プロローグ
新作を書いてみました。降って来たネタを急いで形にしてみました。
僕の名前はアレス。駆け出しの冒険者だ。
僕の故郷は辺境にある名前もない村で、家も裕福な家庭だとはお世辞にも言えなかった。
そんな生活を強いられていた僕は少しでも家族の負担を軽くする為に村を出る事にした。
この世界では五歳を迎えると、神様からスキルという技能が授けられ、その効果によって人生を大きく左右されると言われている。
家族には五歳の時に僕が神様から授かったスキルが戦いに向く物じゃないと思われていて、村の外で生き抜くなんて到底無理だと止められたけど、その静止を振り切って10歳になった僕は村を飛び出した。
命掛けで町を目指し、時にはスキルを駆使して応戦したり囮にしたりして逃げ延びた。
無事に町に着いた後は冒険者登録を済ませ、新人が受け安い仕事を片っ端から引き受け小銭を稼ぐ。
しかし、数日の日時が経ち、僕は先輩冒険者の人達に姑息な洗礼を受けそうになる。
冒険者は誰にも強制されない自由を許される代わりに、日々命懸けの仕事が多い。
その為、溜まる鬱憤も半端ではなく、逆らいにくい若手の冒険者にその矛先が向きやすいのだ。
だが、僕にはその嫌がらせは通用しない。
「な、なんだこりゃ!?」
「おい、新人お前の仕業か!?」
先輩冒険者の人達が酔っぱらってふらふらと近づいてくる。
「うおっ!」
それ以上進ませまいと、僕は更にもう一枚壁を出現させる。
そこに、大きな女性の声が響き渡る。
「こらー! そこのチンピラ冒険者ども! 私達受付嬢の癒しになりうる少年に何くだらない嫌がらせをしようとしてんのよ!」
彼女の名前はニキータさん。猫の獣人でスレンダーな体型をしており、強面の冒険者の人達にも怖気ることなく言いたい事を言う真っすぐな性格で人気を集めているらしい。
「お、おいおいニキータちゃん落ち着けよ。俺達は何も新人を傷つけようとしてる訳じゃなくてだな。長い人生何があるかわからないって事を先輩として教えてあげようとだなぁ」
そうそう、と言わんばかりに他の冒険者達も頷くが彼等の行動は嫌がらせ以外の何者でもない。
「僕は皆さんの好意を嫌がらせとしか受け取れませんでした。本当に僕の事を考えてくれていたなら謝罪します」
僕の言葉にバツが悪かったのか、舌打ちだけして席へと戻って行った。
「アレス君格好いい啖呵だったよ! ささ、依頼の鉄付きを済ませちゃおうか」
「はい、お願いします」
僕は依頼完了のサインが書き込まれた羊皮紙と冒険者カードを提示する。
「はい、手続きは完了! そしておめでとう。アランはこの瞬間からEランクに昇格しましたー!」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ニキータさんにお礼の言葉を述べ、僕は冒険者カードを見る。
そこにはきちんとEランク冒険者と記載されていた。
冒険者にはランク制が採用されており、Fランクから始まりE、D、C、B、Aそして最上級のSまでのランクが存在している。ニキータさんの話によればSランクは世界でも両手で数えるぐらいしか存在しないそうだ。僕もいつかはそんな立派な冒険者になろう!
