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第九話 誰も裁けない紅蓮団を俺が裁く

 次の日朝起きた俺達はルーシーの分の杖を強化することにした。

戦えるとは言っても彼女が持っているのはそう強いものでは無いようだった。


言ってしまえばとりあえず杖としての形を持っているだけのおもちゃ。

しかし体だけでも杖なのならば俺のスキルは効果がある。スキルは魔法の効果アップでも付けるつもりだ。


「また来たのか…」

「これで最後だ。メンバーは集まったんであの塔に挑むだけだ」


またあの工房にやってきた。

いつも通り金を支払って場所を借りる。


「なぁ…お前俺のとこで働かねぇか?」

「は?」


俺が準備をしていると男がそう言ってきた。


「いや、冷静に考えたよあの後。お前の爺さんは天才の鍛冶屋だったしその息子であるお前が俺の店にいてくれるなら売上も上がるんじゃないかってよ」

「悪いが無理だ。俺は塔を攻略する」


ここまで来て鍛冶屋になるつもりはない。


「空いている時間だけでも構わないんだが」

「いや、辞めておく。俺は塔の攻略に専念したい」

「そうか。変な事言って悪かったな」


俺が改めて断るとそう納得してくれた男。

その後黙ってただ作業を続けた。



 ルーシーに武器を渡した俺達はとりあえずギルドへ向かうことにした。

目的はもちろん塔攻略作戦の参加申請だ。


ギルドの扉を開き中に入ると冒険者達の視線が俺達に向かってきた。

丁度ギィという開閉音が鳴ったからだろう。


「あ、フレイ」


視線を注いでいたその中の1人マリーが俺に気付いて近寄ってきた。


「また会えたね」


にっこりと笑ってくれる彼女。


「おい、ゴミ言ったよな?俺の前にツラ見せるなって」


しかしそれとは反対にジェガルは相変わらずな言葉を並べて俺の胸ぐらを掴んでくる。


「ジェガル」


それを止めてくれるマリー。

事を荒立てたくないしこうして止めてくれるのは有難い話だがこいつには離す様子は見えない。


「離してくれないか?それとお前の前に面を出したつもりは無い。これ以上は俺もお前とは話したくないし」

「雑魚がイキってんのか?俺の視界に入るなって言ったのを理解できなかったか?」


俺の顔を見てその顔を歪める。その顔は俺を殴ったり蹴ったりして、いじめていた時のものと同じだ。


「その手を離して」


言い合っていた俺とこいつの間に入り込んでくれたミーシャ。

その言葉を受けてようやく手を離したが、今度は声を出して笑い始めたジェガル。


「おいおいおい、女の子に守られてんのかお前。情けねぇな」

「…」


その言葉に何も答えずにミーシャ達を促してカウンターへと向かう。こいつと話していても時間の無駄だ。


「とっとと帰んなゴミスキル持ちの坊ちゃん。ここはお子ちゃまが来るような場所じゃないでちゅよー」


そう言ってマリー以外の仲間たちと声を大きくして笑い始めていた。


「塔攻略の作戦に参加したいのだが」


代表して俺が受付と話す。カウンターにいた受付嬢は綺麗な黒髪を伸ばした女の人だった。

その人に先日書き上げた書類を手渡した。


「はい。参加申請ですね。お待ちください」


そう言って奥へと引っ込んで行った。

その間に暇なのかまたジェガル達が近付いてきた。


「ほんとに参加するとかゴミスキル持ちは頭もゴミなんだな」

「どうやらそのようだな。こいつは前から馬鹿だったからな」

「前からこれは頭の治療が必要でしたから」


ジェガルとガルド、それからヒルドがそう言い合って笑い始める。


「なぁ、ゴミ」

「…何だ」

「俺と勝負しねぇか?どっちが先に高層に行けるかってよ。勿論ただ勝負するだけじゃつまらん。お前が俺に負けたらお前を不敬罪でガーディアンの餌にする」


なるほどな。それはいい考えだと俺も思う。


「俺が勝てば?」

「お前が俺に勝てることなんてないからその言葉は必要ないだろ?」


そう言って笑っているが自分の考えを口にしておくことにした。


「俺が勝てばお前らをギルドに裁かせる。奴隷の件。言い逃れは出来ないと思え」

「奴隷の件というのは何のことだ?ジェガル」


その時カウンターの奥から人がでてきた。やってきたのはまだ若い少女だった。若いとは言っても俺たちとそう変わらないが。金色の髪を腰まで伸ばしてキリっとした金の瞳を持った少女。


