闇の秘密組織
「おっ」
携帯電話の画面を三度に渡り確認した俺は家を飛び出した。組織からの指令だ。そう、俺が属する闇の秘密組織からのな……。
組織はその全貌が見えぬほど強大であり、世界中に同志がいて各方面に多大な影響力を持っているのだ。
俺のコードネームは【ブラッディメアリー】少々、女っぽいが【ブラッディ】の部分が気に入っている。
俺が組織に所属するきっかけとなったのはある日、携帯電話に届いた一通のメールだ。
【漆黒の闇に生きる孤高な獣たちよ。集え、我らのもとに。
黙示録は捨てよ。終末時計は意味をなさない。
求める先は、魔法なき時計。
昼間に数える羊は眠りではなく死を誘う。
三つ目の羊が目の前を歩くとき、この矢を返せ】
暗号だ。知能が高く、限られた者しか読み解けないものだろう。
俺は文章から推理し、指示通りの時刻に返信した。そして、見事認められ、闇の組織の一員になったわけだ。
だが、当然と言えばそうかもしれないが下っ端からのスタート。任務は退屈なものばかりだった。
とは言え、指令通りこの社会に潜伏しつつ任務をこなすのは悪い気がしない。一歩ずつ世界を侵していく感覚。ふふふっ、ゾクゾクする。手応えはある。いずれは幹部に。そしてこの世界を陰からコントロールするのだ……。
「あら、偉いわねー!」
今日の任務は駅前のゴミ拾い。侮ることなかれ。バタフライエフェクトと言うものだ。ここで俺がゴミ拾いをすることにより、何か重大な事へと繋がるのだ。今すぐとは限らなくても必ずな。
そう上司の【ジョニーウォーカー】が前に説明してくれた。彼は何と市議会議員だ。つまり闇の組織が政治にまで根を張っているという事。いつか認められ、お互いのコードネームの酒を飲み交わすことが俺の夢だ。
と、ん? 誰だ肩を、あ……。
「よう」
「お、おう……」
「ゴミ拾い?」
「ああ……そっちも?」
「……自傷したユニコーンの角」
「……孵化した雛が啜る聖女の血」
「おお、やっぱりお前もか!」
「あ、ああ、うん」
「いやあ、こんな身近に同志がいたなんてな!」
「しっ! やめとけって。や、やみ、組織に……消されるぞ」
「ああ、そうだったな悪い悪い。どうする? 一緒にやるか?」
「い、いや、分担した方がいいだろう。ほら、目立つと不味いしな」
「ん? ああ、確かにそうだな。
もし、どちらかが闇の組織の一員だとバレたらもう一方も疑われるしな。
学校でもなるべく接触しないほうがいいか……」
「そ、そう! そうだよ!」
「何で嬉しそうなんだ? まあいいや。俺は向こうに行くよ。
でもそうだな、図書室で会おう。合言葉は何がいいかな。
簡単には解らないようなやつがいいなぁ。あのメールのやつみたいなのじゃなく」
「え? 簡単?」
「ん? お前、まさか苦戦したの?」
「い、いやぁ、べつに……そ、それよりも早く行った方がいい。
誰が見ているかわからないぞ」
「ああ、そうだな、じゃあまた! いやー、人の魂を吸い上げる悪魔のスパイスの残り香が多くて困っちゃうなぁ」
「あ、うん……えと、タバコの吸い殻? はぁ……」
同じ中学のアイツも闇の組織の一員だったとは。しかしアイツは……周りからイタイ奴と思われ、つまはじきされている言わば中二病だ。最近は少しまともになったと風の噂で聞いたが、まさか闇の組織があんな奴を採用するなんて……。
待てよ……思えば指令は地元でのことばかり。主にボランティア活動で他も【穢れを知らない聖女の如く、三たび、人に祝福を与えし】と言った指令のように、人に三回優しくするとか日々どうのこうの思いやりがだの、そんなことばかり。俺がまだ中学生で下っ端だから仕方ないと思っていたが……。
いや、まさかこれ、言わば矯正。中二病だけを集めて、地域の奉仕活動をさせているだけなんじゃ……。