♦♢♦♢
そう意気込んでから早くも五年が経ち、15歳となった今では僕は夢にまで見ていたSランク冒険者の仲間入りを果たしていた。歴代最速とも言われS級になった事をニキータさんに報告すると我が事のように喜ばれた。
Sランク冒険者は二つ名で呼ばれる事が多く、僕に付いた二つ名は【飛壁のアレス】
僕が授かったスキル【壁魔法】のお陰だ。最初は地面から突き出すようにしか出せなかったが、とある人に師事を受け、様々な応用が可能になった。その中で一番多様していたのが壁を空中に飛ばす使い方で、その光景を多くの人に目撃された結果、二つ名が【飛壁】になった経緯だった。
Sランクになった僕は特定の冒険者ギルドに留まらず、世界中を旅するようになった。
多くの依頼で世界中を回る事になり、依頼で縛られる事なく世界中を見て回りたいという考えに至ったのだ。
こうして僕は日常の様に壁を空中に浮かせ、その上で寝転がりながら旅を続けているのだ。
だが、しかし。そのマイペースな日常が崩れる運命の日が訪れる。
この日も僕はふわふわと何事もなく空中浮遊を満喫していたのだが、遠くで言い争う声が聞こえて来た。
何事かと態勢を変え、地上を見下ろすと一台の馬車に多くの人相が悪そうな男達が襲い掛かっているのが視認出来た。このまま見殺しにしても別に責められる訳ではないのだが、見つけてしまった以上、何もしないというもの気持ち悪いと思い、馬車を助ける事に決める。
「ギャハハハハ! 男は殺せ! 女は犯せ!」
「おら、死ねよ雑魚が!」
そこには血生臭い光景が繰り広げられていた。人売りらしい男は首から血を流して息絶え、男性はズタズタに引き裂かれ、女性の多くは衣服をはぎ取られ犯された後に背後から斬りつけられ命を落としていた。
別にこの光景が珍しい訳ではない。だが、だからと言って無関心で平然としていられる程少年の心は腐っていなかった。
「おい、お前達今すぐここから立ち去れ。去るなら生かして帰してやる」
野盗の男達は突然現れた少年を警戒するも、丸腰の旅人としか見えない為、ゲラゲラと大笑いし揶揄い出す。
「おいおい、坊主。正義の味方ごっこなら辞めておけ」
「そうだぜ、ズボンを脱いでケツを差し出せばお兄さんが優しく教えてやるぜえ」
余りにも下種な言動に普段温厚なアインの堪忍袋の緒が切れた。
「そうか、じゃあ死ね『飛壁』」
アレスの短い詠唱でふわりと縦幅2m、横幅1mの巨大な壁が出現する。
野盗の男達はアレスが何をするつもりなのか見当もつかず呆然と立ち尽くしている。
「行け」
指先で男を指すと、空中に浮遊していた壁が勢いよく男達の下へ飛んでいき、軽々と男達を蹂躙し始める。
「ヒ、ヒイィィィ!!」
「く、来るな! こっちへ来るなぁぁぁぁ!」
叫び声をあげて男達は逃げまどうが、外道を生かす程今のアインは慈悲深くない。
ほんの数分で20人は居たであろう野盗たちは文字通り瞬殺され、全員息絶えていた。
アレスは生き残った人を探すが、生存者を見つけるには絶望的な光景だった。
ちっと悔しそうに舌打ちしたところで馬車の奥で物音が聞こえた。もしかすると野盗の生き残りがいるかもしれないと警戒するも、馬車から誰かが出てくる様子はない。
警戒は解かず、恐る恐る馬車に近づき扉を開くも誰の姿も見えず、荷物の箱がいくつかあるだけだった。気のせいか? と首を捻っていた時、箱の一つからコツンと何かが当たる音がした。
そっと近づき、ばっと箱の蓋を開き勢いよく後方に飛びのくも特に反応がない。
再びじりじりと近づき、箱の中身を見るとそこには髪が長い銀髪のボロ服を着た少女が震えていた。
「えぇっ……」
アレスが半分諦めていたたった一人の生き残りであった。
流石に命を助けてはい、さようならという訳にもいかず、彼女を近隣の町へ運ぶ事にした。
遺体を放置すれば魔物が寄って来る為、もう数枚壁を出現させその上に野盗や被害者の遺体を積み重ねていく。全員を乗せ終え移動しようとしたところでふと少女の名前を聞いていなかった事に気づく。
「えーっと、今から近くの町へ君とこの遺体を運ぼうかと思うんだけど名前を聞いてもいいかな? 君とかあんたとかで良いなら別にこれ以上聞かないけど」
「私はイアリスです」
「そっか、俺はSランク冒険者のアレス。世間では【飛壁】って飛ばれてるかな」
アレスの言葉にぎょっと目を見開くイアリスの反応が新鮮でアレスは少女と遺体の運搬を開始する。
暫くして、それなりの大きさの町が見えてくる。アレスはゆっくりと速度を落とし、門前に着地する。
「止まれ! 貴様何者だ! それに後ろの大勢の遺体はなんだ!」
