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異世界に召喚された俺は、ご立腹したお嬢様を餌付けで宥めることにした。  作者: 原案:ダンディ高松 執筆:長串望 加筆:ダンディ高松
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証言1 ドナの子ジャン(十歳男性)


「あ、ゴブリンだっけ?

 あれは一か月くらい前かな。夜中に物音で目覚めてさ。

 起き出して外出たら、畑のほうでなんか音がしてさ。

 空にゃ月も二つそろって上ってるし、夜も夜だよ。おとうもおかあも寝てるし、そんな時間に畑仕事なんてするわけもない。でも同じ村の中で、よその畑荒らそうなんてヤツいるわけないじゃん。


 だからまあ、最初はウサギとかイノシシかなんかだと思ったんだよね。柵はしてあるけど、兎は柵の下掘ってきちゃうし、イノシシなら壊しちゃうし。たまにあるんだ。

 いっつも荒らされた後は見るんだけど、荒らしてるところって見たことなかったからちょっと気になってさ、こっそり見に行ったら、いたんだよ。勿論ウサギでもイノシシでもなくてさ。

 柵の戸をさ、ひょいって開けて、誰か入ってったんだよ。ちっちゃいから、最初は子どもだと思った。どこの誰だろって。で、見てるうちになんか抱えて走って出てきたんだよ。

 子どもみたいにちっちゃいけど、獣みたいに臭くて、やたらすばしっこくてさ。

 追いかけようにもすぐにいなくなっちまったから、その夜は諦めたんだ。

 

 朝起きたらやっぱり畑が荒らされてて、柵の戸は開いてて、ちゃんと閉めなかったのかっておとうは怒るしさ、ゴブリンの仕業だって言ったらいいわけすんなって殴られるし、たまんないよな」


証言2 シドリの子アンニ(九歳女性)


「少し前なんだけど、夜中に家畜小屋の方がうるさくって、みんな起きたの。

 お母さんがランプに火をつけて、お父さんが小屋を見に行ったわ。それで、うとうとしかけてたら、お父さんのうわって叫ぶ声がしたの。


 驚いて見に行ったら、小屋の中に土と羽毛と血の跡が散らばってたの。

 飼い葉も散らばってて、道具も倒れたりしてて、滅茶苦茶だったわ。

 牛がもうもうって落ち着かずに鳴いていて、なんだかとても嫌なにおいがしたわ。

 すごく嫌なにおい。家畜小屋だから、もちろんいい匂いのするところじゃないんだけど、その中でもとても臭いの。


 お父さんが、鶏泥棒だ、って言うの。確かに、鶏が一羽いなくなってて、きっと飛び散った羽毛とか、血の跡なんかは、その子のだったんだわ。

 血の跡が残ってたからお父さんが見に行くって言って、あたしもついていったの。

 お母さんは駄目よ、危ないって言ったけど、家にいるのも怖くって。

 それで、お父さんについて言ったら、血の跡は森の方に続いてて、それ以上は追わなかったわ。

 お父さんは、狼か何かかもしれないって。

 だから、そのゴブリンって言うのかどうかはわからないけど」


証言3 グレゴワールの子ジロー(十二歳男性)


「俺はまあ、ゴブリンだとかなんだとかの()()()は信じちゃいないよ。

 ちっちゃなガキじゃないんだから。

 でも妙なもんに遭ったのは確かで、それがみんなの言うゴブリンのことじゃないかなってのはあるんだ。


 何日か前に、弟たちを連れて森に出かけたんだ。木の実やキノコ、たきぎを拾いにね。そういうのも大事な仕事でさ。

 ここの領主様はとても良い方で、俺たちに自由に森を出入りさせてくれるし、制限もあんまりないから、ほんと助かってるよ。

 畑で育てたもんだって、売ったり、税として支払ったり、全部自分たちの口に入れられるわけじゃないから、森の恵みは大事だ。だから森に何かあるってのは、死活問題なんだ。


 俺はいつもみたいにたきぎを拾い集めて、弟たちにあんまり離れるなよってちょくちょく言ってやってた。あいつらも馬鹿じゃないし、言われたことを無視しようってわけじゃないんだけど、夢中になると、どうしても忘れっちまうこともあるだろ? だから何度も呼び掛けてやるんだ。


 それで少し森の奥の方に入っていったら、なんか妙なにおいがしたのさ。獣の臭いだ。それも嗅いだことのない奴。それに、少し離れて聞いたことのない鳴き声もした。カラスの鳴き声みたいな、犬の唸り声みたいな、妙なやつさ。


 アンニんちの鶏泥棒で、もしかしたら狼とか、野犬が出たのかもしれないって大人たちが話してたから、俺も気をつけなくっちゃって思って、弟たちを呼びつけて、獣避けの鈴を鳴らしたんだ。ガラガラって。

 そしたら、茂みからなんだか小さな影がすばしっこく逃げてったんだ。ウサギでも、イノシシでもない。でも犬や狼でもなかった。なんだかよくわからない獣だったよ。


 あれがみんなの言うゴブリンかもしれないね」


証言4 マルクの子エティエンヌ(四十二歳男性)


「昨日のことなんですが、ええ、ええ、今日みたいに、森の傍で子どもたちが遊んでいるのを物陰から、あくまで物陰からそっと見守っていたんです。そしたら、そしたらですね、こう、茂みの向こうに何か影がいたんです。

 もしかしたら狼や野犬が隠れているのかもしれないなー、危ないかもしれないなーと思って、私は咄嗟に棒を持って走っていき、追い払おうとしたんです。そうしたら、そうしたらですよ、思ったよりもとても小さな生き物が、恐ろしい速さで逃げていったんです。驚いたなー。あれは驚いた。

 逃げてくれたからよかったけど、もし反撃されていたらと思うと途端に怖くなって、シャツがぐっしょり濡れるほどの冷や汗ものでしたよ」


「おい待て、なん、え、なんだこのおっさん!?」

「ち、違うんです。私は怪しいものでは」

「そうだそうだ! エティエンヌのおじさんは確かに無職でいつも汗かいてて髪も脂っこくてにっちゃり笑うけど悪い人じゃないんだ!」

「表現に悪意がないか!?」

「そうです! いつも物陰からそっと息を殺して見守ってるだけの見守りおじさんで……」

「どういう概念だそれ!?」

「ご、誤解です。私は単に子どもたちが無邪気な微笑みを無防備に見せながら遊んでいるのを眺めていると、私みたいな穀潰しがこの世に生きていることを認めてくれるような気がして呼吸が楽になるだけなんです……!」

「生きてていいわけがないじゃない、あんたみたいな穀潰し」

「イヴさーん!?話がややこしくなるのでやめてもらえます?」


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