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異世界に召喚された俺は、ご立腹したお嬢様を餌付けで宥めることにした。  作者: 原案:ダンディ高松 執筆:長串望 加筆:ダンディ高松
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1-7

 いつの間にか謎のおっさんが紛れ込んでいたが、まあ、本人たちが平和ならそれでいいんだろう。

 俺は、なにも、見なかった。

 

 そろそろ飽きてきたらしい子どもたちに別れを告げて、俺たちは、というかイヴは足取りも軽く村の畑を見て回った。勿論、貴族のお嬢様には畑が珍しいとか、作物の実り具合を見ているというわけではない。

 子供たちの証言以外にも荒らされている畑があれば、それもまたゴブリンの仕業かもしれんと思っているのだ。


 そうやって頭にゴブリンを思い浮かべてものを見れば、なんでもかんでもゴブリンのせいに見えるだろうさ。

 とはいえ、だ。

 俺はそもそもゴブリンなんざ信じていないし、まるっきり疑いの目で見ているが、これはまあ、実際のところよろしくない態度だとは思う。

 常識的にゴブリンはいないものだと俺は頭から決めてかかっているが、俺だって世界の全てを知ってるわけじゃないし、異世界ともなればなおさらのことだ。


 そりゃ、火を噴いたり航空力学無視して飛んだりするドラゴンとかだったら、馬鹿馬鹿しいと笑える。

 だが、ゴブリンならあるいは一般的な生物学の範疇だろう。

 あるいは毛のないチンパンジーみたいな、そういう霊長類の一種かもしれん。

 そんな珍説を心から信じてるわけではないが、それでもそんなこともあるかもなくらいの心のゆとりは大事かもしれん。


 少なくとも、実際に何かしらの生き物の被害は出てるみたいだしな。


 あの子ども、ジャンが教えてくれた家を見に行ってみると、ちょうど男が畑の周りの柵を補修しているところだった。簡素な柵だが、四つ足の動物を防ぐには十分な高さと強度はありそうだった。


「ちょっといいかしら」

「なんだいお嬢ちゃん。暇じゃないんだがね」


 早速上から目線ムーブをかますイヴに、渋い対応の恐らくジャンの父親。そりゃそうだろう。

 悪役令嬢よろしく、ヨシダ、と指を鳴らすので、へいへいと腰の巾着から硬貨を何枚か取り出して男に寄越す。


「よしきた。めっちゃ暇してたんだ。何でも聞いてくれ」


 手のひらの回転速度えっぐいな。ちょろいにもほどがある。

 まあそれほど急ぎでもない仕事してるときに、ちょっと話するだけで今夜の酒代ポイッとくれるんなら上機嫌にもなるわな。


 畑が荒らされたことについて尋ねてみると、ジャンの父親、ドナは肩をすくめた。


「ああ、そうそう。どこの家もな。畑やってりゃ荒らされるのもセットみたいなもんだが、ここしばらく続いててな。カブとか、ニンジンとか、キャベツとか、瓜とか、青菜とか、芋とか。なんでもさ。実っていようがまだ小さかろうが、食えそうならなんでもだ。ネギとかはさすがに食わんらしいが」


 そう言って指し示した畑は、まあ初めて見る家の畑だからはっきりとは分からんが、確かに少し、荒れてるか。土が乱れてるし、倒れてる作物もある。

 それに、なんだろうな。

 イヴも鼻の頭にちょっと皺を寄せて、形のないものを探している。

 妙なにおいがするんだよ。あまり気持ちのいい匂いじゃない。家畜小屋や、畑の肥料の臭いでもない。何かの腐ったような、据えたようなにおいが、うっすらと残っているのだった。


「おう、わかるか。なんかわからんが、臭い。最初はウサギやイノシシかと思ったんだが、どうもこいつは普通の獣臭さじゃない。狼じゃないかっていう奴もいるんだが、狼ってのはこんなにおいがするのか? ここらにはずいぶん出ないからだれも分からん。それに、柵もな、緩んでるところを器用に壊して入ってきたり、場合に寄っちゃ戸を開けたりしてるみたいなんだよ」


 ドナも、これが普通の獣ではないということを察しているらしかった。

 まだ被害はそこまででもないが、少しでも被害が出ているというのは農家としては笑い事じゃあない。ましてそれが防げずに続いているとなると死活問題だ。


「ガキどもの言うことをまるきり信じるわけじゃないが、なんでもその場で食うだけじゃなく、抱えて持って帰る姿も見たって言うんだ。俺もピンと来たぜ。やつだ」

「そう、ゴ」

「イタチだってな」


 ドナはにやりと男臭く笑った。


「奴らは割かし器用で、後ろ足で立ったり、前足を手みたいに使うって言うしな。それにイタチは臭いと聞いたこともある。町の商人に頼んだ罠が届いたら、早速仕掛ける予定さ」


 他の家も回って話を聞いてみたが、大体が狼とか、イタチとか、アナグマとか、そう言うもののせいだろうなと考えているようで、近いうちに罠を仕掛けてやるつもりだとのことだった。

 結局、食害ゴブリン説を主張するのは子どもたちとイヴくらいのものだった。

 まあ、それは、そうなるな。


 そういった常識的な判断を聞く度にイヴはむっつりとストレスをため込んでいくが、まあ仕方のない話だ。

 生活のかかった畑で真面目に食害対策しようとしてるときに、チュパカブラのせいだとか真剣に論じる奴がいたらそいつと同じテーブルで議論はしたくないだろう。


 イヴはすっかりへそを曲げかけていたが、村はずれの薬師のばあさんが、ゴブリンの話を子どもにするので迷惑だという話を耳にして、早速駆けだしていった。

 そうだな。オカルトの話するときはオカルト畑の人としような。


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