門番の兵士が警戒心を露わにし、武器をアレスに向ける。
「僕はSランク冒険者の【飛壁】のアレス。後ろの遺体は馬車が襲われていたので救援に向かうも一歩間に合わず一人を残し全滅した被害者の遺体と、その彼等を襲った野盗達の遺体です」
言葉と同時にSランクを証明する冒険者カードを提示され、アレスの言葉を聞き驚愕する兵士達だがすぐに門番の一人が応援を呼び、大人数の兵士を連れて戻って来た。
暫く兵士全員で遺体の身元を調べていたが、最初に会話をした門番の男性がアレスに声を掛けて来た。
「【飛壁】殿、先程は失礼した。調べた所奴等は手配中の野盗一家だった可能性がある。被害者は奴隷商の運搬役と奴隷だったらしい」
「そうですか。荷物の少なさからそんな気はしていたけど空しいですね」
「ええ」
二人で静かに今も身元の確認の様子を眺めていると、アレスの服の裾を引っ張られている事に気づき後ろを振り向くと、イアリスがボロ服の上に布を一枚羽織るだけの状態でアレスを見詰めていた。
流石に女の子をこのままにしておけないと思い、門番に宿の場所を尋ねる。
「すいません、門番さん。彼女の服や汚れをどうにかしてあげたいんですけど」
「あっ、これは気が利かないで申し訳ない」
そう謝罪され、宿の場所や服を売っている場所を教えて貰い町へと入る。
先に服屋へと向かい適当に見繕い宿へと向かう。
運よく宿には風呂が隣接されていたらしく、彼女は汚れや臭いをようやく落とせると喜んでいた。
先に彼女を入らせ、宿泊する部屋で待っていると入り口をノックされる。
コンコンコン
「どうぞ」
入って来たのは絶世に美少女だった。背はそれほど高くはないが、アンバランスな程大きな双丘にキメ細かい銀髪が柔らかく靡いており、御伽噺の世界から飛び出してきたのかと勘違いをした。
「私の命を助けて下さり、ありがとうございましたアレス様」
ぺこりと頭を下げられ僕は正気に戻る。
「気にしないでくれ。偶々だったし素早く動けば他にも助けれた人がいたかもしれないのに」
「それこそ気にしないで下さい。それに奴隷商に集められたのは身寄りがいない者達ばかりだったらしく、皆赤の他人でしたから」
「そうか、それじゃあイアリスを助けれただけでも幸運だったと思っておくよ」
「はい。それでアレス様に一つお願いがありまして」
何だろうか? 元が奴隷だったという事は売り飛ばした先があるって事だよな? 故郷に送ってくれとかだろうか?
「実は私、ゴールド公爵家のご令嬢マリー様にお使いしていたのですが、突然彼女の顰蹙を買ってしまいまして今回奴隷として売られてしまったのです」
「それはイアリスがその令嬢をとんでもないミスで怒らせたってこと?」
「いえ、お嬢様は何かと癇癪持ちな所がありましてどのような理由で怒りだすのか分からない爆弾のような方でした」
うわぁ……とアレスはそんな奴と知り合いたくないなとドン引きする。
「それで、お願いと言うのは貴方様に私の身請けになって頂きたいのです。公爵家の怒りに触れた私は誰かに見つかればまたしても奴隷として売られるでしょう。そうならない為には相応の力の持ち主の庇護下に入るのが一番安全だと思ったのです」
「なるほどね。仮にイアリスは僕が身請け人となった場合どんなメリットを提示できる?」
「公爵家にお仕えしていたスキルがありますので、家事全般、戦闘も多少は出来ます。後はその、経験はありませんが夜伽も貴方様が望むのであれば私は喜んで身を差し出します」
アレスは正真正銘の健全な15歳の少年である。正直味気ない料理事情が改善されるだけでも願ってもない申し出だった。それがこんな美少女から身体を許されるなんてアレスのアレスが反り立つというものだ。だがアレスは同時にヘタレだった。
万が一初めての経験で『ご主人様早いですね』とか『小さくて可愛いですね』なんて言われた日には自ら壁魔法に挟まれて圧死したくなるだろう。そんな恐れからヤラせてくれなんてとても言える物ではない。
「その申し出は物凄く嬉しいけど、最後のはもっと関係を深めてからにしようか」
顔を真っ赤にさせ、自分は未だに青い果実ですと宣言しているようなものだった。しかし、イアリスはそんな主を愛おしく思い、口にする。
「それではご主人様、以後よろしくお願いいたします」
アレスはこんな美少女と二人旅で今後の生活が楽しみでもあり、知り合いに見つかったらなんと言われるかと想像し、頭が痛くなる想いだった。
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