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**ダニエル


「あれ?こんな城、さっきあったっけな?」


生い茂る木々に隠されるようにして、その城はあった。だがここは、ついさっき通ったばかりな気がする。


「いや、間違いなく通った筈だよな・・・?」


木の幹には、確かに、つけたばかりの印があった。さっきは何もなかったのに、不可思議だ。

その時、城の門から、飛び降りたものがあった。


なんだあれは?子供か?

目を凝らすと、緩やかにカールした艶やかな髪を下の方で緩く束ねた、透き通るような肌の少女が、ちょうど綺麗に着地し、スタスタと歩いて行った。


・・・可愛いな。と、ぼんやり眺めてハッとした。もしや拐われて来たのでは・・・。噂に聞いていた内容はやはり本当だったか。ゴクリと唾を飲み込んだ。だが、もう他に手はない。その為にはるばるやって来たのだ。


あの子は無事に逃げられるといいのだが。そんな事を思いながら門を登った。あの少女が出来たのなら、特に警戒は要らなそうだ。



**エルシー


「ん?寒いわね。」


門の上に立つと、風がひゅっ、と吹き、髪を揺らした。少し遅かったか。結界が、失くなっている。ぴょん、と飛び降りてその場所に向かう。


「あ~あ、でもまぁ、つい先日に客が来たばかりだし、問題はないわね。」


様々な噂が広まっているから、訪ねてくる者は滅多にいない。年に1度か2度、多くても3度で、先日の客が3人目だったから今年はもう何も起こらない予定だ。


門から北に向かって18歩。その場所には地面から突き出た棒があった。そこにくくりつけている枝の葉は、やはり全て落ちている。干からびた枝を外して、新しい枝をつけた。一番上の大きな葉を一枚だけをちぎって半分に折り、上空に投げた。風に乗せて南側まで飛ばせば完了だ。


「あ、急がなきゃだった。」


弱火にしてきてはいるけど、底が焦げたら困る。来た時と同様に門を登り、ふと違和感を感じた。こんなに土が、付いていたかしら・・・?


首を傾げつつ城の中に戻ると、やっぱり何だか違和感がある。


いたずらな子供でも迷い込んだかしら?稀に、ごく稀にそういうこともあった。結界はまぁ、目眩ましなので、度胸試しかなにかの子供が、執念深く門を探し当て、侵入してくるのだ。


「そうだ、ちょうどいいかも。」


生首ケーキ。試作の段階で役に立つとは。

ふんふ~ん、と鼻歌混じりに厨房へ向かった。近くにいるなら気付いて付いて来る筈だ。厨房に入ると、中ははむせ返るほどの甘い臭いが充満していた。これもまた、ちょうどよく自然だわ。わざと小窓を開けて逃げ道を作ってやった。

さ、見てるかしら?

大きな身振りで、冷蔵庫から生首ケーキの本体を取り出した。目の部分はいかにも抉られた風に、大きく窪ませてある。テーブルのお皿の中心にことり、と置いて、鍋の中で煮詰まった液体をどろりと注いだ。完璧だわ。ついでに定番の目玉ゼリーも飾ろうかしら。そして、不気味な声で笑っちゃったりとかね。


「フハハハハハ、ホホホホホホ、オーッホッホー」


で、一旦部屋から出る。と。

子供は取っ捕まえて摘まみ出すよりも、自ら逃げさせた方が断然早い。




**ダニエル


とにかく魔女を探そう、そして何がなんでも頼み込むのだ。意気込んで入口の扉を押してみると、思わず拍子抜けする程、容易に開いた。特に仕掛けは無いようだ。こんなにあっさりでいいのか?警戒しながら足を踏み入れた。いやいや、警戒もなにも、見付けられた方が好都合なのだから、堂々と行こう。城中のドアというドアを1つずつ開けて確かめていった。


ここにもいないな。ここには?3番目に入った部屋は物置のような部屋で、いくつも棚が並び、そのそれぞれに薬草や道具が置かれていた。興味本位に見回ってみると、色とりどりの粉が入ったガラスの瓶を見付けた。虹を思わせるような色の順に並べており、恐ろしいと噂される魔女には似合わないなと思った。温和な人物だといいのだが・・。その時突然、陽気な鼻歌が聞こえてきた。魔女か?魔女なのか?


ドアの隙間から、そっと廊下を覗いてみた。


あれは・・・さっきの!?

門で見た可愛い少女だ。魔女だとか魔女じゃないとか、そういうことをすっかり忘れ、吸い寄せられるように少女の後を付いて行った。なんてことだ。声も可愛いじゃないか。


少女が入って行った部屋は、甘い匂いで立ち込めていた。鍋が火にかけられていて、厨房なのだと分かる。そういえば昼時か。じっと見守っていると、大きな冷蔵庫からおもむろに何かを取り出し・・・・っ!?

全身が凍りつく。何だ、あれは・・あれは・・・。少女は尚も鼻歌を歌い、今度は鍋にスプーンを突っ込んだ。中から、どろりとした赤い液体が掬われて・・


なんて事だ。でも間違いない。彼女は本物の魔女なのだ。ドクドクと心臓が鳴った。早く出て行って頼まなければ。その時、


「フハハハハハ、ホホホホホホ、オーッホッホー」


・・・。魔女が、笑った。



ありがとうございます。

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