引きこもり
学校の帰り道。京太は高田と共に学生寮に向かっていた。
「塚口。知っているか?溝口の奴コネ入学らしいぞ」
「そうなの?」
「教頭の息子らしい。中学校はずっと不登校だったらしいが、教頭は最低でも高校は卒業させたいらしいから入学させたという噂がある」
「そうか」
「停学処分は今日までだけど明日学校に来るのかはわからないな」
「僕は来てほしいけど・・・」
「入学式当日に担任にいたずらする奴だぞ。来たらまた大変なことをやるんじゃないか?」
「そうかな?」
「そうだよきっと。それより明日提出のプリントを終わらせないとな」
「ねぇ。溝口君に会いに行かない?」
「なんでだ?」
「僕ちょっと溝口君のことを知りたくなっちゃって。いたずらしたのも何か理由があるんじゃないかって」
「学校を休みたいだけだろ」
「そんな感じじゃないと思うけど・・・」
「まぁ会いに行くなら行けばいいんじゃないか?」
「うん。でも住所知らないんだよね。学校に戻って先生に聞こうかな?」
「それに関しては大丈夫だ。僕の頭に残っている」
「えっ?なんで知ってるの?」
「新聞部から聞いた。知り合いの先輩がいたからね。僕が案内するよ」
辿り着いたのは一軒家だった。京太はインターホンを押した。
「は~い!」
出てきたのは女性だった。恐らく母親だろう。
「すみません。同じクラスメイトの塚口京太と言います。溝口君に会いに来たのですが・・・」
「あぁお友達ね。上がって」
京太たちを招くと母親は部屋のドアをノックした。
「裕也!お友達が来たわよ!」
「開けて」
母親がドアを開けると寝転がってゲームをしている溝口の姿があった。
「裕也!いい加減ゲームやめなさい!」
「うるさいな。母さんはどっか行って!」
「わかったわよ。じゃあゆっくりしていってね。後でお茶持ってくるから」
「ありがとうございます」
母親がドアを閉めると溝口はゲームしながら尋ねた。
「何しに来たの?」
「明日学校に来るのかなって・・・」
「明日?行かないよ」
「どうして?」
「僕は学校が嫌いなんだ。この前だって父さんに無理やり行かされただけだし。それに僕はコネで入学してるし中学校も行ってないから勉強についていけないよ」
「なんで学校が嫌いなの?」
「・・・言わない」
「行かない理由があるなら言うべきなんじゃないか?納得しないだろ」
「お前たちに言わないって言ってるだろ!」
「じゃあ誰になら言うんだ?」
「それは・・・」
溝口は黙ってしまった。動揺したのかゲームで負けてしまった。
「あぁもう!出ていけ!お前たちが余計なことを言うから負けたじゃないか!」
「そんな・・・」
「早く出ていけ!」
突然ドアが開く。
「裕也!お友達に向かって失礼でしょ!謝りなさい!」
「うるさい!いいから全員出て行ってくれ!」
裕也の大声でシーンと静まった。すると高田がボソッと呟いた。
「いじめ・・・」
「!?」
溝口の動きが固まった。
「その反応を見る限り君はいじめられたから学校に行かないんじゃないか?」
「そうなの?裕也」
「ち、ちが・・・」
「溝口君」
京太が溝口に歩み寄る。
「話してくれる?話さなかったら溝口君がずっと苦しむだけだよ」
「・・・」
「溝口君のお母さんも心配してる。僕も高田君も溝口君が心配なんだ」
「なんで入学式でしか会っていないのに心配するんだよ?」
「僕のクラスメイトだからだよ」
「・・・」
溝口君はしばらく黙っていたがやがて口を開いた。
「中学の時、僕は先輩たちにいじめられていたんだ。父さんと母さんに余計な心配をさせたくなかったからずっと黙っていたんだ。でも学校に行くのがしんどくなって行きたくなくなった。先輩たちが卒業してもいじめられたくなくて行かなかった。父さんが高校に入学させるといった時は知らない人ばかりだから行けると思ったんだ。だけど先輩たちがこの学園にいることを知ってわざと問題を起こしたんだ」
「そうだったんだ・・・」
「引きこもりになった時もスマホに先輩から学校来いよとか来たから怖くて・・・」
母親は泣きながら溝口に抱き着いた。
「気づいてあげられなくてごめんね」
「母さんのせいじゃないよ」
「溝口。その先輩たちの名前分かるか?」
「分かるけど・・・それがどうしたの?」
「そいつには溝口がどれだけ辛かったか思い知らせる必要がある」
そう言って見せたのは生徒会長雨宮の連絡先だった。
「なんで連絡先知ってるの?」
「今度違う勝負を申し込もうと思って交換しておいた」
「そうなんだ」
「溝口。お前が持っているいじめの証拠を全部出せ」
「わ、わかった!」
翌日。溝口をいじめていた生徒は生徒会室に呼び出されていた。
「まさか校内に後輩をいじめる生徒がいたとは・・・がっかりだよ」
「も、申し訳ございません!」
「もう二度としません!」
「謝るのは俺じゃないだろ。こんなに証拠が揃って3年間もいじめていたとは・・・お前らは王都彗星学園の恥だ。明後日までに荷物をまとめて実家に帰れ」
「そんな!どうかお許しを!」
「反省したか?」
「はい!」
「そうか。なら退学はなしにしてやる」
ホッと安心した。が、安心したのはその一瞬だけだった。
「だがお前たちは暴力も振るったらしいな。なら同じ思いを経験しないとな」
「えっ?」
放課後。京太と高田が溝口の家を訪れていた。
「お前をいじめていた先輩はボクシング部のサンドバッグになっているらしい。耐えきれなかったら自主退学するだろうな」
「そうなんだ。謝罪に来てくれたけどやっぱり許すことはできなかったよ」
「あんなに追い詰めたんだ。許さなくて当然」
「それで溝口君はこれからどうするの?」
「今日伊勢原先生から連絡きて話し合ったけど中学内容を勉強してから学校に行くことになったんだ」
「そうなんだ」
「うん。絶対早く履修して学校に行くから」
「待ってるよ」
「あのさ。塚口君に聞きたいんだけど僕と塚口って友達かな?」
「友達だよ」
「そっか」
「じゃあそろそろ帰ろうか」
「お邪魔しました」
「またいつでも遊びに来てよ」
「うん!」
家を出ると高田は京太に聞いた。
「溝口が学校に来る日はそう遠くないはずだ」
「うん。僕は溝口君が来る日を待つ。ただそれだけだから」
夕焼けが2人を明るく照らしていた。