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第6話 2020年5月8日

 いつものように、気が付くとなんとなく目が覚めていた。

 時計を見ると、もう10時。

 昨日は、遅くまでツイッターを見ていたのだった。

 あんまり意味がないことはわかっていても、新型コロナウイルスの情報が気になって、つい見てしまう。

 スマホを手に取ってみると、ラインの通知が来ていた。


【ゆうちゃん、ちょっと話さない?】


 さらにその後、


【まだ寝てるの?】


 と来ていた。今度は僕が寝坊してしまった。慌てて、


【今行くよ】


 と返信して、ベランダに飛び出る。


「ゆうちゃん、遅いよー」


 ヒナは怒ったふりをしているけど、本気で怒っていないのが丸わかりで、少し微笑ましくなってしまう。


「ごめん、ごめん。で、なんだって?」

「あつ森やってたんだけどね。なんと……」

「また、大損したの?」

「違うってば。損した分を取り返したの」


 返ってきたのは、少し意外な言葉だった。


「へえ。それで、儲かったの?」

「うん。なんと、10000ベル!」


 損した分の差額を考えても、5000ベルを儲けたことになる。


「その辺でやめといた方がいいよ。勝ってる内にさ」

「せめて、100000ベル稼ぐまではやりたいな」

「何かあるの?」

「液晶テレビが100000ベルするの」


 あつ森では、家の中に色々な家具を置くことができるのだけど、どうも液晶テレビはかなり高いらしい。僕は、のんびり生活するだけなので、あんまり家具とかは欲しくないのだけど、ヒナはそうじゃないらしい。


「でも、続けたら損すると思うよ」


 カブ値は、実は攻略サイトをみると一定のパターンがあるらしく、それを見ればある程度変動はわかるようなのだけど、1週間経つと腐ってしまうので、売り時が難しい。

 

「そんなこと無いってば」

「まあいいけどね」


 こういうのも含めて、ゲームの楽しみだと僕は思う。


「そういえば、今日の勉強会、何やる?」


 昨日は、二人で一緒に古文の勉強をしたのだった。古文は僕もヒナも苦手で、なかなか難儀した。


「じゃあ、英語でもやらない?」

「わかった。じゃあ、お昼ご飯の後で」


 というわけで、部屋に戻る。朝は時間があれば母さんが用意してくれるけど、お昼はそんな時間もないので、適当にスーパーでお惣菜を買って、ご飯とパンを組み合わせるか、カップラーメンでも食べることが多い。今日は買い置きのカップラーメンにする。

 僕はまともに自炊もできないので、お昼はだいたいこうなるのだけど、さすがにこうも続くと飽きてくる。身体に悪いから、カップラーメンは週に1度までと言われているけど。

 学食でも母さんのお弁当でも、きちんと毎日違うものが出てくるのがこれほどまでにありがたいものだったとは知らなかった。

 味気ない食事を済ませた後は、ヒナにお昼が終わったか確認して、彼女の家へ。


「はいはい。上がって、上がって」

「お邪魔しまーす」


 初日はあったツッコミはもうなくなったようだ。少し、寂しい。


 というわけで、ちゃぶ台を囲んで勉強会を開始。教科書も持って来ているのだけど、僕はちょっと思いついたことがあったのだった。


「ねえ、あつ森の英語読んでみない?」

「どういうこと?」

「Switchの言語設定を切り替えると、英語で読めるんだよ」


 Switchには、言語設定があって、それを英語に切り替えると、英語対応のソフトは英語になるのだ。


「そんなのあったんだ。ゆうちゃん、よく知ってるね」

「ちょっと、好きなRPGのコマンドとか魔法を英語で読んでみたかったんだ」


 意外なものもあれば、納得というものもあって、なかなか面白かったのを覚えている。


「うーん。言語設定って、どれ?」


 Switchを操作しているけど、言語設定の項目が分からないようで聞いてくる。


「ちょっと、貸して」


 本体→言語→English


 と切り替える。Switchが再起動すると、英語への切り替えは完了だ。


 開始画面が、「A Start」になっている。


「Press the same button 3 times……」


 ヒナが書かれていることを復唱する。


「同じボタンを3回押して、ってこう書くんだね」

「そのまんまだと思うけど」

「そのまま出て来たら、timesが分からないよ」

「time=時間って覚えてたら間違いそうだね」


 そんな会話を交わす。ソフト一覧には、


"Creature Crossing: New Horizons"


