何でも願いを叶えてあげます。
私は悪魔。こう見えても、困っている人間を助けてやるのが仕事なのです。
人間の願いをなんでも叶えてやる代わりに、それと釣り合う対価を支払ってもらう。
最近は契約した人間が死んだ後に、対価として遺体をいただくことにしています。そう言うわけで、人間の身体の構造についてはあらかた理解が深まってきました。
こんなに良心的で、無欲な悪魔は私を置いて他にはいないのではないでしょうか。
深夜の住宅街。
「さて、夜も深くなってきた。今日はそろそろ引き上げようか」
そう思っていると、どこからか若い女性のかん高い怒鳴り声が聞こえてくる。
感情的になっているあたり、男女関係のもつれか何かでしょう。
これはいいお客になりそうだ。女性が路肩に出くるのを待ち、向かい合う形で声をかける。
「お嬢さん、こんばんは。今日は辛い目に遭いましたね」
「ちょっと、なんなんですか!構わないでください!」
女性は目を腫らした顔に似合わずハキハキした口調で応対する。
「私はあなたの願いを何でも叶えてやることができます。信じられないかもしれませんが、私は悪魔なのです。つかぬことをお聞きしますが、そのわだかまりを今ここで晴らして行きませんか?」
「結構です!どいてください」と私を追い抜いていく。
「あのう、例えば、爽やかな好青年と運命的な出会いを果たすとか、永遠の愛が欲しいとか、そういったことなら叶えてあげられますよ」
女性はこちらに振り返り、怪訝な表情を見せる。
「なら、この世から浮気男をみんな消してください。そんなこと出来るわけないでしょう」
「もちろん出来ますよ。ただし、それに応じた対価をいただきます。あなたがいつか死んだ時に、その遺体を私にください。どうなされるかはあなた次第ですよ」
そう言うと、女性の態度は先ほどと打って変わる。
「死んだ後でいいなら、そんなもの勝手に持っていってください。もうこんな…こんなに悲しいのはたくさんです」
「かしこまりました。これより世の女性の悲しみが報われますように。」
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あれから数日が経ちましたが、男の浮気事情に関する取引は一切無くなりました。当然ながら浮気男はもうこの世にいませんから。
しかし、この男性ときたら。
「毎日、好きな時に好きな女と寝たい。それってできる?死んだ後の身体なんかいくらでもくれてやるよ」
「かしこまりました。それでは良い性生活を」
どうしたものか。誰かの願いが、誰かの悲劇を生んでしまうのです。