ない人ですねえ…それならリセマラをするしかありませんね。」
「…リセマラ?」
困り果てたように腕を組むヒャッハーゴリラ。
ああ、筋肉のある人が腕を組むと、腕が届かないって本当なんだな(現実逃避)
そんなヒャッハーゴリラから、俺のよく知る言葉が飛び出した。
こんなところで聞くことになるとは思わない言葉だ。
「ええ、リセマラですよ。
あなたのようなアプリゲー中毒のフリーターオタクならよく知っている言葉ですよね?」
お前は俺の何を知っているんだヒャッハーゴリラ。
そんなことより、リセマラときた。
この「転生プレミアムガチャ」ってリセマラなんてできたのか!?
「もし今回引いた結果が気に入らなかった場合、今回の結果をなかったことにしてリセマラをすることができますよ。」
「本当か!?太っ腹じゃないか!」
「まあ、流石に無料ではリセマラをさせてあげることはできませんけど。」
「金取るのかよ!」
「もちろんですよ!
まずは無料でユーザーを獲得して、ずぶずぶにハマったところで課金をさせるって常套手段ですよ?」
ふう、と呆れたようなため息をつくヒャッハーゴリラ。
お前はキャラゲーアプリの運営かよ。
その態度はやっぱりむかつくが、リセマラができるならありがたいものだ。
だけど無料でリセマラができないって…まあ、仕方ないことだろうか。
「いくら?」
「1万円です。」
「中途半端にリアルで嫌な金額だな…」
俺はがしがしと頭を搔く。
1万円はアプリゲームで言えば結構な課金額。
萌え系アイドルゲームに重課金をしていた生前を考えれば結構日常的に出していた金額だが、俺の転生ともなると別。
だけど背に腹は代えられない。
この一万円を出さなければ俺の転生先はBL世界のままなのだから。
「まあ生前負け組フリーターだったあなたの出せる金額なんて…でしょうけど、一応聞きますよ、リセマラします?」
「このくらいは出してやるわ!
今後のための投資だ投資!」
「まいどありですぅ~」
鼻で笑ったヒャッハーゴリラに対して、俺はどこからか取り出した一万円札を突きつける。
ひらりと宙を舞った紙幣を受け取ると、ヒャッハーゴリラの顔は満面にゆがめられた。
やっぱりどうしてもこれから一般市民をしゃぶり尽くそうとする屑にしか見えないが。
「それにしても勿体ないですねえ、魅了持ちでハーレムとかって全キモオタの夢じゃなかったんですか?」
「うるせえなあ、普通は野郎じゃなくて女の子にモテたいの。
あとキモオタとか言うなこんちくしょう。」
ヒャッハーゴリラはぶつくさと言いながら宙に浮かんだ輪を虫でも払うかのようにかき消していく。
三つの光は飛び去って、BL世界へのゲートは閉ざされた。
「そういえば、リセマラ機能が異世界転生にあるみたいだけど、リセマラってどれだけかかるんだ?」
「そうですねえ、一回きりで終わる人もいれば、何十回とリセマラして、理想の転生をした人もいますよ。」
「へえ、そんな重課金者がいるのか…」
俺以外にも納得がいかずにリセマラをしていった人がいるらしい。
「例えば今までで一番すごい課金をした人は、本当なら知性がないはずのスライムなのに知性を持ったまま転生して、なんかチートなスキルガン積みで魔王として無双してますよ。」
「あの人重課金者だったのかよ!」
まさかあの異世界転生チート無双のスライムがガチャ重課金をした末に手に入れた生活だったなんて!
生半可なリセマラじゃあんな超快適勝ち組生活は手に入らないって覚悟した方がよさそうだな。
「その他にも自称ありふれたチート職業で世界最強になってハーレム浮気し放題の人とか、聖女として召喚されて回復魔法とポーションで成り上がって、偽聖女をザマァしようとした人とかも結構重課金者でしたねえ。」
「あの人たちもリセマラを…?」
「あと自分を虐げた人に復讐をしつつチートスキルを手に入れて、外道行為を繰り返しても誰にも咎められない回復術師とか、ポーション作るスキルをチートにしてポーション売りさばいてぼろ儲けした薬師とか、そのあたりも結構重課金でしたよ。」
「えぇ…」
「あと…」
「もういいもういい!
なんかもうヤダ!」
俺はまだまだ出てきそうな、有名転生者の話を途中で打ち切った。
あの成功者たちの功績を全部「課金でした☆彡」にしてほしくなかった。
なんか夢がないし。
とりあえずうまくいけばそこまで俺は成り上がってチーレム無双ウハウハになれるんだってことはわかった。
「それよりも、あなたはどんな世界に転生したいのです?