 と表示されている。


「Creature=生物、はわかるけど……Crossing?」


 あつ森(集まれナマモノの森)の英語タイトルを見て、首を傾げる僕たち。ちょっと辞書を引いてみると、


「交差する、横断歩道……わからないな。まあいいか」


 集まる=交差する、と解釈しても、森はどこに行ったのだろうと思う。"New Horizons"に何か意味があるのかな?


 新しいユーザを追加して始めたので、おなじみの画面とともに、"Fox Inc."と出てくる。


「あ、これは、きつね開発ってことだね!」

「会社の名前で、Inc.って出てくるよね」


 って、あれ?


「きつね商店の人の名前、"Timmy"になってるよ」

「ほんとだ。"timmy"で調べても、特に出てこないや」


 また、頭をひねる僕たち。考えても仕方がないので、先に進もう。最初の台詞は、


"Good afternoon! We're so excited to have you here! ...have you here!"


 だった。


「最初は「こんにちは」。「あなたを持てて興奮しています?」……は違うよね」

「日本語だと、「ようこそ起こしくださいましたー!ましたー!」だったかな」

「ゆうちゃん、よく覚えてるね」

「ましたー!を繰り返してたから、印象に残ってたんだよね」


 だとすると、


「「We're so excited to have you here = ようこそお越しくださいました」てことになるのかな」

「んー。どこにもつながらないね」

「挨拶だから、単語単位で訳しても意味がないと思う」

「そっか。じゃあ、進めて」


 台詞を次に進める。出て来たのは、


"Let us be the first to congratulate you on your wise decision to sign up for this adventure."


 という一文。

 

「congratulate=お祝いする、だよね。wise=賢い、decision=決断……」


 考え込んで知恵熱が出そうになって居るヒナ。とはいえ、それは僕も似たようなもので。


「そもそも、同じような台詞あったっけ?」

「私も、覚えてないよ」


 一度、言語設定を「日本語」にして再起動する。すると、出て来たのは


"こちらは、無人島移住パッケージの手続きカウンターでございまーす!"


 だった。これっぽっちもつながっている気がしない。congratulateもwise decision全然出てこないじゃないか。


「ねえ、ヒナ。僕、重大な問題に気が付いてしまったんだけど」

「なに?」

「たぶん、台詞が1対1で対応してないんだ……」

「……そうかも」

「止めようか」

「うん」


 こうして、あつ森で英語を勉強してみよう、という試みは失敗したのだった。


「あ、もう夕方だ……」


 気が付けば、夕日が差し込んできている。


「ほんとだね。全然気づかなかった」


 二人して何をしていたのだろうかと思う。


「全然勉強にならなかったね。ゆうちゃんが変なこと言うから」

「僕は悪くない。このソフトが悪いんだって」


 そんなことを言い合い、なんだか、おかしくなる。


「ちょっと楽しかった。英語で遊んでみようなんて思ったことなかったから」

「僕も普段は思わないけど」


 ともあれ、ヒナが楽しんでくれたので、なにより。少し気持ちが晴れ晴れとする。


「じゃ、そろそろ、帰るね」


 もっと一緒に居たかったけど、それだと、勉強会なんてのはただの口実だってばれてしまうから、悟られないように退散しようとする。


「もう帰っちゃうの……?」

「え?」


 寂しそうな声に、心臓がドクンとなる。


「あ、ううん。なんでもない。また明日ね」

「うん。また明日」


 あわてて部屋に帰って、へなへなと座り込む。まだ、心臓はどきどきしている。

 さっきのヒナの言葉はどういう意味だったのだろう?


 ひょっとして、と思ってしまうけど、なんとなく寂しかっただけかもしれない。


(今夜はまた眠れなそうだ……)


 ほんとに、ヒナは何を思って、あんな言葉を発したのだろう?

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、ある意味吊り橋効果、があったのかも。
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