「これはギルドマスター殿。雑魚に絡まれて大変なんだよ。紅蓮団はSランクで踏破まで噂されている実力者。だからこそ良からぬ噂も立つんだよ。この雑魚の言うことなんて気にしないでくれ嫉妬だから」


そう言って横目で俺を見るジェガル。


「それとも、ルディアの発展に貢献している俺よりもこんな無能で雑魚の言い分をギルドは信じるのか?」

「………いや、これからも頑張って欲しい」


そう言うと満足そうな顔をするジェガル。

ギルドも紅蓮団の活躍は一目置いているからこそ、黒い噂があっても積極的に調査しないのが現状だ。


しかし俺は知っている、こいつらはブラックパーティなことを。暴力はありだし報酬は支払わない、いじめも何でもありだと考えている奴らだということを、許せるわけがない。

ジェガルとの会話を終えてから俺の顔を見る少女。


「こんにちは。君がフレイでいいんだよね?」

「あぁ。俺がフレイだ」

「私はギルドマスターのスノウ。よろしくね」


そう言って差し出してきた手を握り返す。


「書類には目を通したけど…参加条件は満たせてなかったよ」

「どうして?」

「君たちのランクが低いから。今回私達は本気で塔を攻略しようとしてるから、参加してもらってるパーティのランクはかなり高いもの揃いなんだ。そのパーティランクは最低Aランク」


何だ…パーティランクって。


「悪いんだけどフレイ、君たちのパーティのランクじゃ、参加条件すら満たせてないんだよ」

「そうなのか?」

「そうなのか?ってちゃんと募集条件見た?きちんとAランク以上って明記されてると思うんだけど」


確認はしていない。人数制限があったのを読んだだけだ。


「じゃあどうすればいい?」

「悪いんだけど無理だよ」


首を横に振るスノウだった。


「俺たちと同じ作戦に参加できると本気で思ってたのか、お前。それと餌確定な。参加出来ないならどうしようもねぇもんな。これならギルドの力を借りて進む俺が踏破するに決まっている困っちゃうなぁ」


相変わらず愉快そうにゲラゲラ口を開けて笑うジェガル。

俺の肩を軽く小突いてくる。何度も何度も小突いてくる。


「…」

「あの塔は『紅蓮団』が踏破する。最初の踏破者ってわけ。そんな紅蓮団にお前が所属していたのは我らの汚点ではあるがお前にとっては名誉なことだろう。しかしそれで塔に挑戦できるなんておこがましい考えだと知れ恥と知れ」


笑いながら器用にそう口にするジェガル。

確かにこの辺りで1番勢いがあるのはジェガルが率いる紅蓮団だ。


「よっ!紅蓮団!期待しているぜ!」


そんなこいつらを応援する声まで上がっていた。


「おうよ!俺らは世界を代表してるからな!あの塔を攻略するしお前らと報酬は山分けだ!強いやつはより強くゴミはよりゴミに!世界はそうあるべきだからな」


ゲラゲラ笑ってそう高らかに宣言するジェガルだった。

その後言いにくいことなのか俺の耳元で囁くジェガル。


「フレイ…お前には紅蓮団の名を汚した罪もある。この世の地獄を見てもらうからな?」

「…」

「お前が、あの天の塔を攻略するなんて、1億年早いんだよゴミ。その辺の道草でも食ってろ。そしてガーディアンの餌になれ」


そう言ってゲラゲラ笑いながら去っていくジェガル。

その言葉には一切答えない。こいつの言っていることはただの妄想だ。答える必要なんてない。

代わりにスノウの顔を見た。


「参加は諦める」


参加できないものは仕方ない。

ギルドから出るために踵を返す。


「諦めるの?」


ミーシャが聞いてきたが参加出来ないなら仕方ない。


「あぁ。『参加』は諦める」


そう答えて訳の分からなさそうな顔をしたミーシャ達を連れてギルドの外に出ることにした。


「フレイ」


去り際にマリーがまた声をかけてきた。


「…諦めないよね?今回もパーティ作って参加しようとするくらいだし」

「当たり前だ。どんな手を使ってでも登りあのゴミクズに土下座させる」


仲間たちと笑い続けるジェガルに目をやってからそう言って今度こそギルドを後にした。



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