転生者よ。」
「そうだな…異世界ファンタジー世界に美少女で転生して、チート能力で百合百合エロハーレムしたいなって…」
「ブッフォwww」
「ブッフォ!?」
ヒャッハーゴリラに言われたままに、俺は自分の理想の異世界転生について述べる。
だが、その言葉はヒャッハーゴリラの奇妙な吹き出し笑いでかき消される。
草が生えているような馬鹿にした笑いをしたヒャッハーゴリラは、こちらを馬鹿にしたような笑いを隠さない。
なんか世紀末的漫画でもこんな感じに夢を語った善良な市民を笑うヒャッハーゴリラとかいた気がする。
「美少女www受肉www百合ハーレムwww理想低いんですねえwwwそんなコモンだらけの転生で満足するとかwwwありふれた職業よりもありふれてますけどwww」
「うっせーなあ!
いいだろコモンだろうとなんだろうと!
ハイハイじゃあそんなコモン転生で結構ですぅー!
ありふれた転生最高!!」
もうヤケだ。
いっそコモンだろうと何だろうと、理想通りの世界に転生できればいい。
俺は子供みたいな言い方で開き直って見せた。
「ちなみに今一番レアリティの低い転生は『悪役令嬢転生』ですよ。
増えすぎてちょっと減らせって言われるくらいですね。」
「どうりで悪役令嬢たちがバトルロイヤルし始めたと思ったらそういうことか…」
増えすぎると淘汰されるという余分な知識を得る俺。
あんまり聞きたくなかった事実だが、まあ悪役令嬢にならなければ問題ない。
俺は意を決して次の世界を決めるためのガチャに手を伸ばす。
ハンドルを回せばなじみのある手ごたえが返ってくる。
頼む、俺の理想の世界にたどり着いてくれ。
そう願わずにいられない。
ガチャガチャが吐き出したのは白いカプセル。
開いた時の光もぜんぜんしょぼいものだった。
「これは『タイムリープ系純愛ストーリー』…あらら、コモンですねえ…」
「ええい、ハーレムじゃないけど許容範囲だ!
次行くぞ次!」
落胆するヒャッハーゴリラ。
俺の理想よりもハーレム的な要素は少ないが、まあBLよりはずっといい。
俺はそのまま新たにガチャ回して、自分の見た目を決定する。
ガチャから飛び出したのはまたしても白いカプセル。
つまりコモンのレアリティだ。
「なんてことでしょう…転生後の見た目は『転生前のまま』…ハズレもハズレ、大ハズレですね。」
「うっせーわバーカ!
バーーーーカ!!
いいよそのままでもう!
次行くぞ次だ!」
最後に決めるのは自分のスキル。
ガチャガチャから出たのは白いカプセルだった。
カプセルの中身は「高速レベルアップ」。
通常よりも早くレベルアップするだけと説明されたが、これは転生としては大当たりではないだろうか。
全部コモンだがやっぱり最初よりもずっとマシ。
むしろ変なものが出なかった分大当たりだって言い張れる。
俺はこのままの転生を決めたかった。
「そういえば、タイムリープ系純愛ストーリーは特定の相手が決まっているので、もう一つガチャを引く必要があるんです。」
「そんな要素があるのか?」
「ええ、では最後に『運命の人の外見』を決めるガチャを引いてください…」
ヒャッハーゴリラがガチャガチャマシーンを示して、俺にもう一度ガチャを引くことを要請する。
決めるのは、俺が救うべき運命の人の外見。
俺と愛を育む、いわゆるヒロインだ。
ハーレムではないが、ただ一人愛すべき相手。
俺はまだ見ぬ彼女を想像しつつ、ゆっくりとハンドルをひねった。
カプセルがガチャガチャマシーンから飛び出す。
そのカプセルは、なんと金色に輝く…
「最後の最後でSSRを当てましたね…!」
「SSR…だと…!?」
「そう、SSRヒロイン…『ヒャッハーゴリラ』です!!」
「ヒャッハーゴリラかよおぉぉぉぉ!!!」
最後の最後で襲来した刺客に、俺は思わず絶叫してその場に膝をつく。
まるで「or2」のようなポーズをとる俺の傍らに、今ここにいるヒャッハーゴリラがしゃがみこんだ。
人生の負け組と、その負け組を痛めつける悪役のような構図だ。
「…で、どうします?」
「リセマラで。」
俺はなけなしの一万円札をもう一度取り出した。
<おまけ>
「そういえば、転生するときに持ち物を決めることができますよ。」
唐突にヒャッハーゴリラがそう新たな事実を明かした。
「持ち物?」
「そうです、ボールペンとかライターとか、スマホとか女神とか。」
「そうか、そういうのを持ち込んで無双ってのもありか…」
俺はふむと首をひねった。
なんだかヒャッハーゴリラがアピールしているような気がするが無視することにする。
「私のおすすめは女神ですねえ、やっぱり神ですので。」
「そうだな、やっぱりスマホかな。
検索とかできるし、便利だし。」
俺はいつの間にか手元にあった愛用のスマホを取り出した。
トラックで轢かれたはずだが、傷一つない。
これも転生の力なのだろうか。
「女神を持って行った人もいるようですよ。」
「スマホ持って行って検索からのチーレム。
よし、決まりだな。」
俺は愛用のスマホと顔を合わせて頷く。
隣にいるヒャッハーゴリラはがたがたうるさい気がする。
「女神を持っていきなさい。」
「ダ女神どころかヒャッハーゴリラはいりません。」
おわり